2015年9月9日星期三

竜生で一番長い日

太陽の下、私は翼を拡げる。
身体を風の精霊が撫でていく。
昼間に空を自由に飛び回る事がこんなに気持ちいいなんて、知らなかった。
棲家にいた頃も、飛べるのは夜だけだった。
星空の下も悪い訳ではないけれど。アフリカ蟻


ーーーやっぱり太陽の下がいい。


今や私を追いかける人間達は遥か後方だ。

もう人間の目視では私の姿を捉える事など出来ないだろう。
気分が高揚してくる。

だが、空を飛んで興奮ハイ状態になっている場合ではない。
さて、これからどうしよう。私は頭を巡らせる。


・・・正直ぶっちゃけノープランである。


そして兄とルークは仲良くやっているだろうか。

・・・どうしよう。まったく自信が無い。想像もつかない。
相当な無茶振りをした自覚があるのだ。人間を深く憎悪している兄に、彼ルークをたった一人で相対させるなど。
あの時は他に方法が無いと無理を通してしまったのだが。
今考えると不安で堪らない。
うっかりルークが兄に殺されたりなんかしてたら。考えて震え上がる。なんてことだ、笑えない。
なんだかもう現実逃避で、いっそ地平線の彼方まで飛んでいってしまいたい様な気分になる。
・・・いや、しないけど。

さて、人間達に見付からないように何処かで着陸しなければ。

今回の事で、いかに人間達かれらが竜を求めているかがよく分かった。

今の便利な生活が、いつか終わりがくることを受け入れられないのだろう。
竜片が尽きかけていることに気付いていながら、見て見ないふりをしているのだ。何処かに不安を感じながらも。

だからこそ、そんな中突如現れた竜にこんなにも熱狂したのではないだろうか。

ーーー前世の世界でも、何度も限りがあると言われていたものがあった。
枯渇すると、何度も警告をされているものがあった。

だが、それに対して私が何かをしたという記憶はまるで無い。

・・・きっとそういうものなのだろう。無くなるまで、失うまで。
本当の意味で気付く事など出来ないのだ。


『・・・ユフィ。無事か?』

そんな事をつらつらと考えながら飛んでいたら、兄から思念が届いて、私は精霊達に耳を澄ませる。

『・・・今、お前の言っていた人間と共にいる。』

・・・少々思念が苦々しい。だが、ルークの生存を確認して私はホッと胸を撫で下ろす。
さすがはルーク。ありがとうルーク。君の対竜能力の高さに私は涙を禁じ得ない。

『ーーーそう。良かったわ。私は無事よ。お兄様は大丈夫なの?怪我の具合は?』

私も思念を送り返す。

『ああ、問題ない。・・・心配をかけたな』

そう兄が返事を寄越し、私は心底安堵する。どうやら最悪の事態は脱したようだ。
あとは私が無事彼らと合流できれば完璧なのだが。

『お兄様、ルークと仲良くしてる?』

私は思わず気になっていた事を聞いてみた。
・・・返答は無かった。そうか、ダメか。

しばらくの沈黙の後、兄から再度思念が入る。

『・・・その人間から伝言だ。日没になってから闇に紛れて何処かに降りて、人間型でなんらかの交通機関によってベルフィスの町の方向に戻れ、だそうだ。』

・・・ざっくりである。ルークも如何せんどうにもし難いのだろう。蔵八宝
だが、逆に元の場所に戻るというのは良い考えかもしれない。
竜狩人や軍隊も私を追い、こぞってあの街を出て行っただろうし。

取りあえず日没までの時間稼ぎをすべく、私はなるべく高度で四方八方を適当に飛びまくった。

そして飛びながらベルフィスの街へ戻る方法を考える。

・・・何らかの交通機関とは一体何があるのだろう。
乗り合いの四輪車なんかは見た事があるが。それはベルフィスの街へ向かうだろうか。
頭がぐるぐる空回る。ああ、己の無計画さが呪わしい。

しばらくそんな風にふらふらと飛んでいると、ふいに遠い地上を走る一台の四輪車を私の目が捕らえた。
その窓から身を乗り出して風景を見ている美しい女性に、私は見覚えがあった。

ーーーどうやら神は私を見捨てなかったらしい。


『・・・セレスさんだ・・・!!!』


未だ元気そうな彼女を見て、私は泣き出しそうになった。


彼らの向かう先を遠く先回りして着陸し、人間型になると、竜型時に爪に引っ掛けて運んでいた鞄から服を取り出し身に纏った。
そして荒野を真っ直ぐ走る道の横で彼らの到着を待つ。
しばらく待つと、ジグさんとセレスさんの車が近付いて来た。
私は道に飛び出して手を振る。

するとそれを見たセレスさんとジグさんも驚いて車を止め、中から飛び出して来た。
彼女のその滑らかな歩行に私は顔が綻ぶ。

「・・・!ユフィ?ユフィなの・・!?」

私を確認すると、セレスさんの顔がみるみる笑顔になる。

「セレスさん・・・!」

数カ月ぶりに会う彼女は、想像していたよりもずっと元気そうだった。
私も思わず笑顔になる。

「まぁ、ユフィ・・・!会いたかったわ・・・!」

そう言って本当に嬉しそうに抱き締めてくれるセレスさんに、私も抱き付いた。
ジグさんも嬉しそうに笑ってくれる。

そして町から遠い荒野の真ん中で、独りぽつんと立っていた明らかに怪しい私を、何も聞かずに車の中に招いてくれた。

「・・・色々あって、ルークとはぐれてしまったので、近くの街まで送ってもらえませんか?」

彼らにそうお願いをしてみる。とりあえずどこかの街出られれば、某かの交通手段があるだろう。
ーーーだが。

「そんな水臭い事言わないで!どうせなら、目的地まで送るわ!」

と、セレスさんが真剣に言ってくれる。
私は驚いて首を横に振った。
そんな迷惑はかけられない。そう断ったのだが。

「君には返しきれない恩がある。ーーーそんなことお安い御用だ。是非送らせて欲しい」
急ぐ旅でもないしな。そう言ってジグさんも笑ってくれた。

そしてあれよあれよとベルフィスの街が目的地である事を吐かされ、四輪車は方向転換をする。

「本当にありがとうございます・・・!」

有り難くてたまらない。
私が深く頭を下げ礼を言えば、逆に少しでも恩が返せて嬉しいと二人は言ってくれた。

ここからならベルフィスの街まで四輪車で7時間位だという。

どうやら適当にジグザグ飛んで来たせいで、思ったよりベルフィスの街から離れなかったらしい。

私は急いで兄へ思念を飛ばした。韓国痩身一号
知人に拾ってもらった事。おかげで真っ直ぐにベルフィスの街に向かえること。大体7時間くらいでそちらに到着できること。

『ーーーその人間達は大丈夫なのか?』

不安そうな思念が兄から戻ってくる。
だが、私は笑って返事を返した。

『人間全てが、悪い訳ではないのよ。お兄様』

すると、『・・・そうか』、とだけ兄から返事が来た。
非難めいた言葉が返ってくると思っていた私は少し驚いた。

セレスさんとのガールズトークのおかげで7時間のドライブはあっという間だった。
久々の女性同士の会話はやはり楽しい。

だが、道の途中、この地方の領主の命によって検問が行われていたのにはヒヤリとした。
私は内心震え上がったのだが、セレスさんが私を『妹』だ、と言い張りなんとか事無きを得た。
本当に妹のようなものだと思ってるからいいのよ、と悪戯ぽく片目をつぶった彼女は最高だった。

「・・・竜を捕まえるのですって。馬鹿みたいだわ」

検問所を通り過ぎた後、セレスさんがぽつりと呟く。その言葉に私は目を見開いた。

「今更最後の一匹を捕まえた所でなんだというの。焼け石に水だわ。どうせごく一部の上流階級だけがその恩恵に与るのでしょう?・・・ならば自由に空を飛ばせてやれば良いのに」

そして彼女は嬉しそうに言った。今日の朝、空を飛ぶ竜を見たのだと。それがとても美しかったのだと。

ーーー兄だ、と私は思う。

あぁ、早く兄に会いたいな。話を聞き、兄の姿を思い浮かべれば郷愁が胸を締め付ける。
こんなにも長い時間兄と離れたのは初めてだったのだ。

夜遅く、ジグさんの四輪車は無事ベルフィスの街に到着した。

彼らはルークの元まで送ると言ってくれたが、丁重に断った。
もう二度と会えないかもしれない。そう思うと別れがたいが、セレスさんとジグさんの貴重な時間をこれ以上邪魔する訳にもいかない。

・・・それに、なによりも兄の気配を感じて。すぐにでもそこに行きたくて。

丁寧にお礼を言ってセレスさんとしっかり抱き締め合い、別れを惜しんだ後、すっかり暗くなった街を、私は兄とルークに向かって走り出した。





「お嬢さん。ちょっと良いかい?」

だが、私が深夜の街中を一心に走っていると、突然見知らぬ男に声をかけられる。
そして、あっという間に数人の男達に囲まれた。
・・・竜狩人だ。彼らの風貌で私は判断する。

まだ街の中に残っていたなんて。思わず舌打ちしそうになるのを必死に堪える。

「・・・何か用?私急いでいるんだけど?」

内心の動揺を隠しつつ、私はそっけなく言う。

「悪いがちょっと付き合ってくれないか?近くで白竜が見付かった事はお嬢さんも知ってるだろ?それでこの辺で銀の髪をしてる奴等にはみんなギルドで検査を受けてもらってるんだ」

白竜の人間型は銀髪と決まっているからな、と彼らは笑う。

バクバクと心臓が打ち鳴らされる。何て事だろう、ここまで来て・・・!
銀の髪の人間はそう多くない。だから総浚いと言う訳か・・・!
帽子でも被っておけば良かったと私は後悔する。

「まあ、竜ってのは大層な美形揃いだそうだから、お嬢さんが竜ってことはなさそうだけどな」壮天根

可愛いけど美女って感じじゃないよなぁと男共はゲラゲラ笑い合う。

悪かったな!!だったら見逃せよ・・・!!と色々傷付きながら私は思った。ーーーその時。

「ユフィ!何処だ!?」

少々離れた場所からのルークの声に私は顔をあげる。
人間を遥かに越える聴力がその音を拾う。

ーーーああ、会いたかった。・・・でも、怖い。
安堵と恐怖が同時にやって来る。
何かが喉をつまらせて「ここよ」と声を上げることができない。

すると、目の前の男が私の腕を掴んだ。

「きゃあ!」

驚いて私は短い悲鳴を上げた。

「俺らだって手荒な真似はしたくねえんだよ。・・・ギルドに来てもらって軽く検査と質問に答えてもらうだけでいいからさ」

だからそれが大問題なんだよ!と私は心の中で叫んだ。
やっちまうか・・・やっちまうしかないのか・・・!
手荒な真似をしようと、私が思わず拳を握りしめた時。

慣れた気配を背中に感じた。
それが彼だとすぐに分かる。だってこの一年間ずっと一緒にいたのだ。

「・・・俺の彼女に何か?」

走って来たのだろう、息を切らせながらルークが私の肩を抱き寄せ、目の前の竜狩人達を睨め付けた。
彼に自然に触れられて、私は心臓が高鳴る。

「ルーク・・・」

不安げに名を呼んで彼を見上げれば、彼は私を安心させるようにいつもの笑顔を見せてくれた。
もう二度とその笑顔が見れないと思っていた私は、思わず涙ぐむ。

私がルークにしがみつくと、目の前の男達は「・・・なんだ、あんたの恋人か。悪かったな」と大人しく引き下がって去っていった。

きっと竜狩人に抱きつくアホな竜などいないと判断したのだろう。・・・ここにいるが。
きっと見た目のレベルが竜じゃないと言うのも大きいのだろう。・・・竜なんだが。

彼らが見えなくなると、ルークは私を離し、両肩をがしっと掴んで私を確認するように上から下までをじっくり眺めた。

「ル・・・ルーク?どうしたの?」

鬼気迫るようなその様子に私は不安になって聞いた。

「・・・ユフィ、どこにも怪我は無い?」

確かめるように言われ、その雰囲気に飲まれた私はコクコクと頷いた。

「あああ〜!!良かったぁぁぁ・・・!!」

すると彼がそんな事を吐き出すように言い、脱力してしゃがみ込んだ。
な・・・何だと言うのだろう。

「だ、大丈夫だよ・・・?私は人間よりずっと丈夫だし」

そんなに心配させてしまったのかと、私はあわあわと我が身の丈夫さをアピールする。
するとルークは笑って立ち上がると私の頭を撫でた。

「ーーー行こうか。お兄さんが四輪車で待ってるよ」左旋肉碱

そう言って、そしてこちらに向かって差し出された手に私は自分の手を重ねる。
私の正体を知った今も、こうして彼が何も変わらず接してくれる事に涙が溢れた。

「・・・ありがとう、ルーク」

震える声でそう言えば、彼は私の手をギュッと握ってくれた。


ふたりで町外れに止めたという四輪車に向かう。
話を聞けばルークは思いの外、兄と上手くやっているらしい。

本当に凄いよ・・・!アンタの竜コミュニケーション能力・・・!
さすがはコアな竜オタクである。私は感動した。

そう言えば私もあっという間に彼のペースに巻き込まれて一緒に旅をする事になったんだった。
きっと兄も巻き込まれてしまったのだろう。

1年前の事を思い出して私は笑ってしまった。

「・・・しっかしユフィのお兄さんって、色々天然だよね」

とルークに笑いながら言われ、私は背中に冷や汗をかく。
何を言ったんだ、そして何をしたんだ、兄よ・・・!

「そう言えばユフィのお兄さんの名前、なんていうの?」

聞いても教えてくれないんだよねえ、とルークはちょっと不満そうに言った。
あら、名乗りもしやがりませんでしたか。兄よ。
まあ、彼の状況では致し方あるまい。

「・・・アルフレート、よ。母はアルフって呼んでいたわ」

「へえ、光アルフかぁ。・・・良い名前だね。」

「・・・本人と名前との乖離が激しいとか思ってない?」

そう言って私が笑えばルークも笑った。
どっちかというと、根暗なイメージだもんなあ。兄。

ルークとそんな話をしながら歩いていくと見慣れた四輪車が視界に入った。
・・・そこにある、世界中の誰よりも近しく慕わしい気配も。

私は居ても立ってもいられなくなり、走り出した。

そして四輪車のドアを開けた瞬間。中に引き込まれ、強く抱き締められる。

ーーーその匂いも温もりも。
私は、自分の半身に邂逅したような充足感に満たされる。

そこは懐かしくて、世界中のどこよりも私が安心できる場所。
誰よりも深く私を愛し、何よりも私を慈しんでくれる場所。

「ユフィ・・・ユフィ・・ユーフェミア・・・!」

私の首筋にその麗しい顔を埋めて、兄が呻くように私の名前を連呼する。

私も兄の背に腕を回す。そして傷を負ったその背中をそっと撫でた。


・・・これまでの竜生で、最も長かった一日がようやく終わろうとしていた。漢方薬

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