2015年9月11日星期五

探索

サトゥーです。迷宮探索ゲームだと補給も無しに踏破したりしていますが、現実だと水や食料をどうするかという問題が付きまといそうです。異世界だと飲料水は魔法で解決しそうですけどね。

 32匹いた迷宮蟻メイズ・アントも、あと10匹ほどだ。途中、ナナが捌ききれなくて、ポチやタマが複数のアリに囲まれそうになっていたが、アリサやミーアが後ろから魔法で援護して事なきを得た。金裝牛鞭

「タマ! 左に壁を作ったから右からやりなさい。フォークを持つほうが右よ!」
「あい~」

 特にアリサの「隔絶壁デラシネーター」という魔法が活躍していた。これの上位にある「迷路ラビリンス」という魔法だと隔絶壁の迷路を作り出して敵を閉じ込めたり任意に解放したりできるらしい。消費魔力が多いらしいのだが、後続のアリが追いついてきたら使ってみると言っていた。

 先ほど窮地を助けた女性探索者パーティーの面々も、まだ傍にいる。彼女達は、加勢が不要だとわかった後も、前衛陣の戦いを食い入るように観戦していた。たまに漏れる賞賛の言葉からして、見惚れているのだろう。

 アリの群れの本体は、あと10分ほどはたどり着きそうも無いが、この回廊に隣接する魔物用の通路を進むアリの小集団が、近くまで接近している。20匹ちょいの群れだ。

「かさかさ~?」
「壁のっ、向こうからっ、音がするのです!」

 タマとポチが戦いながら、壁の向こうから這い寄るアリの気配を感じたようだ。あんなに激しく戦いながら、良く判るものだ。

「サトゥー、標識碑」

 ミーアが段上から指差す方を見ると青と赤で点滅していて紫っぽく見える。向こうの通路の敵にも反応するのだろうか?

「貴族さま、あれは湧穴ができる前兆だ。あそこから魔物が出てくるよ」

 女性探索者パーティーのリーダーからも、そう警告が入る。

 リザ達が戦う主戦場では無く、オレ達の背後にある標識碑の辺りだ。一見石壁に見える通路の壁が粘膜のように薄くなったように見えたあと小さな通路ができる。

 さて、こちらはオレが始末するか。妖精剣を抜いて壁から湧き出るアリを一刀の元に真っ二つにしていく。魔核コアまで真っ二つにしないようにだけ注意した。

 女性探索者達がいる場所の後ろにも、小さな湧穴ができて1匹のアリが身を捩って這い出てきた。気がついて無さそうなので、警告してやる。

「そこの君、後ろだ」
「えっ? こっちにも湧穴か! ジェナ、やるよ」
「はいっ。貴方達は離れていなさい」

 ジェナの言葉の指示に従って、運搬人姉妹が後ろに下がる。
 この女性探索者パーティー「麗しの翼」の2人は、リーダーのイルナがレベル8、美人さんのジェナがレベル6だ。這い出てきたアリは、レベル5なので余裕で勝てるだろう。

 そう思っていたのだが、なかなか苦戦しているようだ。
 2人は盾でアリ爪を避けながら短槍を突き出しているのだが、アリの外殻に弾かれてしまって、まともにダメージを入れられないようだ。ポチやタマみたいに甲殻の隙間に突き入れればいいのに。

 アリが美人さんに蟻酸攻撃をしようとするそぶりを見せたので、足元に転がっている屍骸から爪を一本拾い上げて、アリの首に投げつけて妨害した。

 鞄から取り出したトングで、屍骸から魔核コアを回収して小袋に収納する。

 リザたちの方も、もうすぐ戦いが終わりそうだ。魔核コアの回収を終えて、女性探索者達を振り返ると、まだ一進一退の攻防をしていたので、おせっかいかもしれないと思いつつも、一声掛けてアリの首を切断して戦いを終わらせた。レベル30の魔剣使いなら、これくらいは普通のはずだ。

 彼女達のお礼の言葉に軽く手を振って答え、戦いを終えたリザ達の所に向かう。

「マスター、素材の回収を行いますか?」
「魔核コアだけでいいよ。アリの甲殻は柔らかいから使い道が無いしね」
「ご主人さま、甲殻は鎧や盾の材料になるはずです。爪は少し湾曲しているので槍よりは短剣や草刈り鎌などにするのが良いと思われます」

 リザの故郷では、アリの魔物は道具の素材に重宝していたらしい。
 普通の鉄剣でも割れてしまうくらい弱いのだが、木片を使った鎧で代用するくらいだから装備品の素材が足りていないようだし、アリの素材でも地上に持ち帰った方がいいのだろうか?

「肉~?」
「焼肉祭りしないのです?」
「やめておきましょう。アリの肉は苦いばかりで美味しくありません。子供が食べると食中毒をおこす事もありますから」三體牛寶

 食中毒は怖いね。
 残念そうなポチとタマには悪いが、後でストレージに保管してある食事を出してあげるから、今は焼き菓子と水で我慢して貰おう。

「貴族さま、これを」
「それは君達が倒したものだろう? お礼ならさっきの言葉で充分だよ」

 女性探索者のイルナが、アリから取り出したらしき魔核コアを差し出してきたが、その手をそっと押し返す。

「それよりも、早く逃げた方がいい。仲間が魔法で、こちらに接近する迷宮蟻の大群を捉えている。もう四半時もしないうちに、ここに現れるぞ」
「貴族さまは、逃げないの、ですか?」
「適当に足止めしてから逃げるよ」

 だから、早く逃げてくれると助かると言外に訴えた。ようやく女性探索者達が重い腰を上げて、逃げ始めてくれた。運搬人姉が背負った蟻蜜の壷が眼に入った。案外、アリ達は、あれを追いかけていたりして。

 さて、それよりも、次の戦闘準備だ。
 みんなを集合させて「魔力譲渡トランスファー」で魔力を補充してやる。魔力回復薬よりは、手っ取り早いし、何より無料だしね。

 ついでに「柔洗浄ソフト・ウォッシュ」と「乾燥ドライ」で、アリの返り血を綺麗に落としてやる。

「じゃあ、ここから向こうの角までの範囲に『迷路ラビリンス』を張るね」
「まった、通行できないけど攻撃できるような壁は作れないか?」
「ん~、『隔絶檻デラシネート・ジェイル』っていうのもあるけど、向こうの攻撃も通り抜けるから、遠隔攻撃技のある敵には向かないわよ?」
「問題ないよ、最初に皆で軟散弾ソフト・ショットガンを撃つ間だから、向こうの酸攻撃は、ミーアの『水膜ウォーター・スクリーン』で防いで貰うよ」
「おっけー」
「ん」

 打ち合わせが終わり、アリサの「隔絶檻デラシネート・ジェイル」の魔法で格子が生み出される。僅かに発光しているので、格子の形状が見える。突きや射撃なら通り抜けるが、斬撃だと格子に当たって止まりそうだ。

 オレは念の為、「自在盾フレキシブル・シールド」を準備しておく。格子越しの酸攻撃をミーアが防ぎきれなかった時の保険だ。

「来たのです」
「そういんはいちにつけ~?」

 アリの屍骸を積み重ねて、上に布を掛けた即席の防壁の陰から、皆で魔散弾銃を構える。
 曲がり角のさきから姿を見せたアリの大群が、硬質な足音を響かせながら突進してくる。魔法の格子があるとは言っても、なかなかの迫力だ。ミーアとルルは怖いのか、オレの左右から身を寄せてくる。不安を払拭するために、2人の頭を撫でてやる。

「マダだよ」

 アリの先頭が、隔絶檻に激突して、体液を撒き散らしている。先頭の数匹は後ろから激突してきた仲間の重みに耐えられず、体力を大きく減らしているようだ。格子のまえでわしゃわしゃと蠢く黒い虫が、なかなか視覚に優しくない。

 5分ほど経過したあたりで、この回廊のアリが前方の空間に集まりきった。

「撃て!」
「らじゃ~」「なのです!」

 オレの号令にあわせて7つの銃口から、無数の軟散弾がアリに降り注ぐ。皆の銃口をこっそり「理力の手マジック・ハンド」で角度を調整して、なるべく多くの敵にあたるように調整した。

「ナナ、ポチ、タマ、銃を置きなさい。接近戦の準備です」

 射撃を終え、アリサの「迷路ラビリンス」が発動する。
 その後は、前衛陣がアリを倒すのにあわせて、次の魔物をアリサが供給するという、実にお手軽な手順で、魔物を殲滅していく。偶にナナやポチがアリの攻撃を受けていたが、鎧やマントに阻まれてダメージを受けたりはしていないようだ。

 前衛だけでなく、後衛も忙しそうだ。アリサは、迷路の管理が大変みたいだ。迷宮の一角に敵が集まり過ぎないように、迷路内の経路を調整している。ミーアは敵が多い時に「霧縛バインド・ミスト」でフォローしたり、「盲目の霧ブラインド・ミスト」でアリの命中率を下げたりと頑張っている。

 オレも見ているだけだと暇なので、みんなが倒したアリを「理力の手マジック・ハンド」で壁際に寄せていく。

 ルルは最初に散弾を撃ってからはする事がないようで、オレが壁に寄せたアリから魔核コアを回収している。服や髪が汚れないように、手袋だけでなくエプロンと頭巾を付けて作業している。口内の蟻酸腺を傷つけて、火傷しない様に注意しておいた。

 討伐数が半分を超えたあたりで、前衛陣の疲労が濃くなって来たので、小休止をさせた方がいいかな?福潤宝

「アリサ、前衛を休ませたい。迷路を維持するコストは足りる?」
「おっけー、注意力散漫になったら危ないしね。迷路を固定状態にすれば魔力消費が抑えられるから、後はMP回復薬を使えば大丈夫よ」
「よし、それなら今戦っている敵が終わったら小休止しよう」
「ほ~い」

 ポチやタマは「まだまだ~」「やれるのです!」と血気盛んだったが、目に見えてフラフラだったので、水を飲ませて塩気の多いハムを挟んだマヨタップリのサンドイッチを食べさせる。

 みな若いだけあって、食後に30分だけ休憩と仮眠を取らせたら別人のように回復していた。アリサにMP回復薬1本分の魔力を、「魔力譲渡トランスファー」で回復してやって後半戦を始める。

 こちらに来なかったアリが、第一区画で暴れまわっていたようだが、さっきの女性探索者パーティーは無事に迷宮の外に出れたようだ。

 アリを殲滅し終わるなり、ポチとタマがスタミナ切れでパタリと倒れたりしたが、2人とも何かをやりきった充実した顔をしていたので良しとしよう。

 リザとナナも疲労困憊だったので、アリサ達が陣取っていた高台にキャンプを仮設して休憩を取る事にした。よっぽど疲れたのか泥のように眠る皆を寝かしつけ、ルルと2人で夜番をする。

 それにしても、今日一日で皆レベルアップした。
 やはり迷宮は効率が良い。

 サトゥーです。夢中になっている内に時間を忘れる事は良くあります。MMOのバージョンアップの時など、週末2日分の食料を買い込んで来て、寝る間も惜しんでゲームに没頭したものです。

「ナナ! しばらく耐えなさい。ポチ、タマ、魔刃を! 一気に方を付けます」
「この蔦め! 植物なのか動物なのかハッキリしろと訴えます!」
「魔刃~」「ご~なのです!」

 ナナの挑発に、蔦をタコの足の様に這って駆け寄ってきた棘蔦足ソーン・フットが、ナナの体に蔦を絡める。「鋭刃シャープ・エッジ」の理術で強化された魔剣が素早く蔦を切断するので、胴体には蔦が巻きつく隙が無い。まったく、そこは、もう少しエロく行って欲しい。

 そんなオレの心の声を他所に、魔刃を生み出したポチとタマの魔剣が、巨大な棘が付いた主蔦を切り裂く。

 棘蔦足ソーン・フットの頭にあたるコブの部分に、アリサの「空間切断ディメンジョン・カッター」が突き刺さり、コブを半ばまで切断した。

 横にいるルルの持つ魔力砲から発射された大口径の魔力弾が、半ば千切れていた棘蔦足ソーン・フットのコブを完全に吹き飛ばす。

 そこにミーアの「水裂きウォーター・シュレッド」が効果を発揮し、棘蔦足ソーン・フットの体表を流れる体液を利用して、ヤツの表皮をズタズタにする。

 最後に魔刃で、棘蔦足ソーン・フットの足のような蔦を切り裂いていたリザが、螺旋槍撃を叩き込んで止めを刺した。

「大勝利~?」「なのです!」

 魔物を倒して勝ち鬨をあげる皆の怪我を、生活魔法で清潔にしてから「治癒アクア・ヒール」で一気に癒す。戦闘中の怪我はミーアに任せてあるが、戦闘後のケアはオレが担当している。

 今回戦っていた棘蔦足ソーン・フットはレベル30もあったが、安定して倒せるようになって来た。

 ここは植物系の魔物が溢れる1の4の9の17区画。通る経路によって同じ区画でも入れる場所が変わる事から、こういう名前になっているらしい。長いので以後17区画と言おう。ここはどの部屋も、天井から垂れ下がる植物の根が発光していて明るい。前に気になって、その植物の根を切ってみたら、光ファイバーのような断面になっていた。きっと根や茎が天然の光ファイバーのようになっていて外光を取り込んでいるのだろう。挺三天

 そのせいか、この区画には植物型の魔物が多い。さっきの歩き回る蔦の魔物や、ドリアンサイズのドングリを大砲のように打ち出してくる巨木の魔物、親指位の粒をマシンガンの様に連射する歩くトウモロコシの魔物、スライムのような粘液の触手を繰り出して捕食して来ようとする食虫植物型の魔物など様々なバリエーションの敵が襲ってきていた。どれもレベル20~30の範囲だ。

 興味深い魔物に「歩竹ウギ」という竹で出来た鹿みたいなのがいた。この魔物の竹のような本体から取れる繊維を加工すると、抹茶のような色をしたウギ砂糖が抽出できる。さらに角に生えた葉は、ポーション用の安定剤の材料だ。この歩竹ウギと先程も狩っていた棘蔦足ソーン・フットの蔦が、中級ポーションの材料になる。蔦は数日経つと腐敗して毒性を持ち始めるので、エルフの錬金術の資料にも現地で調合するようにと注意書きしてあった。

 ときおり、デミゴブリンや草食系の魔物が姿を見せていたが、レベルの低い雑魚は邪魔なので、オレが誘導矢リモート・アローで始末している。

 ひとつ手前の9区画が、罠天国の上に、毒や疫病、麻痺攻撃の得意な小虫系やスライム系の敵ばかりだったせいもあって、この区画にはオレ達以外誰もいない。あまり過去の探索者も来なかったのか、標識碑の数が他の区画の2割ほどしか無かった。

「うっしゃー! やったね! さっきのでレベル27よ!」
「にゃはは~?」
「やったのです!」
「慢心は禁物ですよ。ご主人さまがいてくれてこその成果です」
「肯定。マスター感謝です」
「もちろん、感謝してるってば。狩ってる間は他の敵が来ないし、小休止の後にすぐに手頃な敵がやって来るし、効率厨も真っ青な段取りだもんね」

 アリサの微妙に失礼な賞賛を聞き流す。
 最初にアリを始末した1の4区画だと、敵が弱すぎて皆の訓練にならないので、少し足を伸ばしてみた。この17区画の敵が適度に強かったお陰で、効率的なレベルアップと訓練になったようだ。懸念していたアリサのスタミナ不足だが、本人によると魔法使い系のステータスに極振りしていたのが原因だったらしい。レベルアップ時に調整させる事で、問題ない水準まで上げさせる事でなんとかなった。能力値の上昇まで、任意に割り振れるのはなかなか羨ましい。

 この場所は昼夜がある上に、地面に土がむき出しになっているので、地下という気がしない。しかも、水源があり、高い天井付近には通風孔まであったので、煮炊きしても空気が濁る事がなかった。キャンプ狩りには、この上ない良ポイントと言えるだろう。

 むき出しの地面だと土魔法で魔物を簡単に分断できるので、皆と戦う敵を1匹に限定できるように操作するのが楽だった。アリサの空間魔法で分断しなかったのは、格上の敵と戦っている最中に攻撃用の空間魔法を操るのが大変そうだったからだ。

「そういえば、けっこうな日数が経過していますが、まだ街に戻らなくて大丈夫でしょうか?」
「食料も水もたっぷりあるから大丈夫じゃない?」

 すでに4日経過している。一日2~3レベルしか上がっていないが、突入から10レベル以上アップしているから充分な成果だろう。

 特にルルが生活魔法と術理魔法のスキルを、ミーアが精霊魔法スキルを取得したのが大きい。

 アリサも空間魔法がスキルレベル8になった時点で、火魔法スキルを取得していた。なんでもスキルレベル9以上に上げるポイントが大きすぎて心が折れそうになったので浮気したらしい。現状でも上級魔法が使えるので、戦闘での効率がいい火魔法を選んだそうだ。

 アリサ曰く、火魔法の身体強化は体脂肪を燃焼させてエネルギーを生み出すから、ダイエットに良いそうだ。エルフ達に教えて貰ったと自慢していた。

 オレが解析した限りでは、普通に魔力が燃料になっていたので、体脂肪云々はエルフ達の冗談のはずだ。あまりに嬉しそうだったので言いそびれたが、アリサが暴食を始める前に教えてやらねば。


 この広間の敵を全滅させたので、オレ達は夕食の為に、この4日間拠点にしているログハウスへと向かった。

 樹木系の魔物の素材で作ったログハウスで、初めはリビング兼寝室があっただけだったのを、日々少しずつ増築&改良していったものだ。今では、リビング兼食堂と寝室、キッチン、風呂場、工作室を備えた別荘といった風情の拠点となっている。

 別荘の前庭には、土が付いたままだったトマトや薬草を植えてみた。今度来る時は、花や豆、芋類も持って来て植えてみよう。

 この広間を拠点に据えたのは、水場や風穴があった事と、湧穴ができるような魔物の通路が近傍にない事だ。広間から外に出るための通路も3本あるが、それぞれの通路の両端に、魔法鍵を組み込んだ扉を設置して、さらに三重の罠を仕掛けておいた。タマでさえ途中で罠解除を投げ出したので、防犯には充分だろう。出入りが面倒だと困るので、解錠用の認証魔法具と合言葉で開くようにしてある。扉の支柱には、非実体系の魔物の侵入を防ぐために、簡易版の結界柱を組み込んでみた。JACK ED 情愛芳香劑 正品 RUSH

「ただいま」

 オレ達は、口々にそういいながらログハウスに入る。このログハウスには、カカシ・シリーズと同じ監視機構を組み込んであり、侵入者を発見すると「信号シグナル」で警報を送ってくれる。迷宮内はマナが濃いようで、クラゲの触手繊維を利用したマナ収集器を作る事で監視機構や警報に必要な魔力を捻出できた。

 先ほどの扉や罠で充分だとは思うが、念の為だ。

「お湯沸いたわよ」
「ああ、すぐ行く」

 アリサが呼びに来たので、この別荘の守護者用に作成していた青銅製の自動甲冑リビングアーマーをシートの上に置いて風呂に向かった。

 最近の湯沸しは、火魔法を覚えたアリサがやっている。最初の内は火力調整を間違えて風呂場を半焼させていたが、今では安定して沸かせるようになった。

「みんな待ってるんだから、早く脱ぐ脱ぐぅ~」

 脱衣所まで作るのが面倒だったので、リビングで服を脱ぐ必要がある。もたもたしていると、アリサの魔手に捕まってしまうので、早着替えでタオルを腰に巻いたスタイルに変身して風呂場に入る。

 総檜のような趣の木製の浴槽の前には、皆がアリサ同様の浴衣一枚で待っていた。先に入ればいいのにと思わなくも無いが、リザとナナが「一番風呂はご主人さま(マスター)のもの」と言って譲らなかったので、オレが最初に入る習慣ができてしまった。

 リザとナナに左右から掛け湯をして貰ってから、湯船に足を入れる。ゆっくりと浴槽の縁に背を預け、丁度いい湯加減のお湯に心身をリラックスさせる。

 ここの水場は、精霊が多い。魔物の餌にするためなのか、単に地脈の噴出し口なのかは判っていない。湯に浸かっているだけで、マッサージされたように体が楽になるのは、案外、精霊達が揉み解してくれているのかも。

 体が温まったところで、アリサ以外の年少組の頭と背中を洗ってやる。前はアリサやルルも洗ってやっていたんだが、ルルは湯あたりを起しそうなぐらい真っ赤になるし、アリサも興奮しすぎて鼻血を出して目を回していたので自分でさせている。

 じゃんけんで一番手を勝ち取ったミーアが、シャンプーハットを被って待機していたので、素早く洗髪用の石鹸で泡立てていく。この洗髪用石鹸は、エルフの里の錬金術のツーヤ氏にレシピを教えて貰ったやつだ。元の世界のシャンプーほどでは無いが、普通の石鹸より泡立ちも良く頭皮に優しい逸品だ。シャンプーハットはポチ用に作ったのだが、なぜか今ではミーアとナナのお気に入りになっている。

 順番に幼女達の髪を洗った後、湯冷めした体を、ポチ達と百まで数えて温めなおしてから風呂から出た。湯に浸かってほんのり透けるナナの浴衣に目を奪われないようにするのが、なかなか大変だった。

「明日の朝に、一端、地上に戻ろうと思う」
「え~、30レベルまで上げてから戻りましょうよ」
「そうしてやりたいのは、山々なんだが、宿を5泊で契約しているから明日までに戻らないと馬車や馬が売られちゃうんだよ」

 不平が出たのはアリサだけ、だったので戻る理由を告げて説得した。馬車はともかく、馬が売られたらかわいそうだ。馬も長旅を共にした仲間だしね。

「それに刻印板を設置しておけば、すぐに戻ってこれるだろう?」

 その一言が決め手だったようで、アリサの説得に成功した。

 帰る前に、地上へ持ち帰る戦利品の選別だ。

 魔核コアのうち、この17区画で手に入れた大量にある真っ赤な大型魔核コアは予備の魔法の鞄ホールディング・バッグに入れてログハウスに置いていく事にした。アリや雑魚の小さく白っぽい魔核コアは、水増し薬作りの時に大量に消費したが、まだ百個以上残っている。この魔核コアだけを小袋に入れて持ち帰ろう。

 魔物の素材は、何も持っていないとかえって疑惑の視線を集めそうなので、無難に迷宮蟻の胸殻と背甲を各10枚と蟻の爪10本、あとは迷宮蛙の肉を持ち帰る事にした。どれもギルドの買取表にあったものだ。

 ちょっと思いついて、買取表に無い黄奇蜥蜴の肉も持って行く事にした。へんな触手のある黄色いイグアナみたいなトカゲだったが、焼くと脂肪分の少ない鶏肉のような味がして旨かった。

 1の4区画で見つけた隠し部屋まで、「帰還転移リターン」の魔法で戻る。もちろん、部屋に魔物や探索者がいないかは、事前に「遠見クレアボヤンス」の魔法で確認した。転移先の状態を確認するには、マップで調べるよりもこちらの方が手軽なので最近多用している。

 第1区画に戻る手前の十字路付近で、オレ達を囲むように接近する合計30人ほどの迷賊を発見したので、視界に入るはるか手前に「誘導気絶弾リモート・スタン」の3連射で始末しておいた。死にはしないだろうが、1人あたり2~5発ほど叩き込んだので、しばらく悶絶している事だろう。

 途中に適当な小回廊を迂回する事で、悶絶した迷賊に遭遇エンカウントする事もなく、無事に迷宮から脱出する事ができた。

 オレ達は迷宮の外で驚きを以って迎えられたのだが、その驚きはアリサの期待とは少しベクトルが違ったようだ。MaxMan

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