2014年5月31日星期六

暗闇と幻想

私は何も知らない子供だった。
 
『人を愛すれば幸せになれる』
 
私の好きだった言葉。
 
それに例外はないと信じ、禁忌も罪という言葉も知らないただの子供だった。蒼蝿水(FLY D5原液)
 
この世界に生れ落ちてから私が愛したのはひとりの男の人。
 
私よりも7歳も年上である実兄だった。
 
「久遠、キミは本当に可愛いね」
 
お兄様は私に優しく微笑み、頭を撫でてくれる。
 
私を溺愛してくれるお兄様を愛していた。
 
彼の前には他の男の子の姿なんて目に入らないくらいに。
 
私にとっての例外は幼馴染の恭ちゃんだけ。
 
実際、他の男の子とは小学生の頃は話した記憶はほとんどない。
 
それでも、私は満たされていた。
 
たったひとりの男の人を愛する、その意味は変わらないから。
 
 
 
私達の関係に変化が起きたのは4年前、中学2年生の冬。
 
その日は珍しく街に雪が降っていた。
 
降り積もる雪を踏みしめながら道を歩く。
 
白い雪に足跡がつくのが私は何だか楽しかった。
 
「ん?お兄様、もう帰ってきてるのかな」
 
学校から家に帰ると、何だか家の中は騒然としていた。
 
私がリビングの方へと向かうと、怒鳴り声が響き渡る。
 
「……この馬鹿者がッ!」
 
お父さんに頬を叩かれたお兄様の姿がそこにはあった。
 
普段、温厚なお父さんが怒るなんて滅多にない。
 
頬を押さえるお兄様は冷めた瞳をしていた。
 
私が室内に入ると、若干、険悪な空気は弱まった気がした。
 
「な、何?どうしたの?」
 
「……久遠か。何でもない。お前が気にする事ではない」
 
「だって、お、お兄様が……大丈夫?」
 
私がお兄様に近づこうとすると彼は私に見せた事のない辛い顔をして、
 
「触るな、久遠。僕にはもうその資格はないんだ」
 
「何があったの、お兄様?」
 
「……」
 
彼は何も言わずに自分の部屋と戻ってしまう。
 
私はリビングに残った両親に不安気味に尋ねた。
 
何が起きたのか私は知りたかったから。
 
それは私の心を震撼させる大きな事実だった。
 
突然、お兄様が“結婚したい”とお父さんに言ってきたらしい。
 
……相手の女性は人妻、彼は既に家庭を持つ相手と関係を持った。
 
その果てに彼女には子供ができて、向こう側の家庭は崩壊する。
 
自分の都合で離婚させた人と結婚したいなんて言うお兄様。
 
うちの家はそれなりの資産家でもあり、スキャンダルのような今回の事を認めるわけにはいかない。
 
当然、お父さんは反対して今の状況になっている。
 
他人の幸せを壊して得た新しい幸せ。
 
私は信じる事なんてできずに呆然としていた。
 
信じられるわけがない、信じたくなんてない。
 
あの優しい彼がこんな形で私を裏切るなんて思いたくない。
 
「そんな……嘘っ……」
 
お兄様が大好きだった。
 
私たちは兄妹を超えた関係だと思い込んでいたのに。
 
私は足から崩れ落ちるように座り込んだ。
 
「……嘘よ、そんなの嘘に決まってる……」
 
誰よりも信じたかった。
 
お兄様が私を裏切るはずがない、と。
 
けれど、それは紛れもない事実だった。
 
彼は私を裏切ったという事実だけが私に突きつけられた。Motivator
 
その夜、私の部屋をお兄様が訪れる。
 
外はまだ雪が降っている。
 
私はずっと冷たい雪を眺めていた。
 
「……久遠。僕だ、いいかな?」
 
静かに扉を開けて現れるお兄様。
 
腫れた頬が痛々しい彼はいつものように何も変わらない雰囲気だった。
 
「久遠、夜中に悪いな。少し、話がしたいんだ」
 
「私もお兄様と話がしたいわ」
 
彼は私に嘘をつかずに全てを話してくれた。
 
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
 
私の知らない所で動き始めていた世界。
 
それを運命というならば、私は運命なんて大嫌いだ。
 
お兄様はその女性を愛していると告げた。
 
「自分の行動の結末だった。何を言おうと言いワケにしかならないが、僕は彼女の事を愛しているんだ。この世界の誰よりも大切にしたい」
 
私がお兄様を好きだと知っているはずなのに、そう言ったんだ。
 
彼女のお腹には既に子供がいると告げられた時、止められない衝撃が私の中を駆け巡る。
 
それは怒りではなく寂しさ。
 
「……お兄様は私を裏切るの?私を好きだって言ってくれたのに」
 
「すまない。だが、僕たちは兄妹なんだ。血の繋がった者同士、結ばれることはない」
 
「そんなの関係ないじゃないッ!」
 
私が彼にすがりつこうとするのを首を横に振って拒まれる。
 
「私はお兄様が好きよ。誰よりも好きなの。それは今も変わらない」
 
「ダメなんだ。僕が……もうダメなんだ。キミを好きでい続ける事はできない」
 
兄妹で愛し合う事は罪、許されるべき事ではない。
 
だから終わる、ここで私たちの恋愛は終わる。
 
私とお兄様の関係、破壊されていくのを感じながらも必死に止めようとする。
 
それはまるで砂を手にすくい上げたように、指の隙間から流れ落ちて止める事ができない。
 
幸せも、思い出も、何もかも……壊されていった。
 
「……兄妹は好きにはなれても、愛せない。好きは気持ち、愛は行動。気持ちを持つ事はできても、行動できない。分かるだろう。僕達は兄妹、その事実は未来永劫変わる事のない事実だ」
 
「そんなの綺麗事よ……。気持ちさえあればそんなの関係ない」
 
問題なのは私たちの心のはず。
 
だからって、私以外の相手とそんな関係になるなんて。
 
しかも、相手には既に家庭があったはずなのに。
 
それを壊して自分達だけ幸せになろうとする彼らが汚らしい。
 
「……僕はね、あの人に同情していたんだ。愛の冷めた彼女に蘇らせたかった。人を愛する気持ちを。……それがいつのまにか本物の愛情に変わっていた」
 
「間違ってるよ、お兄様。そんなの間違ってる」
 
「それなら正しい恋愛って何なんだと思う、久遠?」
 
答えられない私、それは言葉の矛盾でもある。
 
この世界に間違いのない恋愛なんて存在しない。
 
そう叫べば、私とお兄様の関係も間違いではないのだから。
 
「お兄様。それがお兄様の選んだ道なの。それしかないの?」
 
「ごめん。……今はキミにそれだけしか言えない。僕はあの人と生きたいから」
 
どうしてこんな事になってしまったんだろう。
 
何が間違っていたんだろう。
 
その夜、お兄様はこの家を出て行き、行方不明になった。
 
祝福されない恋愛の果てに駆け落ちした。SPANISCHE FLIEGE
 
残されたのは私の孤独の気持ちと、白き雪の上につけられた足跡だけだった。
 
 
 
それからの私は何もかも信じられなくなった。
 
人の心も、人の気持ちも、人という存在も。
 
信じる事が正しいとは限らない。
 
私は部屋に引きこもる生活になった。
 
学校にも行かず、ただベッドに寝転がるだけの日々が続く。
 
怒り任せて散らかし、荒れ果てた部屋を眺めながら、お兄様の事を想う。
 
枯れた花は生きることはできずに、ただ朽ちていくだけ。
 
私にはもう何かにする活力もなければ、暗闇の世界だけしか待っていない。
 
「……おはよう、久遠。学校行かないのか?」
 
気がつけば私の部屋に男の子の声がする。
 
私はうつろな瞳で見上げると中学の制服を着た恭ちゃんが立っていた。
 
私が休みがちになってから、毎朝、彼が私を迎えに来てくれている。
 
私は何度も来なくていいと言ってるのに。
 
「行かない。今日も行く気がないから……」
 
「そう。なら、いいや」
 
彼は別に強制するわけでもなく、散らかった私の部屋を少しだけ片付ける。
 
恭ちゃんは誰かに言われて来てるわけじゃない。
 
私の事を心配してくれているみたいだ。
 
「西園寺……なんで毎日来るの?私は学校に行きたい気分じゃないの。分かるでしょ」
 
「ああ。でもさ、もしかしたら学校に行きたい気分になる日もあるんじゃないか。その時は一緒に登校してやる。それだけだ」
 
お節介、と言えるほどの事でもない。
 
彼のそういう優しさは今の私に必要なものだった。
 
両親のように言葉や態度で強制されるものでもなく、ただ私の気分に任せてくれている。
 
こうして毎日、顔を出してくれるだけで、私はこの世界から見捨てられていないと実感させられる。
 
「……西園寺。私は何で生きているのかな」
 
彼が窓を開けて新鮮な空気を入れ替えている後ろ姿に問う。
 
恭ちゃんは何も言わずにカーテンを紐でまとめていた。
 
「私……生きている意味ってあるの?どうすればいいの?」
 
無気力な私にようやく振り向いた彼は淡々と言葉を呟いた。
 
「……自分が生きる意味なんて他人に理解できるのか?」
 
「え?」
 
「俺の人生じゃない相手の生きる理由なんて答えられない。どうすればいいか、どうしたいか、の間違いだろ。誰かのために生きているわけじゃない。自分の決断、生きる目的、そんなもんは自分で決めろ。そうやって、久遠は15年間生きてきたんだろ」
 
まっすぐな彼の視線、私はまぶしい朝日を浴びながら、
 
「生きる目的はお兄様だった。彼だけが私の全て」
 
「そういう生き方もあるだろうな。だから、彼がいなくなったらそれで終わりか?」
 
「……他にどうしろっていうの?」
 
「自分で探せ。生きる目的なんてその時、その瞬間、変わっていく。それは誰かに敷かれたレールの上じゃなく、自分で決断した道を進む事が必要だから」
 
「難しいわね……すぐには何もできそうにない」SPANISCHE FLIEGE D9
 
「なら、ゆっくり時間をかければいいさ。誰もそれを急くことはしない。ただ、俺は久遠のこういう姿をいつまでも見たくないけどな」
 
ふっと私の前に差し出された手。
 
私が見上げた彼は微笑みながら言う。
 
「少しだけ、外の空気を吸う気はないか?」
 
「……少しだけなら」
 
彼の手を握り返し、私はベッドから立ち上がる。
 
そのまま私をベランダに連れて行った。
 
外は寒さの本格的な1月、冷え切った空気が私を凍らせていく。
 
「外、寒いわね……」
 
「そりゃ、まだまだ冬だからな。寒いに決まってる」
 
自然な格好で私は温もりを求めるように抱きついた。
 
彼は拒絶することなく、私に温もりを与え続ける。
 
世界は私が何をしていようと動いている。
 
止まらない世界の動きに取り残されたまま。
 
私は失笑しながらその冷たい世界に触れる。
 
「……ねぇ、西園寺。泣きたい時に泣けないほど辛いものってないわ」
 
「泣きたいなら泣けばいい。誰かがそれを咎める資格なんてありやしない。涙を流せるっていう事は生きてるってことだからな」
 
「……そう。それじゃ……泣かせてもらうかな。それでもいい、恭ちゃん?」
 
「したい事があるなら誰のいう事も聞かない。それが久遠だろ」
 
静かにあふれ出した涙を彼は受け止め続けてくれる。
 
慰めに言葉はない、ただ何も言わずに抱きしめてくれた。
 
「……お兄様……うぁあっ……ぁぁっ」
 
泣き続ける私を受け止める彼、安心して泣けるという事。
 
泣くという行為は悲しさを洗い流す行動。
 
「……あぁぅ……やぁっ……」
 
誰の目も気にせずに自分のために泣ける。
 
恭ちゃんの行動は私に安らぎを与えてくれた。
 
ひたすら涙が枯れるまで泣き続けると、私は眠気に襲われる。
 
「……眠いか、久遠。疲れたら寝たらいい。今日は学校お休みだな」
 
「いつもだけどね……」
 
泣き止んだ後は彼にもたれるように瞳を瞑る。
 
彼は私をベッドに寝かせると静かに語りだす。
 
「例え、信じる気持ちが裏切られても、人はまた誰かを信じる。何度でも信じる」
 
「裏切られた痛みを知るのに、それってバカみたいじゃない」
 
「それがこの世界、現実なんだよ。誰も信じられない冷たい世界にひとりっきりでいるくらいなら俺はバカのままでいい」
 
私は「そうね」と短く答え、眠りに落ちていった。
 
私が恭ちゃんに求めたものは“お兄様の代わり”でも“恋人”でもない。
 
ただどんな時にでも頼りになり、私を受け止めてくれる存在。
 
私は恭ちゃんに“お兄ちゃん”を求めていた。
 
……それは今も心のどこかに眠り続けている感情。
 
恭ちゃんは私を裏切らない。
 
絶対的な信頼をしている私の理解者。
 
兄のように優しく私を見守り続けてくれる。
 
その日から少しずつ、私は再び、外の世界に触れる事になる。
 
彼が与えてくれたのはきっかけ。
 
私がもう一度現実を見つめなおすようになるきっかけ。
 
探してみよう、私が生きる意味、目的を……。
 
世界の明るさを見失った私だけど、ゆっくりと再生の一歩を踏み始めた。SPANISCHE FLIEGE D6

2014年5月28日星期三

バレンタインデーと妄想

バレンタインデー。
 
それは女の子にとって男の子にチョコレートを渡す日。
 
チョコを渡す行為、それに込められた気持ち。田七人参
 
その想いをチョコに託す。
 
だから、バレンタインデーは特別の日。
 
ちなみにバレンタインデーにチョコを渡す習慣は国々によって違うらしい。
 
製菓メーカーの陰謀という奴に限って、チョコレートをもらえずひがんでいる。
 
などというどうでもいい話だったが、ここからが重要な話だ。
 
バレンタインデーとは女の子にとっては想いを託すイベント。
 
しかし、男にとっては戦いの日でもある。
 
翌日の男たちの会話。
 
『お前、バレンタインデーでチョコいくつもらった?』
 
チョコの数が多ければ多いほど、そいつは人気者だという優越に浸れる。
 
見栄をはって10個とか言ってる奴ほど、実は母親からの1個だけという事が多い。
 
嘘と真実。
 
そう、バレンタインデーは男にとってプライドの勝負なのだ。
 
 
「おお、これは……」
 
その日、俺はリビングのテーブルの上に置かれた小さな箱を見つけた。
 
そう、それは紛れもないチョコレートの箱。
 
俺は辺りを見渡して誰もいないのを確認する。
 
「……チョコレートか」
 
俺はそれを手に取って調べ始める。
 
包装紙は解かれた後なのか、中身は高級チョコレートだと分かる。
 
この時期限定のチョコレート。
 
これは妹のものか、そう判断した俺はそれを机に戻す。
 
妹は中学生、お小遣いも少ないはず。
 
それなのにこれだけのモノを買うとなると結構気合が入っている。
 
相手は誰だ、誰なんだ。
 
彼女に恋人はいない、好きな男の子の話も聞かない。
 
ということは、もしかして俺に?
 
普段は冷たいくせにこういう時にしか愛を示すことができない。
 
『いつも素直になれなくてごめんね、お兄ちゃん』
 
そう言って差し出されるチョコレート。
 
『わかってよぉ。私、お兄ちゃんが大好きなの』
 
妹の不器用な愛情、お兄ちゃんはいつでも受け取ってあげるぞ。威哥十鞭王
 
「ふふふ……」
 
俺が自分でも不気味に笑みを浮かべていると、
 
「……その笑い方、普通に気持ち悪いです」
 
妹が自分の部屋から出てきたのか、リビングにやってきた。
 
俺の前にチョコレートがあるのを確認すると、
 
「ああ、ここにあったんだ。探してました」
 
それを手に取ると彼女はそのまま部屋に戻ろうとする。
 
「って、ちょっと待って」
 
「はい?どうかしましたか?」
 
妹を止める俺、流れ的に今おかしかったよね。
 
彼女は微妙に嫌そうな顔をしながら、
 
「話があるなら早くしてください。私も暇ではないので」
 
「お兄ちゃんは家族の会話が足りないと感じています」
 
「気のせいです。十分足りていますから。もういいですか?」
 
なぜかたった一言で今の俺達、兄と妹の関係を明白にした気がする。
 
こういう些細なすれ違いが、やがて大きな家族崩壊へと繋がる。
 
いけない、こういう展開は非常にいけない。
 
と、本題からずれてしまったな。
 
俺は彼女に椅子に座るように告げると、渋々彼女は席に着く。
 
「用は何ですか?」
 
「今日は何の日でしょう」
 
「2月14日。バレンタインデーですね。もういいです?」
 
「待って。お願いだから、少し話をしてください」
 
俺は彼女に紅茶を入れて、必死の足止めを行う。
 
紅茶とケーキをさしだすと妹もようやく「帰る」といわなくなった。
 
将来は執事にでもなれそうな手際のよさ。
 
自分でも彼女に尽くすのに慣れてきたのが少し悲しい。
 
「今日はバレンタインデー。そして、キミの手にあるのはチョコレート。さぁ、何かお兄ちゃんに言うことはないか」
 
「もしかして、チョコレートが欲しいんですか」老虎油
 
「イエス。というわけで、それください」
 
「寝言は寝ていってください。これは私のチョコレートであって、お兄さんのために買ってきたわけじゃないです。当たり前でしょう。どうしてこんな高いチョコレートをお兄さんに買い与えなきゃいけないんですか」
 
一気にまくし立てるような発言に俺も少なからずショックを受ける。
 
「妹に質問がある。自分用にチョコレート買ったのか?」
 
「そうです。最近はそういう女の子も多いんです。義理チョコとかそういうのも、最近は少ないらしいですよ。私は元から誰かにあげるつもりはないんですけど、自分用に欲しくて買いにいきました。美味しそうでしょう」
 
さりげに俺にチョコをあげるつもりがない宣言。
 
『お兄ちゃん。私の愛を形にしてみました』
 
ハート型のチョコを差し出す妹、なんていう男の甘い妄想が砕かれていく。
 
ああ、俺はもうダメだ。
 
愛が、俺には愛が足りない。
 
呆然としていた俺に妹は大きなため息をひとつつきながら、
 
「もう。ホントにダメな人ですね」
 
「すいません。期待していた俺が悪いんです。彼女がいないから、唯一の希望、妹がくれるのを期待していたんです。俺は本当に負け犬ですね。生きていてすいません」
 
「あ、あの……そんなに落ち込まないでください」
 
さすがに哀れと感じたのか、珍しく妹が優しい言葉をかける。
 
「気にしないでくれ、妹よ。お兄ちゃんは明日、友人達に誰一人からもチョコレートをもらえなかったと笑われるだけだから」
 
「チョコレートの数が問題なんですか。バレンタインは気持ちを贈るものでしょう」
 
ハッ、俺としたことが肝心なことを忘れていた。
 
そう、バレンタインデーに与えるのはチョコではなく愛。
 
俺としたことが物欲などに目が向き、物事の本質を忘れてしまうなんて。
 
「まぁ、そこまで落ち込まれると可哀相ですからこれをあげます」
 
妹はキッチンから1つの箱をもってきて、俺に差し出す。麻黄
 
俺がその箱を覗き込むとその中に入ってるのは甘い匂いのするチョコレート。
 
「こんなのでもお兄さんですから。家族ですから、義理でもないですし」
 
「うぅ、妹。お兄ちゃんは今、感激しています。ありがとう。本当にありがとう」
 
感動しながら、妹の手を握ると彼女は嫌がる素振りを見せながら、
 
「わ、わかりましたから。そう近づかないでください。ホント、ダメな人ですね」
 
妹は恥ずかしがるように苦笑しながら、部屋に戻っていく。
 
なんだかんだ言いながら用意してくれている妹の優しさ。
 
態度に出せずとも俺のことが好きなんだな、可愛いやつめ。
 
「これはまさか手作りのチョコ?」
 
少しだけ形が悪いのも愛嬌、手作りというのが一番のポイントだ。
 
妹の真っ直ぐな愛を前に誰が気にするものか。
 
俺は妹の愛情をたっぷりと感じながらチョコレートを口にした。
 
「……なぜ、愛とは辛い(からい)のだろう」
 
口いっぱいに広がるのは”甘さ”ではなく”辛さ”。
 
妹の手作りチョコレートはなぜか唐辛子の味がした。
 
そういえば、あの子は料理が超がつくほど下手だったなぁ。
 
お約束の展開だけに涙が出た。D9 催情剤

2014年5月26日星期一

メイド IN JAPAN

“メイドさん”とは何か?
 
そう問われれば、思い浮かぶのはフリルのついたメイド服を着た“少女”を連想するのが今の世間一般のイメージだ。
 
昨今有名になったメイド喫茶のようにメイドとはメイド服を着た女の子、と捉えている人が多いが、それは本当のメイドとは少し違う。挺三天
 
本来のメイドとは奉仕、家庭内労働を行う使用人を指す言葉である。
 
日本語では『家政婦』というなぜか“おばさん”をイメージさせる言葉なのだ。
 
ゆえに、メイド服を着ているただの女の子が本当のメイドではない。
 
今のメイドとは日本文化が作り出した別物である。
 
本質の一部を変化させた似て非なるもの。
 
それを『進化』と考えるか、『改悪』と考えるかは人それぞれだろう。
 
細かい話はさておき、メイドとは男の憧れだ。
 
『御主人様』というメイド独特のセリフと奉仕する美少女の姿。
 
せちがらい世の中で孤独に生きるものに、ひと時の安らぎを与えてくれる存在。
 
女の子にも『執事』という存在でなら理解してくれるだろう。
 
若い眼鏡をかけた色男が優しく身の回りの世話をして『お嬢様』と囁いてくれる。
 
憩いの時間、この世界には優しさが足りない。
 
だからこそ、人は優しさを求めて、日々新たな癒しの存在を生み出すのだ。
 
 
 
西園寺恭平はいつもと違う朝に驚かされていた。
 
「おはようございます、ご主人様。今日もいい朝ですね」
 
メイド服姿の義妹、麗奈が俺のベッドに寄り添っている。
 
布団から起き上がる俺は驚いた顔をして彼女を見つめていた。
 
「お、おはよう。麗奈、どうしたんだ、その服装は?」
 
「もうっ、いつもの事じゃないですか。お兄さんが朝はこれで起こしてくれって言ったんですよ。忘れちゃったんですか?」
 
照れを混ぜながら言うメイドバージョンの麗奈。
 
フリルのついたメイド服、頭につけたプリマは彼女に似合っている。
 
可愛らしく笑顔を見せる彼女に俺は萌えながら、
 
「これは夢か、それとも妄想?それとも……」
 
「現実に決まってます。ご主人様、妹がメイドじゃダメですか?」
 
妹がメイドさん……つまりご奉仕され放題!?
 
『ご主人様~、料理失敗しちゃいましたぁ』
 
メイド=ドジっ娘、多少の失敗をしても可愛いから許す。
 
『ダメです、ご主人様。私はメイド。ご主人様に愛されてはいけないの』
 
主人とメイドの関係、ま・さ・に、禁断の愛!!
 
渦巻く妄想、妹メイドに愛の告白を!
 
「うぉぉ、大好きだぞ、メイドさん!!」
 
「……私よりメイドさんが好きなんですね。うぅ、お兄さんはコスプレしてる女の子なら誰でもいいんだぁ。ぐすんっ」
 
大粒の涙を浮かべた麗奈は俺を突き飛ばして部屋から出て行ってしまう。
  
待ってくれ、麗奈~っと追いかける俺は視界が真っ白になっていく。
 
こんなゲームオーバー、いやだぁ。
 
 
 
……。
 
ハッと目を覚ますと俺は自室のベッドの上にいた。
 
「……俺は夢を見ていたのか?」
 
窓を見ると夕焼けが差し込んでいる。
 
今日はお昼過ぎに学校の授業が終わったので、帰ったから昼寝をしていたのだ。
 
メイド姿の麗奈の夢を見ていたようだ。
 
あの子がメイド服を着て俺の目の前に出てくるなんて世界が崩壊してもありえない。
  
「1度、見てみたいなぁ。頼んでコスプレさせようかなぁ」
 
なんて彼女に聞かれたら撲殺されそうな言葉を口にする。VIVID XXL
 
まず無理だから諦めてるけどな、結局、妄想の世界だけで楽しむしかないのだ。
 
顔でも洗って、由梨姉さんの夕食作りの手伝いでもしよう。
 
俺はベッドから起き上がり、リビングに行く事にする。
 
「由梨姉さん、夕食作りでも手伝うよ……?」
 
俺が何気なくリビングのドアを開けた、その向こうに広がる光景に唖然とする。
 
「え、あ?お兄さんっ!?」
 
なぜかメイドの姿をして、慌てて服を隠そうとする天使みたいな可愛い妹がいた。
 
白色のフリルがついたエプロンに、黒を基調としたドレス風のメイド服。
 
控えめな動作、細やかな気配り、癒しという魅力の溢れる泉。
 
そう、それは夢にまで見た『メイドさん』であった。
 
――この日、俺の世界は崩壊した。
 
世界の崩壊より優先すべく、俺は声を高らかにして叫びたい。
 
『メイドさん、万歳!』
 
思わず右手の親指をたてながら「グッジョブ!」と叫ぶ。
 
妹はため息をつくべきか、無視するべきかを迷いながら、
 
「とりあえず、言い訳させてくれますか?」
 
「ついにこのお兄ちゃんに奉仕してくれる時が来たということだろう。さぁ、麗奈よ。あの名台詞を俺に言ってくれ」
 
「迷台詞ですか?」
 
「違う、迷ってないから。その服を着たら言うべき名台詞があるだろう。ほら、お兄ちゃんが学校から家に帰ってきました。なんて言いますか?」
 
麗奈は「うーん」と軽く腕を組んで本気の思案顔。
 
そして彼女は俺に言ったのだ。
 
「もう2度と家に帰ってこないでください」
 
「完全拒絶ッ!?」
 
義妹に「お帰りなさい」を通りこして、「出て行け」と言われた。
 
離婚しかけの熟年夫婦の会話です、それは……えぐっ。
 
ああ、世間の風はなんて冷たく厳しいのだ。
 
ちなみに妄想で補完するならこういう展開を望んでいました。
 
『お帰りなさいませ、御主人様』
 
そう言って俺に癒しを与えてくれる麗奈の姿。
 
『御主人様、私……貴方になら……んっ』
 
いかん、これ以上は……遠い世界の住人になりそうだ。
 
麗奈の黒に煌く髪、蒼い瞳がメイド服と絶妙にマッチしている、洋風メイドを彷彿させながら和風メイドという新たな世界へと導いてくれそうだ。
 
「お兄さん、目が本気で怖いです」
 
と、俺が新世界に旅立とうとしている姿に妹は嫌悪の眼差しをする。
 
「おっと、いけない。危うく別世界の住人になりそうだった。その服はどうしたんだ?メイド服だろ、それ?」
 
俺の純粋な妹が自分からその手の道に入り込んだとは考えにくい。
 
誰から話を聞いたのか、それとも、俺のベッドの下に隠してある女の子には見せられない男の秘密を覗いてしまったか、なんらかの第三者的関与が疑われる。
 
「あら、弟クン?いつのまに来ていたの?」
 
「由梨姉さん。どうして麗奈がメイド服なのかという疑問を追及中なんだ」
 
麗奈はメイド服を手で触りながら「変じゃないですか」と姉さんに確認する。
 
「可愛いじゃない。サイズはあってるみたいねぇ」
 
「……もう着替えてきてもいいですか?目の前の変なおサルがウザいので」
 
「サルじゃないし、キミの愛しいお兄ちゃんだ。で、由梨姉さん、これは?」
 
どうやら今回の夢の誘いは姉さんが仕組んだものらしい。福潤宝
 
しかし、この服をどこから入手したのかという事が問題である。
 
少なくとも由梨姉さんにコスプレ趣味はないし、パソコンなどの電子機器が壊滅的に苦手な彼女にネット通販などと言うことも可能性としてありえない。
 
「それは今度の学園祭で着るメイド服のプロトタイプなの」
 
「学園祭?それってまだ先の話だろ?秋頃にあるんじゃないんだっけ?」
 
まだクラスで出し物を決めるには早いし、こんな時期に作る事もない気がする。
 
「あー、出し物の方じゃなくて、これは演劇用の衣装なのよ」
 
由梨姉さんは学校で演劇部に所属している。
 
その関係で秋の学園祭に行われる公演の衣装を作り始めているらしい。
 
「なるほど。次の演劇は洋風屋敷で起こる連続殺人事件だと?探偵はメイドという感じかな?まさに『メイドさんは見た!』って舞台だろ。ぜひ見てみたいな」
 
「そんな殺伐としたものじゃないから。洋館を舞台にしたお嬢様と執事の恋物語。これは脇役のメイドさんが着る衣装なの。昨日完成したのを、麗奈ちゃんに試しに着てもらったの。実際に試着して変なところは直したいのよ」
 
しかも、これは姉さんの手作りだと言う……すごいぜ。
 
でも、そう言う系の知識のない由梨姉さんがどうやってメイド服を?
 
「そうだ、ごめんなさい。弟クン、勝手に部屋にあった本を借りちゃったわ」
 
「え……?ま、まさか、それは!?」
 
彼女の手元にあるのは『これ一冊でメイド服の全てが分かる。制服図鑑、メイド服編』というメイド服を着た可愛い女の子の写真を集めた写真集でした。
 
ぐはっ、俺の趣味が……しかも、従姉弟のお姉さんに見つかった。
 
ちくしょー、ベッドの下に隠すという王道ではなく、本を隠すなら本の中という、本棚の写真集の中に混ぜていたのが悪かったのか……素直にはバレなかったのに(気づいてないフリされただけ)。
 
ダブルショックを受ける俺に姉さんは「もう少し貸してくれる?」と真顔で尋ねる。
 
「えぇ、どうぞ。ご自由にしてくださいませ」
 
うな垂れる俺は由梨姉さんにそう答えるしかなかった。
 
「ありがとう。これってすごく参考になる本よねぇ。弟クン」
 
彼女は天然なので俺の趣味とか別に気にしていないんだろう。
 
そもそも、この本がそう言う趣向系の本だとすら気づいていないに違いない。
 
問題はその本を睨みつける怖いメイドさんの方にある。
 
「……人間のクズってこう言う人の事を言うんですね」
 
白い目でこちらを見る義妹、あぁ、今日も麗奈が俺を冷たく責めるわ。
 
この制服は完璧であとは軽い調整だけで仕上がると言う。
 
最終確認だけすると姉さんは料理の準備に取り掛かるためにキッチンに行く。
 
「私は着替えてきます。……気持ち悪い視線に耐えられません」
 
麗奈はメイド服を脱ごうとリビングから逃げようとする。
 
俺はすかさずに、その手を掴んで彼女を止める。
 
「待ってくれ、麗奈。キミに一生のお願いがあるんだ」
 
夢の実現といこうではないか、メイド愛好家の同志諸君。V26 即効ダイエット
 
「麗奈よ、その格好で……俺に『御主人様』と言ってくれないか」
 
「毎度の事ながら、真顔で何を気持ちの悪いこと、言ってるんですか?」
 
「男には時としてプライドを捨てる事もあるんだ」
 
「元々、捨てる価値もないプライドでしょう?」
 
あぅ、相変わらず遠慮容赦のない言葉ですね。
 
しかし、千載一遇の大チャンス、メイド姿の彼女に会えるのはこれが最後かもしれない。
 
俺は必死に頼み込むと、麗奈は「仕方がない人です」と言いつつ恥らう。
 
そして、麗奈は俺に軽い会釈をしてみせながら。
 
「――ご主人様ぁ♪」
 
片目を閉じてウインクひとつ、愛らしいその唇から囁かれたその言葉。
 
御主人様、ご主人様、ごしゅじんさま……(エコー)。
 
「……はっ……!?」
 
俺の心に反響する妹の言葉が体験したことのない衝撃を与える。
 
俺は今までこんな衝撃を受けたことがあるか、否、ない。
 
こ、この俺が萌えている?
 
違う、俺は……俺は魂(ソウル)を揺さぶられているのかぁ!?
 
妹よ、お兄ちゃんはもう死んでも悔いはありません。
 
俺が萌え狂い死にしそうになっているのを傍目に麗奈はふとこう言った。
 
「……今、何となく、世界なんて滅んでしまえばいいと思いました」
 
「それってどういう意味?ねぇ!?」
 
「前から聞いておきたかったんですけれど、お兄さんって私の事を嫌ってるでしょう?だから、意地悪するんですか?」
 
いきなりの質問に俺は「何で?」と普通に尋ねてた。
 
俺は義妹である麗奈を愛しているのだ、大好きなんだぞ?
 
「……ホントに兄妹として仲良くしてくれるつもりあります?」
 
「イエス、イエス。あるに決まってるだろ」
 
「それなら、私からひとつだけ忠告させてください」
 
麗奈は呆れたような、それでいて、ほんの少しの期待を込めて。
 
「私を普通の妹として接してください。怒るのも、呆れるのも疲れました」
 
それがどういう意味なのか、俺には理解できず。
 
「俺は普段から麗奈を妹として接してるつもりだ」
 
「共通の認識の違いというものでしょ。はぁ、考えるだけ無駄なのかもしれません」
 
溜息をついて部屋を出て行く麗奈に俺は一言、その背中に向けて言う。
 
「そのメイド服、とても可愛くて似合ってるぞ、麗奈」
 
彼女は振り返る事はなかったけど「ありがとうございます」とだけ呟いていた。
 
そこに少し照れが混じっていたのを俺は見逃していなかったのだ。OB蛋白の繊型曲痩 Ⅲ

2014年5月25日星期日

思わぬ展開

ファーストキスから一夜明け、俺たちは互いを意識し合う存在になっていた。
 
以前よりも強く結び付きを求めるように。韓国痩身1号
 
本当の意味での愛ってやつを心に自覚した俺と和歌。
 
好きな子とはずっと一緒にいたい。
 
キスはきっかけだったんだ。
 
俺と和歌が互いの気持ちに向き合うためのきっかけ。
 
今では誰から見ても恋人に見えるように甘い関係になれた。
 
たったひとつのキスで堅苦しさがなくなった。
 
それまでとは違い、もっと深い心の奥底から俺たちは気持ちを抱き合う。
 
だが、そんな俺たちに思わぬ展開が待ち受けていた。
 
そう、あの“美少女”との出会いが――。
 
 
 
教室で俺は気になる事があった。
 
それは自分の席の隣にいるはずの女の子のことだ。
 
篠原さんという子は病弱で、学校に登校できていないらしい。
 
「篠原さんは今日も来ず、か」
 
「んー。なんだ、柊。彼女が気になるのか?」
 
俺の前の席にいる黒沢が俺の独り言を拾う。
 
「そりゃ、お隣さんだからな。そろそろ、出席日数もやばいんだろ?」
 
「来週までに来ないとダメっぽいぞ。身体が悪いとは言え、留年はキツイよな」
 
「でも、無理はできないだろ。1学期中に会えたらいいんだが」
 
お隣さんが気になりながら、俺は窓の外を眺める。
 
今日は雨が降りそうなお天気だ。
 
「どんよりとした雲だな。雨がふりそうだ」
 
「今日の雨はちょいと厳しいらしいぞ。豪雨に注意せよって天気予報で言っていたからな。傘は持ってきているのか?」
 
「一応はな。でも、自転車じゃあまり変わらない。強い雨だと前が見にくいんだよ」
 
雨の日はバスを使ったりすることもあるが、今は和歌と一緒に登校しているので、バス停の道を使わないために、気軽にバス通学をできないでもいる……和歌を誘えばできない事もないだろうが。
 
「黒沢は電車通学だっけ。雨も関係ないだろ」韓国痩身一号
 
「いや、雨は嫌だな。ダイヤが乱れるし、人は多くなるし、雷なんて落ちたら電車自体がストップするからな。台風とか、ああいう時は電車通学はある意味、最悪だよ。行きならまだいい、帰りにそうなったら終わりだな」
 
確かに、それが帰りとかだったら絶望的だよな。
 
「話は変わるが、柊は最近、恋人の子とはどうなんだ?」
 
「ふふふっ。絶好調さ。もう、最大の障害もなくなり、あとはハッピーエンドを迎えるくらいな感じ?もはや敵なし、あとは関係を深めるだけさ。いい感じに恋愛できてるよ」
 
「そうか。よかったじゃないか。でも、障害ってなんだよ?」
 
「うちの母親。俺と和歌の交際を認めってくれていなくてね。今はようやく認めてもらえたけど、先週の土日は本当に大変だったのだ。前日に些細な誤解で喧嘩もしちゃうし。すぐに仲直りできたけどな」
 
土曜日は恋月桜花の話を和歌から聞いて、その夜には和歌と大喧嘩。
 
翌日の日曜日は母さんとの決戦を無事に乗り切り、ホタル観賞と共にファーストキス。
 
たった2日ながら、かなり大変な目にあったのだ。
 
だが、すべてをクリアした俺たちに待っていたのは幸せな日常だ。
 
……まぁ、何もかも問題がなくなったってわけじゃないんだが。
 
俺には気になる事がひとつだけある。
 
それは椎名神社に俺が“引かれている”ということだ。
 
不思議な現象が起きたあの時以来、特に何も起きていない。
 
けれども、俺と椎名神社には何かしらの因果関係があるのではないか。
 
例えば、これは俺の仮定だが子供の頃にあの石碑に悪戯をして呪われた。
 
俺の子供時代の悪事を思い出せば、それもありうる。
 
キャサリンに会えば、それも判明するかもしれないのだが、毎朝のように社務所をのぞいても会う事がない。
 
あの子は今、どこにいるんだろう?
 
 
 
「あー、やっぱり、大雨になってきたな」
 
学校帰りの帰り道、俺と和歌は自転車に乗りながら雨に耐える。
 
傘が風でしなり、制服が濡れ始めてきた。
 
「もうすぐ、私の家に着きます。元雪様、よっていきませんか?」
 
「悪い、そうさせてもらう。これが噂のゲリラ豪雨か」
 
どしゃ降りの雨を前にすると、人は何とも無力だ。
 
何とか本格的に濡れる前に俺は和歌のお屋敷にたどり着けた。
 
「和歌、制服は濡れなかったのか?」
 
「私は大丈夫ですよ。元雪様は少し髪の毛も濡れていますね」
 
「まぁ、制服も軽く濡れた程度だし、放っておけば乾くだろ」御秀堂養顔痩身カプセル第2代
 
「そう言うわけにもいきません。タオルで拭いた方がいいです」
 
家に上がると、お屋敷の中は今日は静まり返っている。
 
気になった俺は和歌に尋ねる。
 
「おじさんたちはいないのか?」
 
「今日は両親共に出かけているんです。遠縁の親戚の結婚式だそうですよ」
 
「そうか。雨の影響がないと良いな。それにしても大きな屋敷だよな」
 
和風建築のお屋敷は広さもかなりある。
 
「古いだけの家ですけどね。元雪様の家のような洋風な家も私は良いと思います」
 
「うーん。俺はこういう和風な屋敷の方がすごいと思うけど」
 
結局は“ないものねだり”という奴だろう。
 
互いに新鮮味がないから大切には思えないだけだ。
 
「タオルはお風呂場にあります。好きな物を使ってください」
 
「あぁ、そうさせてもらうよ。和歌も早く制服から着替えてくるといい」
 
「はい。では、リビングの方で待っていてくださいね」
 
和歌が部屋に行ってしまうのを見送って、俺はお風呂場に向かう。
 
廊下を突き当たればお風呂場らしい。
 
恋人の家っていうだけで緊張するよな。
 
「……いずれ和歌と結婚するならここに暮らす事になるんだろうか」
 
ついそんな事を考えしまう。
 
俺は和歌を愛してるし、彼女の夢を叶えたい。御秀堂養顔痩身カプセル第3代
 
つまり、それは結婚を意味している。
 
「結婚か。する気はあるけども、まだまだ実感がわかないな」
 
覚悟は決めていても、子供である俺には実感がまだない。
 
そういう実感がわき始めた時、俺は大人になれるのかもしれない。
 
俺は考え事をしながら、お風呂場らしき扉をあける。
 
油断してたと言えば、そうだ。
 
俺は完全に油断していた。
 
「――え?」
 
お風呂場にはいるや、綺麗な白い肌とお尻が見えた。
 
いやいや、お尻……って、はいっ!?
 
「……ぁっ……!?」
 
俺は慌てて顔をあげると、そこにいたのは――。
 
「――柊元雪……?」
 
「――きゃ、キャサリンっ!?」
 
ありえない展開、思わぬ女の子がそこにいたのだ。
 
いつぞやの電波系美少女、キャサリンが肢体をあらわにしていた。
 
「え?え?えーっ?!」
 
動揺しまくる俺は思考が停止しそうになる。
 
目の前にいるのはタオル姿のキャサリン。
 
ここは和歌の家なのに、どうしてキャサリンがいるんだ――!?御秀堂 養顔痩身カプセル

2014年5月23日星期五

唯羽、復活

新たなる日常。

唯羽の学園生活の復帰。

ついにネトゲ廃人をやめ、彼女は再び学校に登校する事になった。頂点3000

 
「それにしても、髪まで染めてくるとはな」

 
「気になるものか?私は気にいってるけどね」

 
唯羽は黒髪のイメージが強かったからな。

 
今のように茶髪になると、イメージが変わる。

 
もちろん、美少女であると言う事実が変わることはない。

 
「……髪や見た目なんて、ゲームのアバターと一緒で気分次第で変えられる」

 
「ゲームと一緒にするな」

 
やはり、ネトゲ依存の一面はまだ変わっていないかもしれない。

 
まぁ、こうして学校に出てこようとする気持ちになってくれただけマシだ。

 
プロジェクトD、無事に達成をした事を喜ぼう。

 
教室に入ると、唯羽の存在に大きくざわめく。

 
「綺麗~、あの子、誰だ?」

 
「え?もしかして、篠原さん?」

 
「嘘!?すごくイメージが変わったかも」

 
かつて、同じクラスだったのか、唯羽の事を知ってるクラスメイトは何人かいた。

 
彼女たちは唯羽に近付いて挨拶をしてくる。

 
「久しぶりだね、篠原さん。イメージ、全然違うからびっくりしたわ」

 
「……せっかく、学校に出てこれるようになったからな。少し変えてみた」

 
「身体の方はもう大丈夫?病気でずっと休んでいたんでしょ」

 
「大丈夫だ。辛かったが、闘病生活も終えた。もう、普通の生活ができるよ」

 
闘病生活してる人に謝りなさい。

 
全然違います、昼夜逆転生活でネトゲをずっとしてただけです。

 
「本当?よかったぁ。留年しちゃう噂もあって心配してたのよ」

 
「ありがとう。心配をかけたが、これからは普通に通える。ただ、病院に長くいたせいでこんなに痩せてしまったけどね」

 
「うわぁ、腕細い……。本当に大変だったんだね、篠原さん」

 
だから、ネトゲしてただけだっての。

 
その痩せ細った身体は病院生活ではなく、自堕落なネトゲ廃人生活の代償だ。

 
真実を声に出して言いたかったが、ここは我慢しておこう。

 
心配してくれるクラスメイト達に囲まれる唯羽。

 
……俺が思っているよりも、唯羽は皆から慕われていたらしい。

 
「篠原さん、ようやく来たのか」

 
黒沢が隣の席に唯羽を見ながらそう言った。

 
「……唯羽を学校に連れてくるのに苦労したが」

 
「唯羽?なんだよ、名前で呼んでる仲か?どこで知り合った?」夜狼神

 
「俺の恋人の家に同居してる従姉なんだよ。まさか、病弱クラスメイトの篠原さんと同一人物とは思っていなかったが」

 
そもそも、唯羽は病弱じゃないからな。

 
肩をすくめて答える俺に黒沢は笑う。

 
「そうだったのか。でも、よかったじゃないか。こうして、また学校に来れて。篠原さんの事を柊も心配していたんだろ」

 
「まぁな。……結果オーライか。それにしても、唯羽は何気に人望があるのか?」

 
「女の子にはそれなりに。面倒見のいい性格だし、姉御肌っていうのか、女の子としては頼りにしたくなる存在だそうだ。今でこそ病気がちだが、中学時代はテニスをしていて、全国区のプレイヤーだったそうだぞ」

 
「知ってる。唯羽は器用で頭もいいし、要領もいい。やる気になればなんでもできる、天才タイプなんだよな。……それがネトゲ三昧だとは才能の無駄使いだ」

 
そして、何より料理がうまい。

 
……唯羽の手作りの料理はまた食べてみたいです。

 
「そうだ、黒沢。お前がやってたネトゲ、嵐の魔女とか呼ばれたプレイヤーがいただろ」

 
「嵐の魔女、キャサリンか?あぁ、生きる伝説だな。それがどうした?」

 
「その生きる伝説、キャサリンは唯羽だぞ?」

 
「ま、マジッすか!?」

 
黒沢の驚きっぷりが半端ない。

 
そこまで驚く事なのだろうか。

 
「本人が認めたから間違いない。暇つぶしにネトゲをしてたんだとさ」

 
「そっかぁ。身体が悪いと外にも出られないからな」

 
ホントは身体はどこも悪くないけどな。

 
ただ、ネトゲにどっぷりはまっていただけで不健康な生活をして、ああ見えるだけだ。

 
唯羽はハマれば何でもすごいんだよな。

 
「でも、篠原さんが本当に嵐の魔女なのか?」

 
「気になるなら本人に聞いてみろ」

 
「お、おぅ。そうする……篠原さん、ちょっといいか?」

 
黒沢が緊張した面持ちで唯羽に話しかける。

 
「篠原さんってネトゲで嵐の魔女、キャサリンって呼ばれてるプレイヤーなのか?」

 
「ん?……あぁ、キャサリンは私の使っているハンドルネームだが?確か……前に同じクラスだった黒沢君だったな。あのゲームをしているのか?」

 
唯羽が認めた瞬間、クラスのざわめきはMAXになる。

 
「なんてことだ……伝説のプレイヤーが俺の目の前に」

 
「嵐の魔女!?ウソでしょ?」

 
「えー?ホントに?篠原さん、あのキャサリンなの!?すごーい」

 
女の子からも驚嘆の声。VIVID XXL

 
どうやら女の子にも人気のゲームだと言うのは本当らしい。

 
その後は、唯羽はネトゲをしてるクラスメイト達から尊敬のまなざしで見られながら、クラスにあっという間に馴染んでいた。

 
ゲームがきっかけと言うのもなんだが、唯羽の性格ゆえのところもあるだろう。

 
最初は冷たい印象を受けるかもしれないが、接してみれば優しさや温かさが分かる。

 
唯羽って女の子はあらゆる意味で、すごい子だと思う。

 

 

 

電撃的に学園生活復帰をはたした唯羽。


 
昼休憩になる頃には唯羽の周囲にはネトゲをする生徒から尊敬と憧れから、取り巻きができていた。

 
まったくもって、俺が心配するまでもなかったようである。

 
唯羽自身も人と接するのは苦手と言っていたようだが、ゲームという共通話題があるためか比較的彼らとは話しもはずんでいるように見える。

 
ネトゲも全てが悪ではなかったという事か……何事も限度が大事だと言う事だな。

 
昼休憩に、俺は屋上で和歌と食事をしていた。

 
「お姉様、そんなに人気なんですか?」

 
「クラスメイトの大半とはすっかり打ち解けてるぞ。なにはともあれ、無事に皆と仲良くやれていてよかったよ。また不登校になったらだどうしようって思っていた」

 
「はい。でも、元雪様はお姉様に優しすぎる気がします」

 
「そ、そうか?」

 
「お姉様が学校に来れるようになったのは良いことですけど、何だか複雑です」

 
どこか拗ねた口調の和歌。

 
今朝の件でどうやら唯羽に警戒してるらしい。

 
「心配しなくても俺は和歌一筋だから……」

 
「本当ですか?浮気とか、しないでくださいね」

 
今にも捨てられそうな子犬が浮かべる表情をする和歌。

 
あまりにも可愛かったのでつい抱きしめてしまう。

 
「あっ……元雪様。人に見られてしまいます」

 
「俺が和歌を大事に思ってるのはホントなんだから。こうでもしないと和歌は信じてくれないだろう?」

 
和歌は照れ屋で、すぐ赤くなるのが可愛くて。

 
俺達が2人っきりの世界を満喫していると、背後から声がする。

 
「――そこ、私が入りにくい雰囲気を作らないでくれ。あまり見せつけると呪うよ?」

 
「調子に乗ってすみませんでした。ちょっと恋人っぽい雰囲気にひたりたかっただけなんだよ。……それで、唯羽。目的のパンは買えたのか?」

 
「人が多かったが、なんとかな」

 
唯羽は昼食を買いに出かけていたのだ。lADY Spanish

 
この時間の購買は人が多いから大変だっただろう。

 
「明日から面倒だが自分でお弁当でも作るとしよう」

 
「唯羽の手作りか……アレはよい味でした」

 
「元雪様?」

 
「ん?あ、いや。何でもないよ。あはは……」

 
思わず苦笑いで誤魔化す。

 
和歌の前ではこういう話題はやめた方がよさそうだ。

 
女の子に立場が弱いのは我が家の家系か。

 
「唯羽の昼飯はメロンパンか?」

 
「これが好きなんだ。ボロボロとこぼれるのだけは嫌いだが」

 
「……湿気てるというか、しっとりしたメロンパンは蛇道だろう」

 
「確かに。それは言えている」

 
唯羽はメロンパンを食べながら頷いた。

 
「お姉様。久しぶりの学校はどうでしたか?」

 
「まぁまぁだな。思っていた以上に受け入れられている」

 
「……ネトゲのおかげだと言うのが何とも言えん」

 
「ふっ。話題が合うという意味では私は気が楽だよ。それに、魂の色も意識せずに済んでいるからな。こんな状況が続くのなら、また学校にも通えそうだ」

 
唯羽からの前向きな言葉にホッとする。

 
最悪のシナリオは『やっぱり学校に行かず、ネトゲする』と言いだす事だ。

 
それだけは何としても避けてもらいたい。

 
「授業の方はどうなんだ?はたから見ている限り、ついていけてるように見えたが」

 
「学力は当然下がっているよ。まぁ、適当に頑張れば適当にどうとでもなるさ」

 
「適当じゃなくて真剣にすれば、天下も狙えるのに……」

 
もしも、唯羽が本気になったら何でもできるのにもったいない。

 
「……どうかしたか、柊元雪?」

 
不思議そうにメロンパンを食べながらこちらを見つめる唯羽。

 

俺は「何でもないよ」と苦笑いをしながら答えたんだ。玉露嬌 Virgin Vapour