2015年4月28日星期二

冒険者らしいお仕事

ブルックの町のから中立商業都市フューレンまでは馬車で約六日の距離である。

 日の出前に出発し、日が沈む前に野営の準備に入る。それを繰り返すこと三回目。ハジメ達は、フューレンまで三日の位置まで来ていた。道程はあと半分である。ここまで特に何事もなく順調に進んで来た。ハジメ達は、隊の後方を預かっているのだが実にのどかなものである。巨根

 この日も、特に何もないまま野営の準備となった。冒険者達の食事関係は自腹である。周囲を警戒しながらの食事なので、商隊の人々としては一緒に食べても落ち着かないのだろう。別々に食べるのは暗黙のルールになっているようだ。そして、冒険者達も任務中は酷く簡易な食事で済ませてしまう。ある程度凝った食事を準備すると、それだけで荷物が増えて、いざという時邪魔になるからなのだという。代わりに、町に着いて報酬をもらったら即行で美味いものを腹一杯食うのがセオリーなのだとか。

 そんな話を、この二日の食事の時間にハジメ達は他の冒険者達から聞いていた。ハジメ達が用意した豪勢なシチューモドキをふかふかのパンを浸して食べながら。

「カッーー、うめぇ! ホント、美味いわぁ、流石シアちゃん! もう、亜人とか関係ないから俺の嫁にならない?」
「ガツッガツッ、ゴクンッ、ぷはっ、てめぇ、何抜け駆けしてやがる! シアちゃんは俺の嫁!」
「はっ、お前みたいな小汚いブ男が何言ってんだ? 身の程を弁えろ。ところでシアちゃん、町についたら一緒に食事でもどう? もちろん、俺のおごりで」
「な、なら、俺はユエちゃんだ! ユエちゃん、俺と食事に!」
「ユエちゃんのスプーン……ハァハァ」

 うまうまとシアが調理したシチューモドキを次々と胃に収めていく冒険者達。初日に、彼等が干し肉やカンパンのような携帯色をもそもそ食べている横で、普通に“宝物庫”から取り出した食器と材料を使い料理を始めたハジメ達。いい匂いを漂わせる料理に自然と視線が吸い寄せられ、ハジメ達が熱々の食事をハフハフしながら食べる頃には、全冒険者が涎を滝のように流しながら血走った目で凝視するという事態になり、物凄く居心地が悪くなったシアが、お裾分けを提案した結果、今の状態になった。

 当初、飢えた犬の如き彼等を前に、ハジメは平然と飯を食っていた。もちろん、お裾分けするつもりなど皆無である。しかし、野営時の食事当番をシアが受け持つようになってから、外で美味い食事にありつくにはシアを頼る必要がある。ハジメもユエも、作れないわけではないが、どうしても大味なものになってしまうのだ。ハジメは男料理ゆえに、ユエは元王族らしく経験がないために。なので、美味い飯を作ってくれるシアに、お裾分けを提案されては、流石のハジメも断りづらかった。

 それからというもの、冒険者達がこぞって食事の時間にはハイエナの如く群がってくるのだが、最初は恐縮していた彼等も次第に調子に乗り始め、ことある事にシアとユエを軽く口説くようになったのである。

 ぎゃーぎゃー騒ぐ冒険者達に、ハジメは無言で“威圧”を発動。熱々のシチューモドキで体の芯まで温まったはずなのに、一瞬で芯まで冷えた冒険者達は、青ざめた表情でガクブルし始める。ハジメは、口の中の肉をゴクリと飲み込むと、シチューモドキに向けていた視線をゆっくり上げ囁くように、されどやたら響く声でポツリとこぼした。

「で? 腹の中のもん、ぶちまけたいヤツは誰だ?」
「「「「「調子に乗ってすんませんっしたー」」」」」

 見事なハモリとシンクロした土下座で即座に謝罪する冒険者達。彼等のほとんどは、ハジメよりも年上でベテランの冒険者なのだが、そのような威厳は皆無だった。ハジメから受ける威圧が半端ないというのもあるが、ブルックの町での所業を知っているのでハジメに逆らおうという者はいないのである。

「もう、ハジメさん。せっかくの食事の時間なんですから、少し騒ぐくらいいいじゃないですか。そ、それに、誰がなんと言おうと、わ、私はハジメさんのものですよ?」
「そんなことはどうでもいい」
「はぅ!?」

 はにかみながら、さりげなくハジメにアピールするシアだったが、ハジメの一言でばっさり切られる。

「……ハジメ」
「ん? ……何だよユエ」

 咎めるようなユエの視線に、ハジメは少し怯む。ユエは、人差し指をピッとハジメにつきつけると「……メッ!」とした。要するに、以前約束したように、もう少しシアに優しくしろという事だろう。ハジメとしては、未だシアに対して恋情を抱いていないので、身内への配慮程度でいいだろうと思っていたのだが……ユエ的にアウトらしい。

「ハジメさん! そんな態度取るなら、“上手に焼けた”串焼き肉あげませんよぉ!」

 そして、最近、更にへこたれなくなったシア。ハジメのツンな発言にも大抵はビクともしない。衝撃を受けても直ぐに復活して強気・積極的なアプローチを繰り返すようになった。MANSCENT SMALL芳香劑『正品 RUSH』

「……だから何故そのネタを知って……いや、何でもない。わかったから、さっさとその肉を寄越せ」
「ふふ、食べたいですか? で、では、あん」
「……」

 シアが頬を染めながら上手に焼けた串焼き肉を、ハジメの口元に差し出す。食べさせたいらしい。ハジメは、チラッとユエを見る。ユエは、いそいそと串焼き肉を手に取って何やら待機している。おそらく、シアの「あん」の後に、自分もするつもりなのだろう。

 冒険者達の視線を感じながら、ハジメは溜息を吐くとシアに向き直り口を開けた。シアの表情が喜色に染まる。

「あん」
「……」

 差し出された肉をパクッと加えると無言で咀嚼するハジメ。シアは、ほわぁんとした表情でハジメを見つめている。と、今度は反対側から串焼き肉が差し出された。

「……あん」
「……」

 再びパクッ。無言で咀嚼。また、反対側からシアが「あん」パクっ。ユエが「あん」パクッ。

 本人の主観はさておき、客観的にその様子を見せつけられている男達の心の声は見事に一致しているだろう。すなわち「頼むから爆発して下さい!!」である。内心でも敬語のあたりが彼等とハジメの力関係を如実に示しており何とも虚しいが。


 それから二日。残す道程があと一日に迫った頃、遂にのどかな旅路を壊す無粋な襲撃者が現れた。

 最初にそれに気がついたのはシアだ。街道沿いの森の方へウサミミを向けピコピコと動かすと、のほほんとした表情を一気に引き締めて警告を発した。

「敵襲です! 数は百以上! 森の中から来ます!」

 その警告を聞いて、冒険者達の間に一気に緊張が走る。現在通っている街道は、森に隣接してはいるが其処まで危険な場所ではない。何せ、大陸一の商業都市へのルートなのだ。道中の安全は、それなりに確保されている。なので、魔物に遭遇する話はよく聞くが、せいぜい二十体前後、多くても四十体くらいが限度のはずなのだ。

「くそっ、百以上だと? 最近、襲われた話を聞かなかったのは勢力を溜め込んでいたからなのか? ったく、街道の異変くらい調査しとけよ!」

 護衛隊のリーダであるガリティマは、そう悪態をつきながら苦い表情をする。商隊の護衛は、全部で十五人。ユエとシアを入れても十七人だ。この人数で、商隊を無傷で守りきるのはかなり難しい。単純に物量で押し切られるからだ。

 ちなみに、温厚の代名詞である兎人族であるシアを自然と戦力に勘定しているのは、ブルックの町で「シアちゃんの奴隷になり隊」の一部過激派による行動にキレたシアが、その拳一つで湧き出る変態達を吹き飛ばしたという出来事が、畏怖と共に冒険者達に知れ渡っているからである。

 ガリティマが、いっそ隊の大部分を足止めにして商隊だけでも逃がそうかと考え始めた時、その考えを遮るように提案の声が上がった。

「迷ってんなら、俺らが殺ろうか?」
「えっ?」

 まるでちょっと買い物に行ってこようかとでも言うような気軽い口調で、信じられない提案をしたのは、他の誰でもないハジメである。ガリティマは、ハジメの提案の意味を掴みあぐねて、つい間抜けな声で聞き返した。

「だから、なんなら俺らが殲滅しちまうけど? って言ってんだよ」
「い、いや、それは確かに、このままでは商隊を無傷で守るのは難しいのだが……えっと、出来るのか? このあたりに出現する魔物はそれほど強いわけではないが、数が……」一砲到天亮
「数なんて問題ない。すぐ終わらせる。ユエがな」

 ハジメはそう言って、すぐ横に佇むユエの肩にポンッと手を置いた。ユエも、特に気負った様子も見せずに、そんな仕事ベリーイージーですと言わんばかりに、「ん…」と返事をした。

 ガリティマは少し逡巡する。一応、彼も噂でユエが類希な魔法の使い手であるという事は聞いている。仮に、言葉通り殲滅できなくても、ハジメ達の態度から相当な数を削ることができるだろう。ならば、戦力を分散する危険を犯して商隊を先に逃がすよりは、堅実な作戦と考えられる。

「わかった。初撃はユエちゃんに任せよう。仮に殲滅できなくても数を相当数減らしてくれるなら問題ない。我々の魔法で更に減らし、最後は直接叩けばいい。みな、わかったな!」
「「「「了解!」」」」

 ガリティマの判断に他の冒険者達が気迫を込めた声で応えた。どうやら、ユエ一人で殲滅できるという話はあまり信じられていないらしい。ハジメは内心、そんな心配はいらないんだけどなぁと考えながら、百体以上の魔物を一撃で殲滅できるような魔法使いがそうそういないという常識からすれば、彼等の判断も仕方ないかと肩を竦めた。

 冒険者達が、商隊の前に陣取り隊列を組む。緊張感を漂わせながらも、覚悟を決めた良い顔つきだ。食事中などのふざけた雰囲気は微塵もない。道中、ベテラン冒険者としての様々な話を聞いたのだが、こういう姿を見ると、なるほど、ベテランというに相応しいと頷かされる。商隊の人々は、かなりの規模の魔物の群れと聞いて怯えた様子で、馬車の影から顔を覗かせている。

 ハジメ達は、商隊の馬車の屋根の上だ。

「ユエ、一応、詠唱しとけ。後々、面倒だしな」
「……詠唱……詠唱……?」
「……もしかして知らないとか?」
「……大丈夫、問題ない」
「いや、そのネタ……何でもない」
「接敵、十秒前ですよ」

 周囲に追求されるのも面倒なので、ユエに詠唱をしておくよう告げるハジメだったが、ユエの方は、元々、詠唱が不要だったせいか頭に“?”を浮かべている。なければないで、小声で唱えていたとでもすればいいので、大した問題ではないのだが、返された言葉が何故か激しくハジメを不安にさせた。

 そうこうしている内に、シアから報告が入る。ユエは、右手をスっと森に向けて掲げると、透き通るような声で詠唱を始めた。

 「彼の者、常闇に紅き光をもたらさん、古の牢獄を打ち砕き、障碍の尽くを退けん、最強の片割れたるこの力、彼の者と共にありて、天すら呑み込む光となれ、“雷龍”」

 ユエの詠唱が終わり、魔法のトリガーが引かれた。その瞬間、詠唱の途中から立ち込めた暗雲より雷で出来た龍が現れた。その姿は、蛇を彷彿とさせる東洋の龍だ。

「な、なんだあれ……」

 それは誰が呟いた言葉だったのか。目の前に魔物の群れがいるにもかかわらず、誰もが暗示でも掛けられたように天を仰ぎ激しく放電する雷龍の異様を凝視している。護衛隊にいた魔法に精通しているはずの後衛組すら、見たことも聞いたこともない魔法に口をパクパクさせて呆けていた。

 そして、それは何も味方だけのことではない。森の中から獲物を喰らいつくそうと殺意にまみれてやって来た魔物達も、商隊と森の中間あたりの場所で立ち止まり、うねりながら天より自分達を睥睨する巨大な雷龍に、まるで蛇に睨まれたカエルの如く射竦められて硬直していた。

 そして、天よりもたらされる裁きの如く、ユエの細く綺麗な指タクトに合わせて、天すら呑み込むと詠われた雷龍は魔物達へとその顎門を開き襲いかかった。人初油濕巾

ゴォガァアアア!!!

「うわっ!?」
「どわぁあ!?」
「きゃぁあああ!!」

 雷龍が、凄まじい轟音を迸らせながら大口を開くと、何とその場にいた魔物の尽くが自らその顎門へと飛び込んでいく。そして、一瞬の抵抗も許されずに雷の顎門に滅却され消えていった。

 更には、ユエの指揮に従い、雷龍は魔物達の周囲をとぐろを巻いて包囲する。逃走中の魔物が突然眼前に現れた雷撃の壁に突っ込み塵となった。逃げ場を失くした魔物達の頭上で再び、落雷の轟音を響かせながら雷龍が顎門を開くと、魔物達は、やはり自ら死を選ぶように飛び込んでいき、苦痛を感じる暇もなく、荘厳さすら感じさせる龍の偉容を最後の光景に意識も肉体も一緒くたに塵へと還された。雷龍は、全ての魔物を呑み込むと最後にもう一度、落雷の如き雄叫びを上げて霧散した。

 隊列を組んでいた冒険者達や商隊の人々が、轟音と閃光、そして激震に思わず悲鳴を上げながら身を竦める。漸く、その身を襲う畏怖にも似た感情と衝撃が過ぎ去り、薄ら目を開けて前方の様子を見ると……そこにはもう何もなかった。あえて言うならとぐろ状に焼き爛れて炭化した大地だけが、先の非現実的な光景が確かに起きた事実であると証明していた。

「……ん、やりすぎた」
「おいおい、あんな魔法、俺も知らないんだが……」
「ユエさんのオリジナルらしいですよ? ハジメさんから聞いた龍の話と例の魔法を組み合わせたものらしいです」
「俺がギルドに篭っている間、そんなことしてたのか……ていうかユエ、さっきの詠唱って……」
「ん……出会いと、未来を詠ってみた」

 無表情ながらドヤァ! という雰囲気でハジメを見るユエ。我ながらいい出来栄えだったという自負があるのだろう。ハジメは、苦笑いしながら優しい手付きでユエの髪をそっと撫でた。わざわざ詠唱させて、面倒事を避けようとしたことが全くの無意味だったが、自慢気なユエを見ていると注意する気も失せた。

 ユエのオリジナル魔法“雷龍”。これは“雷槌”という空に暗雲を創り極大の雷を降らせるという上級魔法と重力魔法の複合魔法である。本来落ちるだけの雷を重力魔法により纏めて、任意でコントロールする。わざわざハジメから聞いたことのある龍を形作っている点が何ともユエの魔法に対するセンスを感じさせる。この雷龍は、口の部分が重力場になっていて、顎門を開くことで対象を引き寄せることが出来る。魔物達が自ら飛び込んでいたように見えたのはそのせいだ。魔力量は上級程度にもかかわらず威力は最上級レベルであり、ユエの表情を見ても自慢の逸品のようだ。

 と、焼き爛れた大地を呆然と見ていた冒険者達が我に返り始めた。そして、猛烈な勢いで振り向きハジメ達を凝視すると一斉に騒ぎ始める。

「おいおいおいおいおい、何なのあれ? 何なんですか、あれっ!」
「へ、変な生き物が……空に、空に……あっ、夢か」
「へへ、俺、町についたら結婚するんだ」
「動揺してるのは分かったから落ち着け。お前には恋人どころか女友達すらいないだろうが」
「魔法だって生きてるんだ! 変な生き物になってもおかしくない! だから俺もおかしくない!」印度神油
「いや、魔法に生死は関係ないからな? 明らかに異常事態だからな?」
「なにぃ!? てめぇ、ユエちゃんが異常だとでもいうのか!? アァン!?」
「落ち着けお前等! いいか、ユエちゃんは女神、これで全ての説明がつく!」
「「「「なるほど!」」」」

 ユエの魔法が衝撃的過ぎて、冒険者達は少し壊れ気味のようだった。それも仕方がないだろう。何せ、既存の魔法に何らかの生き物を形取ったものなど存在しないのだ。まして、それを自在に操るなど国お抱えの魔法使いでも不可能だろう。雷を落とす“雷槌”を行使出来るだけでも超一流と言われるのだから。

 壊れて「ユエさま万歳!」とか言い出した冒険者達の中で唯一まともなリーダーガリティマは、そんな仲間達を見て盛大に溜息を吐くとハジメ達のもとへやって来た。

「はぁ、まずは礼を言う。ユエちゃんのおかげで被害ゼロで切り抜けることが出来た」
「今は、仕事仲間だろう。礼なんて不要だ。な?」
「……ん、仕事しただけ」
「はは、そうか……で、だ。さっきのは何だ?」

 ガリティマが困惑を隠せずに尋ねる。

「……オリジナル」
「オ、オリジナル? 自分で創った魔法ってことか? 上級魔法、いや、もしかしたら最上級を?」
「……創ってない。複合魔法」
「複合魔法? だが、一体、何と何を組み合わせればあんな……」
「……それは秘密」
「ッ……それは、まぁ、そうだろうな。切り札のタネを簡単に明かす冒険者などいないしな……」

 深い溜息と共に、追求を諦めたガリティマ。ベテラン冒険者なだけに暗黙のルールには敏感らしい。肩を竦めると、壊れた仲間を正気に戻しにかかった。このままでは“ユエ教”なんて新興宗教が生まれかねないので、ガリティマには是非とも頑張ってもらいたい、などと人ごとのように考えるハジメ。

 商隊の人々の畏怖と尊敬の混じった視線をチラチラと受けながら、一行は歩みを再開した。

 ユエが、全ての商隊の人々と冒険者達の度肝を抜いた日以降、特に何事もなく、一行は遂に中立商業都市フューレンに到着した。

 フューレンの東門には六つの入場受付があり、そこで持ち込み品のチェックをするそうだ。ハジメ達も、その内の一つの列に並んでいた。順番が来るまで暫くかかりそうである。

 馬車の屋根で、ユエに膝枕をされ、シアを侍らせながら寝転んでいたハジメのもとにモットーがやって来た。何やら話があるようだ。若干、呆れ気味にハジメを見上げるモットーに、ハジメは軽く頷いて屋根から飛び降りた。房事の神油

2015年4月22日星期三

会談

扉を開いたその場所に、息を乱して立っていたのは、古族エルフの族長の一人であるロットスであった。
 彼がここに来た理由は理解できる。
 おそらくは、絶対障壁について、説明をしにやってきたのだろう。

 けれど、そこまで急いでやってくる理由が分からなかった。精力剤
 説明など、いつでも出来るし、早急にしなければならないというほどのものでもないだろう。
 古族エルフの秘匿技術であるのだから、説明など出来ることならしない方がいいくらいなはずだ。
 ルルはそう思って首を傾げた。

 レナード国王もルルと同様にそう思ったらしく、息を乱したロットスにまず落ち着くように言い、席を勧めてから尋ねる。

「ロットス殿……そんなに急いでどうされた? 絶対障壁についてであれば、既に解除されたと言う報告をうけております故、それほど慌てていらっしゃることもなかったのだが……?」

 しかしロットスは首を振った。
 それはつまり、彼の伝えに来たことが、絶対障壁が解除された、という話ではないと言う事に他ならない。
 では何を伝えようとしているのか。
 興味を引かれるも、ルルはふと、自分はこの場にいてもいいのだろうかと気になった。
 ロットスが何か言おうとするのを一瞬止めて、質問する。

「ロットス様。少々お待ちを。私はここにいてもいいのでしょうか? もし国家機密に当たるような情報であるならば、私のような一下級貴族の倅、一冒険者に過ぎない者がいては差し障りが……」

 しかし、そんなルルの言葉をレナード国王は、

「……良よい。ロットス殿。この者がいても構わないだろうか? もし、ロットス殿が伝えようとされていることが今大会中に起こった異変に関わることであるならば、貴重な助言をくれるやもしれぬのだ」

 そう言ってルルがいることを許す。
 どうやら、ルルが古代竜エンシェントドラゴンの転移について詳しく話したことにより、一種のアドバイザーとしての価値を見出したようだ。
 しかしそうは言っても、ロットスが許さない限りは出ていくほかない。
 ロットスの言葉を待ったが、彼は一息に目の前に置かれた水を飲み干すと、言った。

「……ルル殿のことはユーミスから聞いております。彼は信頼できる者である、と。特級冒険者でありながらちゃらんぽらんな孫ですが、昔から人を見る目だけはありましてな。ここにいることを認めますぞ。とは言え、話すべきでないことは、外では話さないでいただきたいのじゃが……?」

 そう言って言葉を切るロットスに、ルルは頷いて答えた。

「勿論です。ここで今から語られることは、胸に秘めておくことにいたします。なんでしたら、契約魔術でもって縛っていただいても……」

 出来ることならそんなことはしたくないが、信用と言うのは大事だろう。
 それに、いざとなればルルはいくらでも他人のかけた契約魔術など解くことが出来る。
 だからこそ出た言葉だ。
 それを分かってはいなかっただろうが、ロットスは契約魔術よりよほど裏切るのが難しい言葉を口にする。

「いえ、それには及びませぬ……ルル殿。貴方を信頼して語らせて頂こう……」

 信頼、と言われるとルルとしてはこれは裏切れない、と感じてしまう。
 これならよっぽど契約魔術で縛る、と言われた方が楽なのだが、言われてしまったものは仕方がない。
 ルルは頷いて、ロットスに先を促した。

「では……しばらく前に、絶対障壁発生装置を発見しましてな。闘技場内の一室に――とはいっても、我々が絶対障壁発生装置を置いていた部屋ですが――隠匿魔術をいくつもかけて見つかりにくいようにされておりましたが、我々古族エルフ総出で探した甲斐もあり、発見、解除できたことはすでにお聞きになったかと思います」媚薬

「そうですな。古族エルフの皆様に早期に対処して頂けたお陰で、観客達も混乱に陥ることなく帰路につくことが出来ました……しかし、それがどうかしたのですかな?」

 首を傾げる国王。
 彼に対し、ロットスは深刻そうな顔で告げた。

「それが……絶対障壁の解除自体は出来たのですが……装置が」

「……装置が?」

「一台、なくなっておるのです」

 それは、彼らの技術流出を示唆するものであり、その報告に国王は目を見開いた。

「それは……確かなのですかな? どこかに探したりないところなどは……」

「古族エルフ総出で、隈なく探したのじゃが、どこにもありませぬ。そもそも、結局装置の場所自体は動いておりませんでしたでのう。例の日――不可思議な侵入者が来た日に解除された罠も全てかけ直しておったのですが、それが破壊された形跡もなく、持ち出せるはずなどないのじゃが……」

 極めて不思議な現象を見たかのように、ロットスは考え込む。
 実際、罠の概要を聞けば、解除する以外にその場所に侵入する方法は無いように思えた。
 一度、ルルとイリスとの戦いの最中に解除され侵入された形跡があったようなのだが、そのときには何も盗まれておらず、またその直後に罠を掛け直したのだと言う。
 つまり、装置を盗むのは不可能なはずだったらしい。
 けれど現実は一台、装置がなくなっている。
 これが示す一つの結論を、ロットスは歯噛みしながらも、口にせざるを得ず、言った。

「……おそらくは、我々古族エルフの中に裏切り者がいる、と考えるほかありませぬ。罠を壊さずに通り抜けられるのは、事前に固有魔力を登録した我々古族エルフのみ」

「それは……」

 国王も困ったように眉を寄せた。
 古族エルフに疑い無しと思っていたのに、こんな有様である。
 ロットスもおそらくは相当忸怩たるものがあるだろう。
 人の上に立つ者として、下の者の裏切りと言うのは心を切りつけるようなものがある。
 ただ、だからと言って追及しないわけにもいかない。
 盗まれたのは、古族エルフが自ら守っていた古族エルフの技術なのであるから、レナード王国として直接責任を追及する、と言う話にはならないが、それでももしかすると強敵を生み出す利敵行為に当たる可能性はある。
 だから国王は尋ねた。

「その裏切り者に、心当たりはあるのですかな?」精力剤・性欲剤

「いえ、それが……真実、心から申し上げるのですが、全くないのですじゃ……。今回連れてきた者は、厳選に厳選を重ね、その性質、能力について問題なしと古族エルフが総意でもって判断した者たちなのです。裏切りなど、あり得ない。それが正直なところなのです……」

「しかし、そうは言っても、実際誰かが確実に裏切ったとしか思えない結果がある以上、犯人を捜さなければなりませんぞ。本当に心当たりはないのですかな?」

「……」

 レナード国王の追及に、ロットスはだんだんと表情が青くなり、小さくなっていく。
 気持ちは理解できる。
 裏切り者などいないと言う確信があるのに、絶対にいるという状況が存在しているのだ。
 どうにかして犯人を捜す必要がある。
 分かっている。
 しかしどうにもならない。
 ロットスにもはや語れる言葉は無かった。

 けれど、ルルはふと思った。
 だから二人の会話に割り込んで言う。

「少々思ったことがあるので、口にしてもよろしいでしょうか?」

 その言葉に助かったような顔をしたのはロットスも国王も同様だった。
 どうにかして話の潤滑油が欲しいロットス、それに好き好んで責めているわけではない国王にとって、ルルの言葉はよいクッションになりそうな気がしたのだろう。
 しかし、ルルが言ったのは、クッションどころではなく、むしろ核心を突いた言葉だった。

「お許しを得られたと考えて口にさせていただきます……今回、私は古族エルフの方々に裏切りはなかった、と考えております」

 その言葉に一番驚いたのは、ロットスであった。
 それが最もうれしい言葉である筈なのに、現実を深刻に受け止めているため、ただの気休めに聞こえたらしい。

「そんなことはないと思いますぞ。どう考えても、古族エルフが協力しなければ今回のことにはならんのですじゃ。ルル殿、儂に気を遣わんでも、事実をはっきりと言ってくださって結構ですのに……」

 その口調は非常に疲れて病んでいるように思えた。
 よくよく考えれば、いや、よく考えなくとも、闘技大会において、ルルは古族エルフに負担をかけた出場者ランキングナンバーワンなのである。
 そのことを思い出し、ここら辺で恩返しをしておかなければならないような気がしてきた。
 だからルルはロットスが受け入れやすいよう、自分の思う所を少し角度を変えて言うことにする。

「ロットス殿は、古代竜エンシェントドラゴンが今回現れた理由についてはご存知ですか?」

 ロットスも、こういう話になると冷静な表情を取り戻せるらしい。
 思索的な顔になり、そして考えがまとまったらしく、言う。

「ふむ……おそらくは転移魔術ではないか、と思っております。ただ、そのようなものを扱える者は……長命な古族エルフである儂ですらここ数百年は見ておりませんでのう。果たしてそんなことが可能なものがいるのかどうか……」女性用媚薬

 彼も彼で予想はついていたらしい。
 とは言え、そこまで理解できているのなら、ルルも話しやすかった。
 ルルは国王と視線を交わし、先ほどここでした話をしてもいいか、と尋ねると頷かれたので、ロットスに言った。

「ロットス殿。実は……」

 そうして、おそらく転移魔術を使ったのは聖女であること、それをルルがその技術でもって確認したことを話すと、目を見開いて驚き、改めて水を要求し、一息に飲み干してからロットスは言った。

「なんとまた……おそるべき使い手がいるものですな。しかも、ルル殿と、聖女……二人も。しかしそうなると……」

 だんだんとロットスも思考力が戻ってきたようで、先ほどまでの慌て切った蒼白な顔ではなくなってきた。
 だからルルは言った。
 最も重要な言葉を。

「ええ……転移魔術はほとんど使い手のいない魔術ですが、同様の魔術で、今回のような場合に使われた場合に非常に危険なものが一つ、あるとは思われませんか?」

 と。
 その言葉に、ロットスと国王は少し考え、それから一つの答えに辿り着いたのか膝を叩いて言った。

「なるほど……精神魔術だな? ルルよ」

「その通り、です。かの魔術は、現代では大した使い出が見いだせない魔術とされていますが……」

 究めれば出来ることも多い、と言うのは古代における事実だった。
 しかし、現代にそんな使い手がいるということがまず考えにくい。
 現代では精神魔術による長期的洗脳は出来ないとされているからだ。
 しかし、現実として、転移魔術を使用できる者がいたのである。
 伝説で語られるような精神魔術についても使用できる、高度な使い手がいてもおかしくはなかった。
 そして、それが聖女である可能性も決して低くはない。
 状況から鑑みれば、むしろほぼ確実に彼女こそがそうであると言っても良さそうな話だ。
 そしてそうであるとすれば……。

「精神魔術……それは、盲点でした。しかしそうだとすると……確かに古族エルフに裏切り者はいない、という事になりますが……誰かが魔術により精神を操られている可能性がありますな……」RUSH 芳香劑

 ロットスの言ったその言葉に、レナード国王は難しい顔になって言う。

「ふむ……ロットス殿自身が操られている可能性もある、ということになってしまいますな……」

 ロットスは自分が知らないうちに裏切り者になっているという可能性を示唆され、目を見開くが、すぐにそれが正しい指摘であることに気づき、言った。

「……しかし、自分では全く気付くことが出来ないということになってしまいますぞ、それでは。儂は裏切り者なのじゃろうか……?」

 どうしたものか、と新たに出てきた問題に頭を抱える二人。
 ルルはそれを見ながら、考える。
 ルルは、精神魔術にかかっているか、診断、解除することが出来る。
 それは過去においては必要な技術であったから身に着けているのだ。
 それを言い出すのは、自分もまた精神魔術を使おうと思えば使える、と告白するようなもので、ルルとしては非常に気が引ける。
 しかし、ここにおいて、これを告げないと言うのは後々深刻な影響を与える気がした。
 あとで、何らかの事情でそのことが露見したとき、糾弾されるのも恐ろしい。
 それに、そもそもロットスに対しては返さなければならない恩というか、かけた迷惑を清算しなければという気持ちもあった。
 だから、ルルは言った。

「……あの」

 そんなルルに、

「なんだ?」

「なんじゃ?」

 国王とロットスが同じタイミングで言う。
 そんな様子に、おそらくは大丈夫ではないか、と根拠なく思ったルルは、覚悟を決めて言ったのだった。

「私は、精神魔術について、それにかかっているか診断し、かつ、かかっている場合に解除することが出来ます」

 その言葉に、二人が驚いたのは言うまでも無かった。カナダ 芳香劑

2015年4月20日星期一

新しい仲間が出来ました

 研究会説明会があった翌日、遂に研究会が始動する。前からある研究会はずっと活動してるけど、俺達は新しく立ち上げた研究会なので今日からだ。だって……

「今更だけどさあ、研究会って何すんの?」
「本当に今更だな……まあ、特にこれといって決まってはいないな。基本的に授業でやらなかった事、もっと詳しく学びたい事なんかを、放課後に同じ目的を持った者達と一緒に研究する……というのが一般的だな」VVK
「そうか、なら俺達の『究極魔法研究会』は何を研究すんの?」
「さあ?あの時はノリで決めたからな。何をするのかまでは知らんな」
「ノリって……」

 そんな理由でいいの?名前の提案者に目を向けると……

「私もノリで言った。後悔はしてない」
「つまり何にも決めて無いと……」
「ウォルフォード君なら色んな魔法を極めそう。私もそれに協力したいし、極めたい」
「……んじゃあ、皆で魔法を極めましょうって事でいいのか?」
「それでいい」

 何かフワッとした理由だけど、まぁいいか。皆とワイワイ楽しむのも放課後の楽しみかな。

 そして研究室に着くと、昨日入った二人が既に来ていた。

「あ!お疲れさまッス!」
「お、お疲れさまです」
「お疲れさま、早いね?」
「あ、はい!あの、殿下や賢者様のお孫さんを待たせちゃいけないと思って走って来たッス!」
「あ、あの……ご迷惑でしたでしょうか?」
「迷惑って何でよ?」
「いえ、あの、その……」

 昨日は顔を合わせただけだし、まずは交流を深めるところからかな?

「まずは研究室に入ろうか」

 そう言って研究室に入る。教室より簡素な造りの部屋と机だが十分だ。

「じゃあ、研究会の代表であるシン、挨拶しようか」
「また挨拶か……」

 そう言って前に出る。

「えー、今回この『究極魔法研究会』の代表になったシン=ウォルフォードです。いつの間にか研究会が立ち上がっていて、いつの間にか代表になっていたので何をするのか全く決めてません。まぁボチボチやっていきましょう」

 そう言うと、マークとオリビアだったかな?二人は唖然としてた。

「『究極魔法研究会』って……」
「そんな名前だったの?」

 そこかい!知らずに入ったのかよ!

「いえ……ウォルフォード君が研究会を立ち上げたって聞いたので……」
「よく確認せずに入会したッス!」
「……まあいいか。それじゃあ、マークとオリビア、二人自己紹介してくれるかな?」
「は、はいッス!ええっと、自分はマーク=ビーンです!一年Aクラスです!家は鍛冶屋をやってまして、武器や防具、生活用品まで手掛けてるッス!ご入り用の際は『ビーン工房』をご用命下さい!鍛冶屋の手伝いをよくしてたんで火の魔法が得意ッス!宜しくお願いします!」
「へえ、『ビーン工房』と言えば、腕の良い鍛冶師が沢山いる良品揃いで有名な所じゃないか」
「そうなの?というか詳しいなトニー」
「まあねえ……ウチの家族は僕以外騎士だって言ったろ?昔はよく剣を振り回してたからね。『ビーン工房』の剣は他の工房の物より切れ味も良いし、ナイフなんかの小物でも使いやすいのが多いんだよ」

 メッチャ意外だ。トニーが武器について語ってる!騎士の家系だって言ってたからそう不思議では無いはずなんだけど、チャラ男の雰囲気と全く合って無い。マークも意外そうな顔をしてる。

「あ、ありがとうございます……ウチの店知ってるんスね」
「ああ、『ビーン工房』の物を使うのは当時の目標だったからねえ」
「そう言って貰えて嬉しいッス!何か入り用があれば言って下さい!サービスしますんで!」
「本当かい?それは嬉しいねえ」

 トニーの意外な一面を見たな。そして次はオリビアだ。

「あの……オリビア=ストーンです。私も一年Aクラスです。家は食堂をしてまして、店の名前は『石窯亭』です。マークとは幼なじみで、昔から知ってます。お店の手伝いで水をよく使うので水の魔法が得意です。宜しくお願いします」漢方蟻力神
「『石窯亭』!?超有名店じゃん!!あそこの石窯で焼いたグラタンが絶品なんだよねぇ……」

 アリスが何かを思い出しながらそう言った。ヨダレ垂れてる、ヨダレ。

「学院の合格祝いを『石窯亭』でしたんだ。もう、超~~~美味しかったんだから!」
「それは羨ましいねえ、僕の家は予約が取れなかったんだよ」
「あ、あの、よかったら皆で来て下さい。おもてなしします」
「本当に!やったねシン君!これは凄い人材だよ!」
「失礼な誉め方すんな!」

 しかし二人とも有名なお店の子供なんだな。そのお店の事知らなかったわ。

 マークは茶色い髪に黒い目、ソバカスがある少年だ。鍛冶屋の手伝いで鍛えられているのか、割と締まった体つきをしてる。体育会系な感じだな。

 オリビアはセミロングの黒髪に青い目をした美人さんだ。可愛いより綺麗な感じ。お店の看板娘なんだろうな。

「鍛冶屋の息子で工房の手伝いをしてたってことは、マークも何か造れたりするの?」
「は、はいッス!あ、ああいや!大した事無いッス!」
「ねえマーク。この研究会は一年生しかいないんだ、敬語は止めようよ」
「そうそう、オリビアもね!」
「え、でも……」
「殿下や英雄のお孫さんですよ?」
「ああ、それは気にしなくて良いぞ。シンなんかは時々私の事をお前呼ばわりするからな」
「いや殿下……それ、シンだけですから……」

 だってオーグだし。

「まあオーグは無理だろ、でも俺はじいちゃんとばあちゃんが有名なだけで一般人だからな。お前らと一緒だよ」
「……一般人?」
「空耳かしら?」
「まあシンも来週には有名人だけどな」

 おい!皆非道いな!貴族じゃないんだから一般人だろ?そしてオーグは何か言ったな。

「オーグ、来週って?」
「ん?ああ、多分帰ったら通知が来てるだろうが、シンの叙勲式が来週の週明けに行われる事が決まってな。これでシンも有名人の仲間入りだ」
「そうか……決まったか……」
「安心しろ。昨日言ったろ、政治利用はしない。父上が叙勲式で正式に発表するそうだ。だがまあ、名前が売れるのはしょうがないな。今でも既に売れ始めているし」
「そうかぁ……」

 もう気軽に外を出歩けなくなるのかなぁ……そうだ!

「変装するか姿を消せば良いんだ!」

 そう叫んでしまった。あれ?周りの視線が痛い……

「変装は分かるけど姿を消すってなんだ?」
「え?そのままだよ。こうやって姿を消せば周りに気付かれないじゃん!」

 そう言って、光学迷彩魔法を使うと皆がまた唖然としてた。これもか。

「え?シン君?どこですか?」
「うそ……急に消えた……」
「な、なんですか?これは!?」
「いや、そんな驚かなくても……」

 そう言って光学迷彩魔法を解除すると皆から質問責めにあった。

「シン!今の何?全く見えなくなったんだけど!」
「確かに不思議。何かに隠れた訳じゃ無いのに姿が見えなくなった」
「同じ場所から現れたという事は移動した訳でもないのでしょう?ならどうやったのですか?」
「ちょっと待って!マークとオリビアを放ったらかしだよ!」

 そう言って二人を見ると、二人とも呆然としていた。

「殿下をお前って……」
「ウォルフォード君叙勲されるの?」

 ちょっとずつズレてる!

「ちょっと話を纏めようか、何かメチャクチャになった」
「お前のせいでな」
「うっせ!ちょっと待って、えーと、マークが何か造れるのか聞いてて、敬語は止めてって話だったよね?」男宝
「そうッス」
「じゃあ、まず敬語から止めようか。同い年で敬語ってのもねー」
「殿下とウォルフォード君は無理ッス!それに工房の手伝いをする時は自分一番下っ端なんで、このしゃべり方が普通なんス!」
「私も、普段お店の手伝いをする時は敬語なんで……殿下とウォルフォード君以外なら出来そうですけど、それもすぐには無理です」

 オーグと一緒って……

「何か言いたそうだな?」
「別に……はぁ、じゃあそれはもういいよ。無理強いするもんでもないし」
「申し訳無いッス」
「すいません」
「いちいち謝らなくていいって。で?マークは何か造れるの?」
「いやぁ、自分さっき言ったように一番下っ端なんで、最近ようやくナイフを造らせてくれるようになったッスけど……魔法の練習もしなきゃなんないもんですから、全然まだまだッスね」
「そっかー何か造れるのなら武器を新調したかったんだけどなぁ」
「イヤイヤ!ウォルフォード君の剣って魔人を切った剣ッスよね?それに替わる剣なんてそうそう無いッスよ!」

 ん?あ、そうか言った事無かったな。

「いやあの剣、魔法を付与してあるだけで普通の鉄製の剣だよ?しかも薄く軽く造ってあるから耐久性もあんまりないし」
「え?普通の剣?」
「そう」

 そう言ってバイブレーションソードを異空間収納から取り出す。それをマークに見せた。

「これが魔人を切った剣……」
「よく見てくれる?」

 マークはバイブレーションソードを色々な角度から鑑定し始めた。

「……信じられないッス……この剣で本当に魔人を切ったんスか?」
「そうだよ」
「この剣……薄くて軽くて、確かに振り回しやすいッス。でもそれだけッス。ちょっと硬い物を切ればあっという間に折れてしまうッスよ」
「何?そうなのか?」
「はい殿下。御覧になられますか?」

 そう言ってオーグに渡す。

 ……オーグには普通の敬語なんだ……

「これは……確かに、すぐに折れそうだな……」
「魔法を付与してあるって言ったろ?魔力流してみろよ」
「っ!これは?刃が微細に振動している?」
「んで、これ切ってみ?力入れなくていいから」

 そう言って異空間収納から丸太を取り出す。これ、何で持ってるんだろう?何かに使おうとしてたっけ?

 何で丸太を持っていたのか。自分で不思議に思っていると、オーグの驚いた声が聞こえた。

「なっ!何だこれは!?」

 バイブレーションソードが丸太をバターのように切っていた。その光景に皆目を見開いている。そして丸太をスッパリ切り落とした。

「これは一体……」
「バイブレーションソード。刃に超高速な振動を加えるとこういう風に物が切れるようになるんだ」三體牛鞭

 バイブレーションソードを受け取りながら説明する。

「刃自体は薄い方がいいんだ。後は持ち手の改造とか、やっぱり薄くて折れやすいから予備とか欲しかったんだけどね」

 そう言ってバイブレーションソードを異空間収納に戻す。すると何かを考えていたマークが言った。

「……薄い刃、そういう条件だけで良いなら自分でも打てます。後はウォルフォード君と相談しながらになるッスけど……」
「本当に!?良かった、今までは人伝に頼んでたから細かい調整とかできなくてさあ、助かるよ!」
「いえ、これくらいならお安い御用ッス」

 いやあ、これはラッキーだ。これで色々試せるよ。

「しかし、こんな物まで創っていたんだな」
「凄いねぇ私も付与魔法得意なつもりだったけど、これ見ちゃうとなぁ……」
「ユーリだってその内出来るようになるよ。何ならばあちゃんに教えて貰っても良いんだし」
「え!?本当にぃ!やぁん、超嬉しぃ!」

 ユーリがテンション上がってるの初めて見たな。ばあちゃんの事本当に尊敬してんだな。

「でも、これのナイフバージョンは、ディスおじさんとかクリスねーちゃんとかジークにーちゃんには渡したよ?」
「……見た事無いな」
「そうか、内緒にしてたのかな?」
「そういえば、何年か前にジークフリードが新しい武器が手に入ったと自慢していた事があったな……私がいくら頼んでも見せてくれなかったが……」

 ジークフリード?誰だ……その格好いい名前の人物は?

「シン君、ジークフリード様の事知ってるの!?」
「ジークフリード様が誰だか知らないけど、ディスおじさん……国王の護衛のジークにーちゃんなら知ってるよ。銀髪の」
「それだよ!魔法使いの女の子、いや!王都中の女の子の憧れ。ジークフリード=マルケス様だよ!」
「あの人は憧れるよねえ……」
「一度でいいから話してみたい」
「中等学院にはファンクラブがあったなぁ」

 アリスが熱く語ってる。マリア、リン、ユーリも同意する。

「えぇ……只のチャラいにーちゃんだよ?」
「それに、クリスティーナ様の事も知ってるみたいだねえ」
「だからクリスティーナ様って誰だよ?ジークにーちゃんと同じ護衛のクリスねーちゃんなら知ってるよ」
「クリスティーナ=ヘイデン、若くして国王陛下の護衛騎士に選ばれる程の剣の腕を持ちながら、美しくそのミステリアスな容姿に憧れを抱く男子は多いねえ」

 トール、ユリウス、マークが凄い勢いで頷いてる。

「ミステリアスって……無愛想なだけだよ……」

 知り合いが大人気でした。なんだろう、この自分の兄姉を誉められているような妙な感じは。それより、実態と全然違う……これは会わせると幻滅するかもしれないな……

「それよりもシン、さっきの姿を消したのはどうやったんだ?」
「そうだよシン君!あれ何?」狼1号
「ああ、光学迷彩?」
「こうが……何だそれは?」
「光学迷彩。人間が目で見てるものって何を見てるか知ってるか?」
「何って……物だろう?」
「何で物が見える?」
「何でって……そんなの分かんないよ」
「人間の目ってさ、光が反射したものを見てるんだ」
「反射?」
「そう、だから光を反射しない物は見えない。ガラスなんてそうだろう?あれはガラスが光を通しちゃうから不純物が混じってないガラス程透明に見える」
「確かに……」
「そうやって反射した物を見てるって事は、その反射した光の具合を歪めてやると……」
「あ!シン君が消えていきます!」
「消えてる訳じゃ無いよ。俺の周囲に魔法で干渉して光を歪めてるんだ。だから俺の周りの風景に反射した光が俺を迂回して俺の前にいる人間に見えてる。結果、俺が消えた様に見えたんだ。透明になった訳じゃ無い」

 光学迷彩を解除しながら説明すると、皆の頭に?マークが浮かんでいるのが見える。

「……シシリー分かった?」
「いえ……」
「説明されてもサッパリ分かんない!」
「分からないけど、これは凄い魔法」
「やっぱり……」
「魔法の常識知らずで御座る」

 皆口々に言うけど……

「ここは『究極魔法研究会』なんだろ?これくらいで驚いてどうするよ?」
「いきなり究極過ぎる!」
「これは凄い。究極の隠蔽魔法」
「いや、音も消してないし、魔力遮断もしてないから究極じゃ無いだろ?」
「いや十分だな。できればこの魔法もあまり広めて欲しく無いものだ」
「何でよ?」
「暗殺し放題、機密文書も盗み放題、盗聴に尾行、犯罪に使われる用途が多すぎる」
「そんな事言ってたら魔法なんて何にも使えねえよ。結局、使う人間のモラルの問題だろ?」
「確かにそうなんだが……この魔法は誘惑が多すぎる……」
「大丈夫ですよ殿下!だってさっきの説明で理解した人なんていないですよ?」
「……それもそうか」
「俺の説明、分かり難かった?」
「いやぁ……そもそも意味が分かんなかった」

 分かりやすいように光の反射から説明したんだけどな。そもそも目が光を捉えてるって概念も無いのかな?

「そっかぁ……分かんないかぁ」
「これはあれね。シンが究極の魔法を開発していくのを生温かく見守る会になりそうね」
「そんな事無い。私も少しでもウォルフォード君から学びとる」
「これが陛下が入学式で仰っていた事ですね。シン君が魔法の固定概念を壊してくれるって」
「ちょっと壊しすぎな気もしますが……」
「諦めるで御座るよトール」
「やっぱりこの研究会に入って良かったねえ。ずっとSクラスにいれそうだよ」
「私は付与魔法を教えてほしいなぁ」
「まあ、程々にな」

 呆れてるのもやる気を出してるのもいるな。まあ、初めての研究会の活動としてはこれくらいでいいかな?

 そういえばあの二人は?

「無詠唱ッスか……」
「さすがSクラスね……」巨根

 だから!ちょっとずつズレてるって!

2015年4月16日星期四

これは訓練であるらしい

地獄というものは、一応神の教えの中にある。
 教会が唯一認めている、天使が人に神の教えを伝えるべく書き記したと言われている「聖典」の中にそれは結構な分量の文章でもって、事細かに説明されていた。
 曰く、生前罪を犯したものが、死後天使の裁きにより落とされる場所で、犯した罪を償うべく様々な責め苦を亡者に与えると言う場所だ。SLEEK 情愛芳香劑 RUSH 正品
 長きに渡る責め苦により、人の魂から罪の穢れが浄化され、やがて人はその罪を赦されて再び輪廻の輪に加わることができるのだと言う。
 絶対嘘だと、キースは思った。
 地獄は死後にあるものではなく、今まさにここにあるじゃないかと。
 意識が朦朧とし、身体が水と空気を欲してのどから喘ぎ声が漏れる。
 既に両足は限界を訴えてから相当な時間が経過しているが、足を止めることは許されていない。
 足を止めてしまえば奴が来る。
 あれは絶対に人間じゃない、とキースは思う。
 きっと人の形をした何か。
 地獄に居ると言う鬼は、きっとああ言うものなんだろうと。
 取り留めの無いことを考えている自覚はキースにもあった。
 しかし、何か考えていないと身体がすぐに意識を手放しそうになるのだ。
 いつもならば意識しない程度に着こなしていた装備がやたらと重さを主張してくる。
 背中に背負わされた背負い袋の肩紐が、ぎしぎしときしむ音が止まない。
 その音に紛れるようにして、ばたりと音が聞こえた。
 きっと誰かが倒れたのだろうとキースは思う。
 同じ部隊の仲間が倒れたのだから、助け起すのが本当だが、誰も手を差し伸べようとはしない。
 そんな余力があるのならば、今は一歩でも足を前に進めてアレから逃げなくてはいけないからだ。
 倒れた男が助けを求めるように手を伸ばす。
 助けてやりたい、とキースは思う。
 助けを求めているのは自分の部下である。
 その口からはおそらく、助けを求める言葉が出ているのだろうが、今聞こえるのは掠れた隙間風のような音だけだった。
 助けに行けば、自分も倒れる可能性が高い。
 それでも兵士長と言う立場からも、キースは倒れた兵士を見捨てることができなかった。
 よろよろと、助けを求めている兵士に歩み寄ろうとしたキースは、背後から尻にケリを食らってよろめく。
 普段ならば、何をしやがると食ってかかる所なのだが、キースは尻に受けた一撃の痛みよりも、蹴られた事実に青褪める。
 アレが来たのだと。
 それは余計な真似をしようとしたキースを蹴り飛ばすと、倒れている兵士へと歩み寄る。
 その目は疲れから倒れた兵士を労わるようなものではない。
 完全に、この豚どう料理してくれようか、と言う狩人の目だ。
 その視線に射すくめられた兵士は、ただ黙って目を閉じた。
 観念したのだろう、とキースは目に涙を浮かべる。
 それは倒れている兵士の襟首を掴むと、無造作に持ち上げた。
 装備に加えて背負い袋の中に重しを入れた状態の、それなりに鍛えている兵士の体を片手でだ。
 もちろん、身長差がそれほどあるわけではないので、足が宙に浮くようなことはなかったが、それでも四肢に力の入っていない兵士の身体は非常に重いはずだ。

 「なぁ? 俺そんなに難しいことをしろと言ったか?」

 片手で持ち上げた兵士に淡々と尋ねるのは蓮弥だ。
 その口調は怒るでもなく、あざけるでもなく、本当に淡々と事実だけを確認しているような口調だった。

 「ただ、フル装備で背負い袋に錘を50kgほど突っ込んだ状態で、練兵場の周囲を走れ、と言っただけだぞ? 難しいか? 1時間以内に何十周もしろと言ったわけじゃない。俺がよしと言うまで走れと言っただけじゃないか?」

 そんなに入っているのか、と蓮弥の声が聞こえた兵士達は一様にそう思った。
 彼らの装備は歩兵だったので、騎士のように全身板金鎧だったりはしない。
 主に皮を用いて作られているが、所々は金属で補強されていたり、鎖が巻かれたりしているのでそれ相応の重量がある。
 腰に吊っている長剣も、訓練用ではあるが実戦で使うものと重さは変わりない。
 これらだけでもそれなりの重さになるはずなのだが、そこに追加で50kgの錘と言うのは正気の沙汰とは到底思えない。魔鬼天使性欲粉(Muira Puama)強力催情

 「こ……こんな重し付けられて……走り続けろなんて、無理です。教官殿……」

 苦しい息の下から、どうにかこうにか搾り出した兵士の言葉だったが、蓮弥はそれをばっさりと切り捨てる。

 「女性を一人抱えているようなものじゃないか。国軍の兵士ならば、戦闘中に動けなくなった市民がいたら担いで助けるのが義務だろう? 仲間が倒れたら担いで逃げるのが義務だろう? それとも貴様はそれらを見捨てるつもりか? 泣き言を言うな!」

 「そんな……」

 「第一、見ろ。あの無駄に元気そうなシオンを」

 軽く毒を含んだ声でいきなり話を振られたシオンが、練兵場の真ん中付近でびくっと身体を震わせる。
 その姿はキース達と同じ国軍歩兵用の鎧を着込み、背中に背負い袋を背負った状態で、練習用の長剣をぶんぶん振り回していた。

 「同じ条件で走らせてみりゃ、シオンの走りについていけずに、いきなり初っ端から引き離されたと思ったら1時間程度で数周近く周回遅れになりやがって……」

 そこはキースも信じられない現実だった。
 兵士達と同じ格好で練兵場に現れたシオンは、蓮弥に命じられるがままに走り出し、どたばたとではあったが圧倒的な速力で兵士達を引き離すとそのままあっと言う間に周回遅れにした挙句、わずか1時間の間に数度抜き去ると言う暴挙を達成してみせたのだ。
 相手は紛れも無く大公陛下のご息女だ。
 それが、兵士として訓練を受け続けていた彼らよりも体力に優れていると言うのは一体どう言った詐欺行為なのだろうか。
 汗を流し、顔を赤くして、最後の方は足元がよろついたりもしていたが、それでも1時間走り続けたシオンへ、蓮弥はすぐに別行動を取るように命じた。
 体力的には十分すぎるだろうと思ったのが半分。
 もう半分はそれ以上兵士達と行動を共にさせていると、兵士側の心が折れるだろうと思ったからだ。

 「なぁ? 今どんな気持ちだ? 兵士として訓練を受けてきました、なんて言いながら体力だけではあるが、シオンに遠く及ばないと理解させられた今の気持ちはどんなだ? 護るべきお姫様よりも劣っていると分からされた気持ちはどんなだ? なぁ、何か言ってみろ」

 襟を掴んでいる手を揺らしながら、蓮弥が問いかけると、掴まれている兵士は声を上げることはなかったものの、ぎりぎりと歯を食いしばりじっと耐えている。
 そんな兵士の様子を、つまらなそうに見ていた蓮弥はやがてその襟を掴んでいた手を放す。
 糸の切れた操り人形のように、地面に力なく座り込んでしまう兵士を見下ろす蓮弥は、わずかに身をかがめて兵士に顔を近づけると、そっと囁くように言った。

 「ここで寝ててもいいぞ? どうする? 根性無く諦めるか? お前は一体何だ? ガキか? 兵士か? お前を兵士だと思って雇った奴は相当なバカなのか? この国はお前のような根性無しに高い給金支払ってるのか?」

 「違うっ……1分で……1分でいいから、くれっ!」

 身体を支えるために地面についていた手を握り締めて、兵士が叫ぶ。

 「必ず……必ず追いかけるからっ!」RUSH PUSH 芳香劑

 「……そうか、諦めないのだな?」

 尋ねる蓮弥に兵士が頷くと、蓮弥は再びその兵士の襟を掴むと今度は軽々と背中に背負う。
 驚く兵士に構わず、蓮弥はそのまま先を行く兵士達の背中を追いかけて走り出した。

 「教官殿!?」

 「一分程そこで休んでろ。それと休んでいる間に俺の走り方を観察しろ。どうにもお前らはバタバタと無駄に音を立てるし、疲れ始めると今度はずるずる足を引きずって無駄に体力を消費する」

 なんの為に人間には頭とか関節とかがあると思っているんだとぶつぶつ説教を始める蓮弥。
 その身体は、背中に居る兵士には分かったがほとんど上下にも左右にも揺れない。
 足音もほとんどさせずに疾走する蓮弥は、軽々と前を行く兵士達を一度抜き去ってから、一周練兵場を回ってまた兵士達の背後へつく。
 成人男性一人と装備と重しが背中にあると言うことを考えれば、信じられない速度に背中の兵士も一度抜かれて周回遅れになった兵士も、ただただ呆然とするだけで声が出ない。
 自分に向けられている驚きの感情や視線を、きっぱりと黙殺した蓮弥は、走る兵士達の最後尾に追いつくと、背中に背負っていた兵士を地面へと下ろす。

 「1分くらいは休んだな? そら、走れ」

 「はい、教官殿!」

 動けなくなるくらいに疲弊した人間が、一分ちょっとくらい休んだだけで動けるようになるわけがない。
 それでも兵士は蓮弥の言葉に大きく返事をすると、歯を食いしばり必死の形相で仲間達の後をついて走っていく。
 それを見送った蓮弥は次の訓練の為の道具をインベントリから引き出して、練兵場の中央へ山と積み始める。
 結局、その持久走は午前中一杯続けられた。
 疲労困憊状態で動けない兵士達に、サイドテールにチューブトップブラ、ホットパンツと言った中々に扇情的な格好をした少女が昼食を配って回る。
 食堂は、面倒を嫌った蓮弥が使うのを嫌がったのと、兵士達のうちだれ一人としてそこまで歩く気力が無かった為使われず、そのまま練兵場での昼食となったのだ。
 配られた食事は柔らかな白いパン、それと対照的な真っ黒なスープに干した果物がいくつか。
 スープは最初その異様さから、兵士達は口をつけることを躊躇ったが、一人だけシオンがさっさとそれらを口に運び始めたのを見ておそるおそる全員が口をつけた。
 見た目の異常さから味に期待はしていなかった彼らだが、口をつけてみればなんと言うこともない、魚介類をふんだんにぶちこんだ海鮮スープだった。
 スープ自体にわずかな苦味があったが、それも気にならないほど濃厚な魚介類の出汁に、概ね好評をもって受け入れられたスープは、少女が背丈ほどもあるような寸胴鍋で持って来たにも関わらず、食事が終わる頃にはすっかり飲み干され尽くしていた。
 柔らかな白いパンも、人数分以上用意されてはいたが、こちらも綺麗に食い尽くされた。D10 媚薬 催情剤

 「レンヤ……あれ、エミルだよな?」

 兵士達の間を愛想を振りまき、手を振りながら歩く少女を指差してシオンが問う。

 「そうだな」

 「レンヤが食べられない物を提供するとは考えてないんだが……大丈夫なのかこれ?」

 「問題ない。毒は入っていない」

 「そう……念のために材料を聞きたいんだけど?」

 「市場で仕入れた新鮮な魚介類に、フラウ特製の家庭菜園の野菜」

 「あ、なんかそれだけでもう駄目な気がする」

 「あと、お隣から仕入れた新鮮な食材から取った出汁」

 「お隣……?」

 お隣と蓮弥が言うからにはおそらく、アズとリアリスが住んでいる家だろう、とシオンは思う。
 しかし、二人とも仕事のある身であり、スープの出汁が取れるような食材を自宅で作っているとは聞いた覚えがない。
 不思議がるシオンの耳元に、蓮弥はそっと口を寄せて囁いた。

 「ほら、あの大きな……あれから2、3枚程ぶちっと引きちぎったのを焼いて磨り潰したのを混ぜ込んであるんだよ」

 「そ、それってド……」

 驚き慌てるシオンの唇に、蓮弥は人差し指を当てて黙らせる。
 その会話は周囲の兵士達の耳にも届いていたが、彼らはシオンが途中まで言いかけた食材に関して興味を抱くことは無かった。
 そんな余裕は無かった、とも言える。
 食べられて美味しければ、細かいことはどうでもいい気分になっていたとも言えた。
 その結果、死んでしまうようなことがあるならば問題であるが、同じものを蓮弥もシオンも口にしている。
 問題があるわけがなかった。

 「教官殿。午後からの訓練の予定は?」

 ある程度休み、食事を口にして幾分体力が回復したのか。縮陰膏
 キースが蓮弥に歩み寄りながら尋ねてきた。
 蓮弥は練兵場の中央に積み重ねてある物を指差して答える。

 「あれを使う」

 「あれ、ですか」

 そこに積まれているのは、無数の鍬だ。
 農作業等に使う、実に一般的な道具である。

 「色々金属を混ぜて重くしてある。鍬の歯から柄に至るまで全て金属製だから、乱暴に扱ってもそうそう壊れることはない」

 「はぁ……それで何をやらせようと言うので?」

 「そりゃ……穴を掘るに決まってるじゃないか」

 何を言ってんだお前はと言いたげな蓮弥。
 キースは頬の辺りをかきつつ、質問を続ける。

 「一体どこにどれだけの穴を掘ればいいので?」

 「全部」

 「はい?」

 短い蓮弥の返答に、思わず聞き返すキース。
 物分りの悪い生徒に、授業を行う先生のような気持ちで蓮弥は練兵場全体を指差した。

 「ここ全部を、お前らの背丈程の深さに掘るの」

 言われたキースは練兵場を見渡す。
 そこはいくつかの部隊が同時に使ったり、部隊同士での模擬戦を行ったりする場所なので当然のごとく広い。
 しかもしょっちゅう兵士達がその上を踏み固めているので地面は相当固い。
 そして穴を掘るのに使う鍬は蓮弥が言うにはわざわざ総金属製で重くしてあると言う。
 そこから導き出される結論は、考えたくないくらいの重労働が待っていると言う現実だった。

 「本気ですか?」

 「本気に決まっているだろう。夕食の時間までには終わらせるんだぞ? 終わらない限りは本日の訓練は終了しないのでそのつもりで」

 にこやかな表情で蓮弥にそう告げられたキースは覚悟を決めざるをえなかった。

 「お前ら! いつまでチンタラと食ってるつもりだ! 死にたくなければさっさと作業に移るぞ! 鎧を脱いで錘を置いて、あそこに積んである鍬を取れ!」

 「あ、こら、誰が鎧を脱いでいいと……」

 「レンヤ、なんだったらここで私が土下座するから、鎧を脱ぐことは認めてやってくれ」

 キースを呼び止めようとした蓮弥を、シオンが背後から羽交い絞めにする。
 さすがにシオンも、これから行われようとしている訓練を、フル装備で行うのは無茶だと思ったらしい。
 シオンが蓮弥を食い止めている間に、兵士達は急いで鎧を脱ぎ、ダッシュで道具を取ると猛然と地面を掘り始める。
 止める間もなく作業が始まってしまったので、蓮弥は装備をつけたままやらせることを今回は諦めた。SPANISCHE FLIEGE

2015年4月13日星期一

指名依頼と狂気

都市カマーの冒険者ギルド3Fにはギルド長の部屋がある。そこにユウとレナは呼び出されていた。
 ギルド長モーフィスは樹齢500年の樹から作られた、ご自慢の椅子に座りながら葉巻を咥える。D10 媚薬 催情剤

「……早く用件を言えハゲ」

 呼び出されたにもかかわらず、一向に用件を言わないモーフィスに苛立ったレナが暴言を放つ。

「だ、誰がハゲだ! 少し人より髪が細いだけだ!
 んんっお前達を呼んだのはCランク試験についてだ。
 今回、Cランク候補にラリット、エッカルト、クラン『金月花』からはモーラン、アプリ、メメット、クラン『赤き流星』からはシャムが、そしてお前達2名の名前が上がっている。
 ラリットとエッカルトはクランに所属しないフリーの冒険者だが、経験も実力も十分にあるのでギルドからの推薦。クラン金月花の3名は王都の冒険者ギルドからの推薦だ」

「俺達を推薦したのは誰だ?」

「お前を推薦したのはジョゼフだ。本来であれば冒険者になって2ヶ月でCランクの試験を受けるなんてないんだが、実力は十分にあるとジョゼフからの強い推薦だ。レナに関してはゴブリンキングを倒した実績からも問題はないとギルド側が判断した。
 シャムに関してはAランク冒険者デリッドの推薦だ……」

「ふ~ん。俺は受けない」

「何故だ! Cランクになれる機会を棒に振るのか?」

「何をとぼけてんだ。俺はとっくにCランクの資格を得ているのは知っているんだぞ。
 大体、Cランクになるのに試験があるなんて初めて聞いた。
 受付の人達からも、既にクエスト回数からCランクになっているのにおかしいと聞いている。
 どうせ今回の昇格試験もジョゼフ辺りが考えたんだろう」

「ぐ、あいつ等ギルド情報をペラペラ喋りおって!」

 ユウの言う通り、本来Cランクになるのに試験などなかった。通常であれば、達成したクエスト回数と実力さえあれば昇格するのが普通であったが、それでは面白くないとジョゼフが駄々をこねた為に、急遽行われることになった。その情報を聞きつけた一部の者達が、自分達の推薦する者をねじ込んできたのが真相であった。
 しかもユウに関しては採集から素材と、連日膨大な量のクエストを達成しており、Cランクになっていないのが不思議な位だった。

「じゃぁ、帰るぜ」

「……時間の無駄だった。髪も薄いが内容まで薄いとは」

「待て! お前達、最近貴族や商人達に目を付けられているそうじゃないか。試験を受けるならギルドで何とかしてやってもいい。あと薄くはない!」

「そっちはもう解決している」

「権力者を舐めるなよ? 彼奴等の人脈を使えば暗殺ギルドから情報屋、お前等の弱みを掴むくらい造作もないぞ」   

「こっちも情報くらい集めてる。優秀なペットが居るんだよ」

 ユウは死霊魔法でアンデッドのネズミや鳥などを使役しており、その数は数十匹になっていた。24時間休みなく都市カマーを動き回るアンデッドのネズミと鳥が、ユウに絡んで来る貴族や商人達を監視していた。
 今では貴族や商人達の知人友人から愛人隠し子まで、ユウは把握していた。

「ぐぬぬっ……わかった。では昇格試験に参加すればニーナも一緒にCランクにしてやる」

「……私もニーナも近いうちにCランクになる。もう一声」

「ダークエルフ……マリファとかいう少女をEランクに上げてやる。これが最大限の譲歩だ」

「……Eランク。Dランクにしないのが髪と一緒でケチ臭いところ」

 モーフィスが譲歩する必要などなかったのだが、ジョゼフに借りがある為にユウ達が参加しないとまずいことになるモーフィスだった。


「マリファちゃん、それ何?」

「ご神体です」

 マリファはそう答えると大切そうに黒い髪の毛を布で包み込み、エプロンドレスの裏側に縫い付けているアイテムポーチへ仕舞う。魔鬼天使性欲粉(Muira Puama)強力催情
 ユウ達がギルド長に呼ばれている間、ニーナとマリファは1Fで待っていた。
 もっともマリファは、連日迷宮に潜った成果でレベルが20にまで上がっていたので、2ndジョブに就く為に順番待ちもしていた。

「マリファさん、お待たせしました。転職部屋までご案内します」

 前回、マリファの転職を担当した受付嬢が案内の為に呼びに来た。

「ではニーナさん、行って来ます」

「行ってらっしゃい~」

 ニーナが1人になると、機会を窺っていた男性の冒険者達がニーナを取り囲む。

「ニーナちゃん、今日は1人なの? よかったら一緒にクエスト受けない」

「ふざけんな! お前なんかと一緒にクエスト受けたら、何されるかわかったもんじゃねぇ!
 それよりさ同じ斥候職の俺と一緒にクエスト受けない?」

「バッカ、何も知らないんだな? ニーナちゃんの1stジョブはシーフだが、2ndジョブは暗殺者なんだよな~ここは重戦士の俺と一緒に前衛の経験を深めない?」

 普段はユウという鉄壁の壁がある為に、中々話し掛ける機会がない男性冒険者たちがこれ幸いにと群がるので、ニーナが慌てる。

「あ、あの~ユウを待ってるんでいいです」

 慌てて手を振るう度に、ニーナの豊満な胸が動き回り男性陣の鼻の下が伸びる。
 それを周りの女性冒険者たちと受付嬢達が冷めた眼で見ていた。

「ほんとこいつ等しつこいよね? ニーナちゃんが困ってるだろうが。
 ねね、ニーナちゃんは、なんで2ndジョブを暗殺者にしたの? ニーナちゃんのイメージならシーカーかトレジャーハンターなんだけどな」

「あ~それは欲しいモノ・・があったんですよ。えへへ~」

「へ? 欲しい物? それなら、尚更シーカーとかの方がよかったんじゃ?」





「コレット、見なよあの男達のだらしない顔を。あれが都市カマーの誇る冒険者だっていうんだから情けないよ」

「はは……確かにちょっとかっこ悪いですよね」

「それはそうと。コレット、あたしに隠し事してないかい?」

 そう言うとレベッカは、コレットの腰を掴んで逃げられないようにする。

「な、何のこと……ですか」

「ふ~ん、そんな態度取るんだ? あんたが、この前西門の外を歩いているのを見たんだけどね」

 レベッカの言葉にコレットの頬を汗が流れ落ちる。

「や、やだな~、私だって外壁の外を歩くことくらいありますよ」

「あんたの横を立派なブラックウルフ達が一緒に歩いていたんだけどね。あたしは最初魔物にでも襲われてるんじゃないかって心配したら、よく見りゃブラックウルフ達は首輪をしてるし、あんたは嬉しそうにブラックウルフを撫でてるし。
 そこでぴ~んときたのさ。西門から少し歩けばある屋敷があるのをね。そうそう、マリファって子は調教士のジョブを持っていたわね。ギルドの外でお座りしているのも、偶然・・ブラックウルフだね?」蒼蝿水(FLY D5原液)

「は、はわわ……レ、レベッカさん」

「なんだい? そうそう、あんた最近腹回りがふっくらして来たんじゃないのかい?」

「じ、実はこれには事情がありまして。そう! ユウさんの屋敷の契約書を作成してお渡しする為に仕方なくですね」

「へぇ~、それで何を食べて来たんだい?」

 レベッカは笑みを浮かべていたが目が笑っていなかった。

「ホ、ホットケーキなる物を頂きました……」

 ホットケーキの詳細を聞いたレベッカは、口から思わず涎が垂れそうになるのを慌てて拭った。

「このことを他の受付嬢が知ったらどうなるだろうねぇ」

「ヒッ! お、おお、お願いします! どうかこのことは」

「そりゃ、あんたの心掛け次第だね」

 後日、コレットはユウに頼み込んでホットケーキを用意するのだが、不自然なほどご機嫌なレベッカに不信を抱いた他の受付嬢の尋問というなの拷も……問い詰めに屈したレベッカが喋ってしまい。第1回コレット審問会が開かれることになる。 






「ねぇ。もう一度、考えなおさない?」

 アデーレは前回と同じ言葉をマリファに言うが、マリファの意思は鋼の如く変わることはなかった。
 今回、マリファが選んだ2ndジョブは――

「女性冒険者で『虫使い』を選ぶ人なんて居ないから。大体、なんで『虫使い』なんて選ぶのよ」

「ご主人様がこの前大森林に行った際に、ジャイアントビーの巣を見つけて飼育出来ないかと仰られていましたので」

「は? まさか……それが理由? 嘘でしょ……」

 虫使いをジョブに選ぶ者はほとんど居ない。それは虫使いのジョブを持っている者が少ない上に、数少ない虫使い達が虫の使役方法を秘匿しており、後進が育たないのが理由であった。何より女性のほとんどは虫が嫌いだ。

「嘘ではありません。私にとってはご主人様が最優先事項です」


 今回もアデーレが折れる形になり。マリファは無事2ndジョブに就くことができた。
 マリファがロビーへ戻ると、ニーナが男性冒険者達に囲まれているのが見えたが、絡まれているのではなくニーナのご機嫌取りをしているだけとわかるとひとまず安心するが、ギルドの入り口から自分を見ている視線を感じて目を向けると、そこには見るからに貴族の出で立ちの3人組が居た。


 冒険者ギルドから少し離れた裏通り。人の行き交いもなく静けさが漂っていた。

「私に何か御用でしょうか」

「なんだその態度は奴隷風情が」

「サーテット、落ち着け。私達はゴルーバード様に仕える者だ」

「ゴルーバード子爵様の騎士様ですか」美人豹

 サーテットと呼ばれた貴族は、今にもマリファに掴みかかる勢いだったが、マリファの側に居るコロが唸り声を上げると睨みながらもマリファから離れる。スッケはマリファの後ろに隠れていた。

「最近、ゴルーバード様の様子がおかしい。ゴルーバード様がお前の主、ユウ・サトウと接触しようとしていたのは知っているな?」

「知っていればどうしますか」

 マリファの態度にもう1人の貴族が声を荒げる。

「お前の薄汚い主が、ゴルーバード様に何かしたのはわかっているんだ! さっさとお前の主をここまで連れて来い!」

「ボルフィム、お前まで興奮してどうする。私達の用件はユウ・サトウをここに連れて来て欲しい。正式に会おうとしたが、度々邪魔が入るのでこのような手荒な真似をさせてもらった」  

「……い? 私……の、ご主人様が……薄汚い?」

「どうした? 聞こえているだろう」

「ベルント、もういいだろう! 私達貴族が何故奴隷に願わなければいけないのだ!」

 次の瞬間、ボルフィムの目と鼻の先にマリファが立っていた。

「私のご主人様が薄汚い? 塵芥以下のゴミ共が。薄汚いだと……ゴルーバード子爵の様子がおかしい? 自業自得だ。ゴミが分もわきまえずに! 蝿が飛び回るから叩き落とされる!
 私の神を侮辱したお前は、死を願うほど苦しめてから殺してやる」

 マリファの豹変にベルントは驚いて動きが止まったが、サーテットとボルフィムは怒気に顔を染め剣を抜き放つ。マリファは既に精霊魔法の準備をしており、コロは今にも飛び掛かろうとしていた。

「ホッホ、これはこれはゴルーバード様に仕える3騎士が、こんな所にお揃いとはどうされました?」

「き、貴様、どうしてここに。まさかムッス伯爵も」

「はて。老人とは静かなところを好むものですよ? それにしても騎士ともあろう人達が、いたいけな少女を囲んで何をされているのでしょうか?」

「貴様には関係ない! これは我々とユウ・サトウの問題だ」

 ヌングはいつもと変わらぬ、静かな足取りで近付いて行く。

「ムッス様よりゴルーバード様には、ユウ・サトウに近付かないようお伝えし了承して頂いているはずですが、これはゴルーバード様の指示なんでしょうか」

「そんな……わけないだろう、我々の独断だ」

「左様でございますか。ではお引取りを、これ以上の干渉はゴルーバード様のお立場を悪くするだけで御座いますよ」

 3人は納得がいかないようでヌングを睨んでいたが、それはマリファも同じだった。3人を誰にも気付かれることなく殺害しようとしていただけに、ヌングの登場に苦虫を噛み潰したような表情になる。紅蜘蛛(媚薬催情粉)

「ふむ。マリファさん、どうやらこの方達はここを動きたくないようなので、私達が移動しましょう。
 ユウ様もマリファさんがこのまま戻らなければ心配されるでしょう」

「……かしこまりました」

 流石にユウの名前を出されると、マリファも逆らう訳にはいかなかったのでヌングの後を付いて行く。 



「何故、このタイミングでヌングが現れるんだ!」

「監視されていたのかもしれないな」

「こんな面倒なことをせずとも、力尽くでいけばよかったのだ!」

「サーテットの言う通りだ! ユウ・サトウなど所詮は薄汚い冒険者、腕の1本でも斬り落とせば泣いて言う事を聞――――カペッ!?」

 ボルフィムの目の前にはサーテットとベルントが居たはずなのに今、目の前に居るのは女だった。それは見覚えのある女だった。ユウ・サトウとパーティーを組んでいる――ニー……そこでボルフィムの意識は途絶えた。
 サーテットとベルントの目は、これでもかと見開かれていた。自分達の目の前に居たボルフィムの首が一瞬でねじ折られたからだ。

「貴様っ!」

 サーテットが剣を振り降ろすが、ニーナの動きは更に速かった。

「ごめ~んね」

 サーテットが剣を振り降ろしている途中だったが、ニーナは既に後ろに回り込み頭を掴んでいた。次の瞬間には暗殺技LV2『廻折』で、ボルフィム同様に首をねじ折っていた。

「誰の……命令だ? ユウ・サトウの命令……なのか?」

「えへへ~、違うよ? だってあなた達、ユウにひどいことする気だったでしょ?」

「こんなことをして只では済まないぞ。そ、そうだ! ユウ・サトウも貴族に手を掛けた罪で極刑は免れない! わかっているのか!」

 ベルントの言葉が聞こえているのか聞こえていないのか、ニーナは無表情のまま顔を真横に傾けてベルントへ近付いて行く。

「来るな! 来るんじゃない! だ、誰か! 誰か居ないのか!?」

 人気のない通りを選んだことがベルント達の失敗だった。ベルントの叫び声も表通りの喧騒がかき消す。
 ニーナはゆっくりベルントに近付くと眼を覗き込む。

「ユウにねぇ~ひどいことする人達は~私がぜ~んぶ、消すんだよ。わかった?」

「やめ……ろ、わかった、もうユウ・サトウには……関わらない、このことも誰にも話さない……だから殺さないで。あぁ、嫌だ」

 ニーナはベルントの頭に手を掛けると力を入れていく。ベルントも抵抗しようとニーナの腕を掴むが、びくともしない。ベルントのレベルは23、ジョブは1stジョブが戦士、2ndジョブが騎士の前衛職だったが、装備のスキルや装飾の鬼の腕輪と竜の腕輪で強化されているニーナの腕力には、まったく敵わなかった。

「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。止めてぐ、ぐぐれ゛ぬ゛ぬ゛だれ゛が、だずげげ……」

 最初は鈍い音が響き渡り、最後に乾いた音が鳴り響くとベルントは動かなくなった。
 ニーナは3人の遺体をアイテムポーチへ仕舞うと、何事もなかったかのように冒険者ギルドへ向かって歩いて行った。Love juice 情愛芳香劑 RUSH

2015年4月9日星期四

迷賊退治

 サトゥーです。昔遊んだ迷宮モノのPCゲームで、侍や盗賊が敵として登場するものがありました。当時は気にしていませんでしたが、彼らは迷宮の中で暮らしていたんでしょうか?

「あと15分ほどで、そっちにたどり着く」房事の神油
『ほ~い、待ってるね』

 アリサとの「遠話テレフォン」で向こうの状況を確認した。

 迷賊達は、アリサ達を包囲したものの、膠着状態になっているらしい。リザ達が出てきたら逃げ、その隙に小部屋に突入しようと隙間のような小回廊や迷宮の暗い壁を伝って襲ってくるそうだ。
 しかも、迷賊の親玉らしきレベル30台のヒゲ男と、マヒ毒の吹き矢を使う狙撃部隊が厄介で、なかなか攻めに転じられないと愚痴っていた。アリサ達の実力なら、排除自体は簡単なはずなので、不殺を貫いてくれているのだろう。
 そして、膠着状態に痺れを切らした迷賊の親玉が、子分に魔物のトレインを作らせて、アリサ達のいる小部屋に突撃させているそうだ。

 マップで確認する限り、多少スタミナと魔力が減っているものの、誰も怪我をしていないようだ。

 オレとルルは、太守の衛兵達を引き連れ、回廊をひた走っている。

「ご、ご主人さま、前に、また・・……」
「ルル、見ちゃダメだよ」

 回廊に横たわるのは、半ば魔物に喰い散らかされた迷賊の屍骸だ。これで何体目だろう? 当たり前だが、魔物をトレインするのも命がけのようだ。隷属の首輪をしているところをみると、この男は奴隷だったのだろう。

 遺体にたかるハチのような魔物を、妖精剣で斬り捨てる。硬そうな見た目の割りに紙のように柔らかい。

 回廊を進む間にトレインから漏れた雑魚の魔物を、ルルと2人で倒しながら進む。後ろの兵隊さん達は、このペースの移動が辛いのかさっきから静かだ。

 レーダーの端の方に迷賊が映る。

 回廊の角を曲がった瞬間を狙って、「誘導気絶弾リモート・スタン」を放つ。狙いは、アリサ達を囲んでいる迷賊の連中だ。「理力の手マジック・ハンド」と違って、誘導気絶弾は発射するのが判るので、後ろから追いかけてくる衛兵さん達の視角から外れた瞬間を狙ったのだ。
 同時に、ストレージから取り出したワイヤーの束を投げ、「理力の手マジック・ハンド」で掴んで気絶させた迷賊を縛っていく。思ったよりも難しかった。

 縛った状態で地面に転がる迷賊の所にたどり着いた。

「士爵様、この者共は?」
「恐らく私の家臣達が捕縛した迷賊達だろう。悪いが、縛るだけで固定はしていないようだ。後で地上まで連行するとして、取りあえず、そこの柱にでも括りなおしてくれないか?」
「ハッ! おい、賊を一箇所に集めろ!」男露888

 衛兵さん達に、近くにあった柱のような構造物に迷賊達を固定してもらう。 20人弱の迷賊達を衛兵達に任せて、オレとルルで回廊を進む。隊長さんを含む半数ほどの衛兵達が、後を付いて来た。ここからアリサ達のところまでは、魔物はいないようだ。

 前方から、剣戟の音が聞こえてくる。
 湾曲した通路を駆け抜ける。通路の先に、2つの赤い光が暗闇の中で交差するのが見えた。

 1人目はリザ。気のせいか、赤い光が槍だけで無く鎧にまで広がっている気がする。その影響か魔力の残りが厳しそうだ。

 2人目は迷賊の頭目らしきヒゲの大男。人族のはずなのにドワーフみたいに見える。やはり手にした魔斧のもたらす印象だろう。バトルアックスで戦う者を見るのは、ドハル老についで2人目だ。

「ご主人さま~?」「なのです!」

 小部屋の入り口を守るナナの後ろから、ポチとタマが大きく手を振って来たので俺も手を振り返す。

 リザと戦っていた頭目が、ワザとらしい大振りでリザに距離を取らせて、懐から取り出した閃光玉を地面に叩きつけた。

 漫画でありそうなシチュエーションだ。

 閃光玉が地面に叩きつけられる寸前に、ルルの前に移動して強烈な光からルルの目を守る。少し眩しかったが光量調整スキルのお陰で、幻惑される事はなかった。

「利き手を剣から放すたぁ、とんだ素人だぜ!」

 閃光を背にした頭目が、身体強化したナナ並みの素早さで俺を人質にしようと接近してきた。ここで捕虜になって、リザに助けてもらうのも一興かな。

 オレを捕まえる為に、剛毛で覆われた頭目の太い腕が首元に伸びてくる。同時に、魔斧を持ち替え、柄の方でオレの鳩尾を狙って突き出してきた。

 悶絶させた上で捕まえるつもりなのか。

 臭っ。

 強烈な臭気が、オレの鼻腔に突き刺さる。壮陽一号

 無理、無理。

 この臭い腕に掴まれるのは嫌だ。

>「悪臭耐性スキルを得た」

 そう考えが頭に浮かぶより早く、相手の腕を握り潰し、魔斧を膝で蹴り上げる。そのまま膝を折りたたんだ姿勢で、つま先で軽く相手の腹を蹴った。悲鳴すらなく小さな空気が漏れる音が耳に届く。臭い唾を自在盾フレキシブル・シールドで防ぎ、ヤツの体が浮かぶより速く「消臭デオドラント」の魔法で臭いを消す。

 頭目を頭上で一回転させて、オレの後ろ、丁度ルルの前に着地させた。ルルは、突然目の前に現れた頭目の姿に驚きつつも、エルフの里で学んだ護身スキルを活かして、流れるような動きで頭目を地面に組み伏せる。

 閃光が消え切る前に、「誘導気絶弾リモート・スタン」とワイヤーで、近隣の通路の残りの迷賊を捕縛しておいた。まだ、衛兵さん達の視界に入っていないから気付かれないはずだ。ついでに、頭目が悪あがきをしないように「魔力強奪マナドレイン」で魔力を奪う。

 閃光が消えた時、皆の前にあったのは、頭目を軽々と捕縛したルルの姿だ。

 素早く駆け寄ってきたリザが、オレの渡したワイヤーで頭目を縛り上げる。骨が砕けた頭目の腕がぶらぶらとしているのが少し気になったが、先ほどのトレインの犠牲になった死体を思い出して放置する事に決めた。

 リザは縛り上げた後に、頭目の装備する魔法の発動体らしき指輪や隠し武器を奪っていく。取りこぼしはオレが指摘して回収させた。最後に鞄から取り出した「魔封じの鎖」をリザに渡して、頭目を更に縛り上げさせる。これは放火貴族の拘束時に見かけた品で、巻物を受け取りに公都に寄った時に買い求めたものだ。公都の魔法道具屋で、普通に売っていた。1本で金貨10枚と、なかなかの値段だった。

「ご主人さま、賊を止められず申し訳ありませんでした」

 リザが、頭目を止められなかった事をオレに詫びた後、ルルを褒めている。駆けて来たポチとタマをキャッチして、手をつないでアリサ達の所に向かう。回廊の途中で転がっている雑魚迷賊の回収は、隊長さん以外の衛兵達に任せた。

 魔斧は天井深く刺さって、落ちてくる様子もないので、「理力の手マジック・ハンド」を使ってストレージに回収した。Xing霸・性霸2000

>称号「迷賊の天敵」を得た。
>称号「秩序の守護者」を得た。

 アリサ達が篭城していた部屋の前には、無数の魔物の屍骸がある。

「遅くなってスマン」
「ご主人さま、怖かったですぅ~」
「むぅ?」

 変な口調で抱きついて来るアリサが気持ち悪い。ほら、後ろでミーアがハテナ顔だ。抱きついて来た後に、小声で状況の補足をしてくれた。確かに助かるのだが、変な演技は不要だと思う。

 部屋の中は20畳くらいの広さの凸凹の石畳の部屋だ。部屋の左側――通路から見えない位置に、王女とポッチャリ君、それに5人の貴族子弟が座り込んでいる。貴族子弟の内、1人は女の子だ。部屋の右側には、25人の縛られた迷賊がいる。5人ほど増えているのは、トレインしてきた迷賊の生き残りだろう。服が血で真っ赤の割りにHPが減っていないのは、ミーアが治癒魔法を使ってやったからだと思う。

 おかしいな、怪我をしていないはずの貴族子弟達が、みんな死にそうな青い顔だ。よっぽど、迷賊に囲まれたり、魔物の大群に攻め込まれたのが怖かったのだろう。「麗しの翼」の2人は、もう少しマシだが、気力だけで立っている感じだ。

「ゲリッツ殿、侯爵夫人のご依頼でお迎えに上がりました。衛兵の皆さんも一緒ですから、ご友人方ともども安全に地上までお送りいたしますよ」
「ご、ご苦労」

 憔悴した顔のポッチャリ君に、笑顔でそう告げた。「もっと早く迎えに来い」とか文句を言われるかと思ったが、コクコクと頷いた後に普通に労いの言葉が返ってきた。ストレージに保管してある湿らせた絞りタオルを、鞄から取り出してポッチャリ君に渡す。このタオルは、ポチやタマが食事の時に良く顔を汚すので、ストレージにたくさん常備してあるヤツだ。

 キョトンとしていた彼だが、顔を拭いてさっぱりしてくださいと伝えると、ぎこちない動作で顔を拭き始めた。

 横に座り込んでいた王女も、顔に返り血なのか、泥のような汚れが付着していた。ポッチャリ君に渡したのと同じ絞りタオルを新しく出したのだが、目が死んでいるので、広げて顔を優しく拭いてやる。

「殿下も良く頑張りましたね。可愛い顔が汚れていますよ」
「……う、うむ、救援、感謝なのじゃ」

 顔を拭かれてさっぱりしたのか、王女が朦朧とした表情の中に意思の輝きを呼び戻したようだ。ロリ顔だったから気にせず拭いてしまったが、口紅や化粧がはげてしまった。男用99神油

 失敗は笑顔で誤魔化そう。弱々しくだが王女も儚げに微笑み返してくれたので、良しとしよう。

 他の貴族子弟も、抜け殻の様な有様だったが、お絞り効果がそこそこ効いたようで、「疲れた」とか「腹が減った」とか不満を漏らす程度には回復したようだ。意外な事に、と言うと失礼かもしれないが、ほどんどの子弟が、ちゃんと救援の礼を告げてきた。

 総勢70人もの迷賊を地上まで連行するのは骨だと思ったのか、隊長さんが、この場で迷賊達の首を刎ねるのを提案してきたが却下した。

 10人ずつをワイヤーで連結して、うちの前衛陣で1グループずつ連行させる。これで40人。オレとルルが特にレベルの高い10人を担当し、残り20人強の幼い迷賊達を衛兵達に担当して貰った。王女や貴族子弟は、麗しの翼の2人に護衛して貰う。

 さて、道中逃げようとするだろうから、迷賊を脅しておこう。レベルの高い10名が、余計な事を言わないように事前に猿轡を嵌めてておいた。

「聞け! 迷賊どもよ! これから貴様達を地上に連行する。逃げようとした者はこうだ――」

 打ち合わせ通りに、ミーアの魔法が剥ぎ取り終わった後の一角飛蝗の魔物の死体を強酸の魔法で焼く。嫌な匂いの煙を上げながら、ずぶずぶと溶け崩れる魔物の死体を見て迷賊達が青い顔をしている。

「――こんな風に魔法の酸で生きたまま焼かれるか、このワイバーンの腐敗毒で死ぬよりも恐ろしい姿になって悶え苦しむ事になるだろう」

>「脅迫スキルを得た」

 オレは鞄から取り出した殊更に禍々しい形状の瓶を取り出して、迷賊達に見せ付けた。この瓶は、公都で貰った新進気鋭の芸術家の作品なのだが、見た目の印象を利用してみた。詐術スキルの助力もあってか、迷賊達もオレの言葉を信じたようだ。

 途中逃げ出そうとする者が出る前に、迷宮方面軍の兵士30名が応援に来てくれたので、特に問題なく地上まで連れて行く事ができた。幸い総勢100名を越える大所帯だったせいか、襲ってくる魔物もいなかった。

 さて、あとは保護者達に貴族子弟を渡してミッション完了だ。VigRX Plus

2015年4月8日星期三

文字魔法の制限

 もう一度、レッドボアを見る。


 ランクSの魔物と戦う時、普通はランクS以上の冒険者が相対する。そうでなくては危険だからだ。日色は初めて見るユニーク魔物モンスターに興味が惹かれた。


「オッサン、アンタのランクは?」巨人倍増枸杞カプセル
「あ? CだよC」
「へぇ、結構高いじゃないか」
「お、お前はどうなんだよ?」
「Eのはず……あ、いやDになってるわ」


 ギルドカードを念じて出すと、Dランクになっていた。どうやら魔物を倒しまくっていたせいかランクも上がったようだ。


「CとDって……とてもSランクなんかやれねえぞ?」
「そうなのか?」


 アノールドと違い、平然と態度を崩すことなく言葉を並べる。しかしその間にも、レッドボアから敵意が伝わってくる。


「に、逃げるしかねえな。こっちにはミュアもいるしよ」
「何でそんな選択になる。仕留めればいいだろうが」
「無茶言うな! ランクSはお前が思ってる以上に」


 言葉が終わる前に、レッドボアが突進してきた。しかも今まで見たどの魔物よりも速い。瞬間的に日色はアノールドを蹴り飛ばしていた。だがそのお蔭でアノールドは不意の突進から逃れられた。


「痛っ! クソが! 速過ぎだろ!」


 アノールドが愚痴っているが、日色は逆だった。


(すごいな。これがランクS……)


 完全に戦闘態勢に入っているレッドボアを見つめる。その威圧感が半端無い。しかも突進を避けられて大木にぶつかったはずなのに、折れたのは大木で、自身には傷一つついていない。


(硬そうな皮膚に、あの牙。突進をまともに食らったら、一気にHP持ってかれるな)


 ゲームなら耐えられるかもしれないが、現実では一撃でも食らったら死ぬかもと思った。この場合どうなのだろうと首と眉を寄せるが、どちらにしても痛いのは勘弁なので当たってやるわけにはいかない。


「お、おい逃げるぞヒイロ! ミュアも!」


 ミュアも体をガタガタと震わせてるみたいだが、木の陰に隠れて様子を窺っている。


 レッドボアはこちらに照準を設定した。


「よし、アイツはオレが殺る」
「ば、馬鹿言うな! 絶対敵わねえっての!」
「ぬかせ。オレに不可能は無い」
「ああもう! どこからくるんだよその自信! ほら来たぁ!」


 アノールドは跳びながら避けるが、日色はそのままだ。


「ば、馬鹿避けろってぇ!」


 日色は地面に素早く『針』と書く。これは以前ゴブリンを串刺しにした文字だ。


「串刺しにしてやる!」MMC BOKIN V8


 地面からズバズバズバっと土の針がサボテンのように現れレッドボアを串刺しに……………………しなかった。


「なっ!?」


 何と土の針の方がレッドボアの皮膚に負けて折れている。そしてそのままレッドボアが突っ込んでくる。


「しまっ」


 何とか避けようと横に跳んだが、全く効かなかったことに動揺したせいか、避けるのに半歩ほど遅く、左腕にレッドボアの体が当たった。その衝撃で体が回転し、そのまま地面に叩きつけられる。


「ぐぅっ!?」


 かなりの激痛が体に走る。


「ヒイロォ!」


 アノールドは叫ぶが、それに答えている暇は無い。痛みに耐えながらも即座に立つ。だが立ちくらみを起こしたようにクラッとする。


「っの野郎……よくもやりやがったな」


 レッドボアを睨みつける。


(ちょうどいい、こんな相手に試しておきたい文字があった)


 指先に魔力を集中させる。そして文字を書いていく。何やら指が重く動かし辛い。なかなか文字が完成しない。その間にもレッドボアは突進を……いや、今度は驚いたことに牙を飛ばしてきた。


(そんなこともできるのかよ!)


 面喰めんくらったが、何とか上手く避けることができた。だがまた突進してくる。文字を書くのに集中したいが、それをさせてくれない。


 すると、レッドボアの横っ腹にアノールドが体当たりする。レッドボアは倒れないように足で踏ん張ったせいで突進が失敗する。K-Y Jelly潤滑剤


「ど、どうだ見たかぁ! これがアノールド様の」


 キラーンとレッドボアの目が光り息巻いているアノールドを睨みつける。


「あ、いや、その……」


 二人が対峙している間に文字を書くのに急ぐ。


(くそ! 早く指動け!)


 ゆっくりとしか字を書けない。何というもどかしい時間だ。その時、再びレッドボアがアノールドに向けて突進する。


「うひゃあっ!」


 横に大きく跳び何とか避ける。しかし今度は牙を飛ばしてくる。それを大剣でガードするが、そのあまりの威力に体ごと吹き飛ぶ。


「ぐは! ……や、やっぱ強過ぎ……」


 アノールドは頬を引き攣らせながら、いまだピンピンしている相手を見つめる。


(もう少し……もう少し………………書けた!)


 文字が完成し、あとはそれをぶつけるだけなのだが、少し日色とは距離がある。このままだと当たらない可能性が高い。


「オッサン!」
「お、おおどうした! やっと逃げる算段が?」
「邪魔だからどっか行ってろ」
「なっ!」


 正直レッドボアを自分一人に集中させたかった。アノールドがいては、相手がターゲットを変える恐れがあったので、アノールドは邪魔だったのだ。


「お前何言って!」
「いいからチビと一緒に隠れてろ。あとはオレがやる」
「……できるのかっておわぁっ!」


 またもレッドボアが牙を飛ばしてきたのだ。二人は左右に跳び上手く避わす。そしてアノールドが再び日色の顔を見るが、もう彼は前しか向いていなかった。何か策があるんだなと思い、日色の言う通りにその場を離れた。levitra


「さあ来い猪突猛進野郎。真っ直ぐにな」


 するとレッドボアがその挑発乗ったぁみたいな表情をして、足で地面を何度も蹴り突進の準備をする。そして地面を強く蹴り上げ、物凄い速さで向かって来た。


 指先を動かし、突進してくるレッドボアに向けて引き金を引くイメージをする。


(くらえっ!)


 放たれた文字を見て相手は一瞬ギョッとなるが、それでも自分の突進力で吹き飛ばすつもりだったのだろう。だがそれが良くなかった。文字は見事レッドボアに命中。そして……


 ドスンッ!


 突然レッドボアは力を無くしたように地面に倒れる。走っていた勢いで大きく転がっていく。


(よし、成功だ)


 その様子をポカンと見つめているアノールドとミュアは、動かないレッドボアを横目に日色に静かに近づく。


「お、おいヒイロ、何したんだ?」
「あ? 眠らせた」
「眠らせた!? ど、どうやってって、ああそうか例の反則魔法だな」
「ああ」


 ここでアノールドはおかしなことに気づく。普段の日色なら、ここで「ぬかせ」や「当然だ」などの尊大な態度をとるはずなのだが、何となく心ここにあらずと言った感じだ。


 アノールドの懸念通り、今日色は先程の状況を振り返っていた。


(眠らせることはできた。それはいい。けど書き上げる時間が掛かり過ぎた)


 そう、いつもと違い30秒くらいの時間が掛かった。北冬虫夏草


(これはやはり相手の状態を強制的に変化させるための《反動リバウンド》? 自分以外の生物の状態を変化させる時には相応の《反動リバウンド》があるってことか? 『眠』でこれだ、もし『死』とかなら……)


 そう考えて背筋に冷たいものが走るのを感じた。


(いや、『死』だってハッキリとイメージすれば《反動リバウンド》は無いはずだ。それに良く考えれば、『眠』も《反動リバウンド》というよりは制限がかかった感じだった。つまりそれなりの対価を要求されたってわけだ。ということはだ、文字の効果の度合いによって、様々な制限があるってことか?)


 そう、《反動リバウンド》なら自分自身に災いが降りかかってくる。今回のは、書くスピードに制限が掛かっただけである。とても《反動リバウンド》とは呼べない。


(そういや、『針』も『硬』も、範囲が四畳くらいって制限があるもんな。幾らイメージでそれ以上の範囲を指定しても、必ず制限がかかる。『飛』のスピードも同様だったようにな。なるほど、文字にはそれぞれに制限がある。それが分かっただけでいい。とりあえず今は……)


 眠っているレッドボアの近くまで歩いて行く。効果は一分。もうすぐ目覚めるだろう。


「お前の命貰うぞ」


 『刺刀・ツラヌキ』を体に突き立て、そのまま力を込める。だがなかなかに硬い。さすがはランクSの魔物である。


「はあっ!」


 全力で突き立て、ようやくブスリと体内を貫いた。そしてレッドボアはビクビクっと痙攣しながら絶命していった。


 ピロロロロロ~ン。久しぶりに頭の中にあの音が鳴り響いた。そこで《ステータス》を確認してみる。Motivat

2015年4月4日星期六

ストレス解消する主人公

実は日色の言うことを完全に信じていなかったイヴェアムは、彼らが消えたことに日色が間違いなく関わっていて、少なくともこの近くに彼らの魔力を感じないことから日色の言っていることの信憑性が格段に上がった。RUSH PUSH 芳香劑


「ヒ、ヒイロ……本当に……?」


 だがまだ信じ切れていないのか目を大きく見開き尋ねている。しかしもう日色は限界と言った感じで睨みつけてくる。


「これで最後だ。何も言うことなかったら、問答無用で送る」
「あ、ちょ、ちょっと待ってくれ! キリア! 一緒に…………」


 イヴェアムはキリアも共に帰ろうと言いたかったが、彼女の無機質な目を見てゾッとした。そして同時に、彼女は自分の知るキリアでは無かったのかと愕然の思いを浮かべる。


(なら今まで過ごしてきた時間は何だったのよ……キリア)


 イヴェアムの思いをよそに、キリアはすでに行動を起こしていた。その凄まじい速さでイヴェアムの懐へ潜ると、またも先程のように胸を貫こうと貫手を放ってくる。だが、


 バシィィィィィィ!


 先に驚愕の思いをしたのはキリアの方だった。キリアは何かに弾かれるように後ろへ飛ばされてしまった。


「悪いが、コイツを殺らせるわけにはいかないんだよ」


 そう言う日色の手の甲には『防御』の文字が光り輝いていた。これは設置文字だったのだが、それを知らない他の者は、光り輝く魔法の壁を見て、また光魔法を使用したのかと勘違いしている。


「私の攻撃を防ぐ? 何なのですかその魔法は?」


 キリアは淡々と言葉を並べてくる。


「答える義務は無いな。精々何が起こったか思い悩むんだな」


 どうやら先程目を逸らしたことで、一本取られたことを根に持っていたようだ。イヴェアムはその防御壁を見て感嘆の思いを宿していたが、ここなら安全だと思ったのか、表情を元に戻し、キッとした目つきをキリアに向ける。


「キリア……まだ私はよく理解していないが、私は、私の魔王を貫く! そしていつか、お前の目を覚まさせてやる!」
「……はぁ、私は起きていますが?」


 イヴェアムの言葉はキリアには暖簾のれんに腕押し状態のようだ。悔しそうに歯噛みしながら、イヴェアムは鋭い視線をルドルフに向ける。


「ヴィクトリアス王よ」


 ルドルフはさすがに王なのか、いろいろ予想外の出来事が起きてしまっているが、威厳を保ち、彼女の顔を無言で見返している。巨人倍増


「一つだけ言っておく。私は……」
「…………」
「私は諦めぬ! 何故な」


 ピシュン!


 と一瞬のうちに彼女の姿が消える。その後ろにはイライラしている日色がいた。


「話が長い」


 イヴェアムの舞台にあっさりと幕を下ろさせた日色は、


「あ、そういやアンタはいいのか?」


 ジュドムに声を掛ける。彼は人間だが、イヴェアムを庇っていたように見えたので、仲間と判断していた。


 そのため、彼女だけ飛ばさずに残したというのが本当の目的だった。だが話の長さにイラッとしてしまい送り返してしまった。だからもう直接本人に一緒に【魔国】へ行くのか聞いた。もうついでだから何でも良かった。


「いや、話を聞くに魔界へ戻るんだろ? 俺は俺で、こっちでやることがあるからな」
「そうか、なら置いていく」
「あ、ちょっと待てよ。……これを魔王ちゃんに渡してくれ」


 そう言ってジュドムから一枚の紙を受け取る。それはテッケイルの文字が刻まれた紙だった。日色は黙って受け取り懐へとしまう。


「なあおい、お前さん名前は何てえんだ?」
「それならアッチの愚王にでも聞くんだな」
「ルドルフにか?」


 そう言ってルドルフを見るが、彼は何のことだ? と言わんばかりに眉をひそめている。


(あ、そうか、今は『インプ族』だったなオレ)


 そう思いジュドムの言葉を無視して消えようと思ったところ、


(あ、そういや言いたいことあったんだっけか)


 ルドルフの方に体を向けると、


「おい国王」
「……?」
「お前、勇者どもを捨て駒にしたな?」
「…………」
「ま、それはどうでもいいんだけどな」


 いいのかよと周りから突っ込みが聞こえそうになる。


「あの時、召喚された当初はオレはまだヒヨっ子で、強くなるまでは自分のことを隠しながら旅してきた」MaxMan
「……召喚だと?」


 ルドルフの眉がピクリと上がる。それを見て日色は微かに頬を緩める。


「だが今は違う。バレて目立っても問題ないほどいろいろ経験してきた」
「召喚……その態度……まさかお主……!?」


 段々とルドルフの顔が驚愕に歪められていく。


「今なら言える。オレをこの【イデア】に召喚してくれたこと感謝してるぞ」
「…………」
「もう二度と会うことも無いだろうから一応礼を言っておこうと思ってな」
「お主……そうか、勇者とともに召喚されてきた」
「そう、一般人だ」


 王の愕然とした顔が面白くて日色がほくそ笑んでいる。だがそこでルドルフは自分の考えを切り捨てるように首を左右に振る。


「ふん、馬鹿を言え。お主は『魔族イビラ』であろうが! あの時召喚されたのは……っ!?」


 すると日色の顔が『インプ族』から元の日色の顔へと戻る。無論戻ったのは『元』の文字を使ったからだ。


「こんな顔だった……か?」


 それにはその場にいる誰もが驚いた。瞬間移動に治癒魔法、そして光の壁。更には変身魔法。あまりにも不可思議な日色の魔法に、思わず時が止まったように静かになる現場であった。


「あ~少しはスッキリした。バカ弟子のバカっぷりに魔王の話の長さでイライラしてたが、少しスッキリしたな」


 どうやら全部ストレス解消のために皆を戸惑わせて楽しんだようだ。だが半年前の日色なら間違いなくこんなことはしなかった。


(ん~これは赤ロリに影響受けたか……?)


 そう、こんな人をおちょくるようなことをして楽しむのはまさしく旅仲間であるリリィンの専売特許なのだが、長く一緒にいる間に少し影響されてしまったかとこの時思ってしまった。中華牛鞭


(いや、少し自重しよう……)


 リリィンみたいになりたくはないからと反省するが、妙に溜飲が下がる思いがして気分が良いので、やって良かったかもとも思った。日色はもう一度『化』で『インプ族』の姿に戻ると、


「さて、それじゃオレはここらで」
「待て小僧がァッ!」
「ああ?」


 いつのまにか上空へと舞い上がっていたのはレオウードだった。両拳に力を溜めている。これは先程放った技と同じ姿だった。


「魔王をどこへやったぁっ!」
「…………自分で探せ」


 それだけ言うとプイッと下を向いた。


「なっ! ならその体に聞くまでだァァァァァッ! 喰らうがいいっ! 《極大焔牙撃きょくだいえんがげき》ィィィィィッ!」


 先程と同様に凄まじい破壊力を込めた真っ赤な牙が襲い掛かってくる。日色の作った防御壁と衝突する。


 ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!


 ビギギギギギギギギギギギッ!


 衝撃音と、魔力と魔力が衝突し合って、互いに激しく擦り合わさる音が轟く。


「……ほう、さすがは獣王だな」


 先程確認した《ステータス》に獣王と乗っていたので、彼が【獣王国・パシオン】の国王だということは理解している。そしてその国王の強さは半端無いと噂でも聞いていた。


 日色が作った壁が、彼の力に負けそうになっているので、その暴力の強さに感心するように声を漏らしている。芳香劑 ULTRA RUSH


「だが残念だな」


 バシィィィィィィィィンッ!


「グハァァァァァァァッ!?」


 突然壁が眩い光を放ったかと思うと、レオウードの放っている力がその壁に当たり、自分に返って来たのだ。


『反射』


 それが日色が新たに書いた文字の効果。この文字は一度だけならどんなものも弾き返すことができる極めてチートな文字効果を持つ。


 レオウードはそのまま吹き飛ばされ地面に転がっていく。そんな彼に対して一言。


「レベルが違うってことだ。精進しろよ獣王。じゃあな」


 ピシュン!


 今度こそその場から消えた日色。


「そ、そんな……父上の《化装術》をいとも簡単に……」


 レオウードの第一子であるレッグルスは、自分よりも遥かに強い父親の技をあっさりと跳ね返してみせた謎の少年を見て吃驚していた。無論父親は怒りに狂い暴れ倒すのではと思っていた彼は、ハッと息を飲みながらレオウードを見つめる。イギリス 芳香劑

2015年4月1日星期三

聖地への暗い足音

【聖地オルディネ】、かつてこの世界【イデア】に召喚された勇者が、困窮していた『人間族ヒュマス』を救い、その天寿を全うしたと言われている場所。


 白を基調とした建物ばかりが立ち並んでいるが、その中で一際大きく、そして美が整えられた神殿がシンボルとして存在感を放っている。SLEEK 情愛芳香劑 RUSH 正品


 神殿の名は《オルディネ大神殿》といい、そこは少し前に『人間族ヒュマス』と『魔族イビラ』が同盟会談に赴いた場所でもある。両者にとっては苦い思い出になったその場所だが、神官長であるポートニス・ギルビティは、先に起こった争いで傷ついた建物の修繕に気を配っていた。


 彼女は過去にやって来た勇者の仲間である初代神官長を務めたロウニス・ギルビティの血を引く美女である。齢三十を過ぎてはいるが、年齢を感じさせないほどの張りのある白い肌や、透き通るような瞳は神官に相応しいものを持ち合わせていた。


「ふぅ……」


 その整った表情から溜め息が漏れ出る様子は、普段の凛とした佇まいを崩さない彼女にしては珍しいものだった。


 しかし彼女がつい頭を抱えてしまうのも無理はなかった。それはやはり同盟決裂の際に起こった悲劇についてである。幸い神殿はほぼ無傷で残ったが、傍にある多くの建物が突如変貌した『人間族ヒュマス』の国王であるルドルフによって破壊されていた。


 しかも建物だけではなく、この場では多くの兵士や神官が巻き込まれて亡くなってしまった。神聖な場所であってはいけないことが起きてしまい、その事後処理などに寝る間も惜しんで働いていたのである。


(報告によると【ヴィクトリアス】は、あのジュドムが何とか纏めているみたいだから安心だけど、それはあくまで国民だけの話ね……)


 手元の書類に書かれてあるのは、つい先日に【ヴィクトリアス】のギルドマスターであるジュドムから贈られてきた書状であった。彼はあれからずいぶんこちらのことを気にしてくれてはいる。


 会談決裂を防げず、あまつさえ国王の暴走も止められなかった負い目からきているのかもしれないが……


(自分の方が大変でしょうに……)


 国を纏め上げることの重大さは、ポートニスに完全には理解できない。だが彼ならばその資質は十分にあると思っている。今が一番大事な時だというのに、こうして他のところに気を回す性分は相変わらずだと思い苦笑した。Xing霸・性霸2000


(だけど、これからでしょうね、本当に大変なのは)


 ジュドムは傑出した王の才能を持つ者ではあるが、いかんせん身分が低い。いち平民でありながらギルドマスターを務めている彼だが、実績を身近に感じている冒険者や民たちは彼を支持するだろうが、他の貴族たちは少々厄介だろう。


 平民が上に立つ。それは今まで平民を見下してきた貴族たちにとっては耐え難いことに他ならない。その不満の集をどう扱っていくかが問題になってくる。


(彼は人を信じ過ぎるきらいがあるし……だけど私では力にならないわ)


 今ここを離れるわけにはいかない。自分にも守るべき場所があるのだから。彼には世話になっているし、支えになってあげたいと思うが、この状況が恨めしい。


 軽く溜め息を吐くと、どこからか花の香りのような甘いニオイが漂ってきた。どこにも花が無いのでおかしいと思いつつも、しばらくするとニオイが無くなったのでそれ以上は気にしなかった。


 そのまま少しの間、書類を睨み合っているとふと違和感を感じた。


 今の時間は建物を修繕している金槌を叩く音が耳に届いてくるはずだ。休憩しているのか? そう思ったが、あまりに静か過ぎる。まるで今は夜更けで皆が寝静まっているかのような静寂さを感じる。


 書類を机の引き出しに片すと、窓の方へと足を動かす。そしてそこから見える光景に言葉を失った。


 そこからはちょうど神殿の入口近くを確認できるのだが、そこには毎日多くの参拝者が来ているはずだった。あの事件のせいで少し減ってはいたが、それでも一人二人といった数ではない。


 今日だってかなりの数の人が参拝しに訪れているし、まだ人が途切れるような時間帯でも無い。それなのに、窓から見える範囲に目を動かしても、誰一人発見できずにいた。


「ど、どういうことなの……?」


 まさしく異常事態が起こっていることには変わりはないが、そのあまりに逸脱した状況にどう行動を起こしていいか分からず立ち竦んでしまっていた。男用99神油


 トントン。


 突然聞こえたドアのノック音で、ハッと振り向く。普段なら誰か神官がやって来たのだろうと思うが、この状況だからか、そのノック音が酷く歪に聞こえた。


 まるでありえないものを聞いているかのような感覚さえ過ぎる。だがノック音は再び届き、思わず「はい」と震える声で返事をしてしまった。


 するとガチャッとドアノブが回される。自然と視線はそのドアの向こうにいる誰かに向けられる。


 そこには…………黒衣のローブで全身を覆った不気味な何かが存在した。

 誰……? と質問しようと口を動かそうとするが、言葉にならない。体は硬直してしまい、身動き一つできなかった。


 そしてその黒衣のローブはゆっくりと部屋の中へと入って来た。その後ろには同じような服装をした者がもう一人いた。どうやら二人組だったようだ。


(な、何この人たちは……!?)


 非常に不気味で、恐怖しか感じない。その場を逃げ出したいという欲求に従いたいが体は動かない。一体何の目的があってここにやって来たのだろうか?


 いや、そもそもこんな不可思議な状況を作り出したのはこの者たちなのだろうか?


 疑問を浮かべつつ、二人の人物を観察するが、突然一人の人物が勢いよく黒衣のローブを剥ぎ取り、


「やあやあやあ! 天が問い地が問い人が問う! サイッコウに美しい人物は誰かと世界が嘆き問う! そう! その誰かとはまさしくこの僕さぁっ!」威哥十鞭王


 …………………………………………は?


 まるで舞台劇のワンシーンをこれでもかというほど大げさに演じているような人物だった。キラキラ輝く宝石のような石を真っ白な服に装飾されており、目立つことを前提とした存在感は思わず一歩後ずさってしまうほど強烈だった。


「僕の名を知ってるよね? ううん、知らないはずはないよね? だって……そう! 僕は美しいから!」


 突然「ああ!」と言いながら頭に手を当ててポーズを決めている。


「ああ……僕は何て罪なんだ……名乗ってもいないのに、誰とも知らない輩にすら届いてしまう名声! ああ、僕は自分が怖い……この美しさでいつか人が死ぬのではないかと思うほど!」


 クルクルと体を回転させて両手で自分の体を抱きしめている。確かに身長も高く、きっと日頃から丁寧に手入れをされているであろうウェーブを与えられた金の長髪は美しい。それに顔つきも女性なら迫られれば頬を染めてしまうくらい整っている。しかし……


「ああ! 僕は何て罪深き愚か者なんだろうか!」


 この気味の悪いクネクネした動きと、鬱陶しいほどのナルシスト言動が無ければ……確かにイケメンなのだが……。


「……少し黙れクソメン」


 その時、もう一人の黒衣の人物からナルシストに向けて言葉が放たれた。その声はどことなくイライラしている様子が感じられた。だがナルシストと違って女性のようだ。極品狼一号


「アッハハ! いいだろう、クソメンと呼ぶことを許してやろう! 何故ならばそれが僻ひがみだと僕は知っているからさ! ならば耐えよう! その粗末なフェイスに収まる汚れた瞳には、僕があまりに眩しく映ってしまうのだろう! 分かっているよ、分かっているんだ! 君も本当は呼びたいんだろう? 僕のことを……麗しの美びジョニーと!」
「誰が呼ぶかっ!」
「アッハハ! 照れなくてもいいのさ! そう、僕は麗しの美ジョニー! ビジョニー・オルバーンとは僕のことさぁ!」


 まるで誰の声も歯牙にかけない様子でまたクルクル体を回転させ始めた。


「ああもう! 何で私がこんなクソメンとコンビなんだ!」
「アッハハ! 光栄なことさぁ~!」
「不名誉極まりないわ!」


 どうやらかなりのチグハグなコンビのようだが、フッと体の力が緩む。思わず喉に手をやり、声が出ることを確認すると、


「あ、あなたたちは何者? 何しにここへやって来たのです?」


 ポートニスはようやく聞きたかった質問ができると思い真っ先に問う。そしてそれに答えたのはうるさい方の人物だった。


「ああ……あなたもなかなかに美しい……だけど僕には残念ながら多々及ばない! 何故なら僕は……」
「もういいから黙ってろボケッ!」


 黒衣の人物はそう言うと、こちらに体を向けて大きく溜め息を吐いた。夜狼神