2015年9月22日星期二

第5列

本格的に軍備を整えるに当たって、仁は老子と相談していた。
 まずは統一党ユニファイラーの情報整理。これは支部長パーセルの知識をコピーした魔結晶マギクリスタルを老子が解析することになる。
 肝心なのは蓬莱島の強化。
「やることはたくさんあるが、どれから手を付けていけばいいかな?」精力剤
「そうですね、情報、輸送もしくは移動、それに戦力。この3つが必要だと思います。それぞれの増強手段を列挙し、優先度を付けたらいいのではないでしょうか」
 と言う老子の助言にしたがって、仁は考え込んだ。そして出した案というのは、

1。情報を強化するため、各地に密偵を放つ。
2。新しい移動手段の開発。
3。新しい兵器の開発。

 の3つである。

「密偵は、今の忍者部隊を増強する方向でいいと思うんだが」
「そうですね。私の意見を申し上げますと、御主人様マイロードの警護はしない前提で、ゴーレムではなく自動人形オートマタとし、人の間に紛れても大丈夫なように擬装するべきかと」
「うーん、それはいいな。よし、それでいこう。およそ100体作って、『第5列クインタ』としよう」
「第5列とはスパイのことでしたね。いい命名です」
 老子も賛成し、情報部隊『第5列クインタ』を作る事がまず決まった。
 一番活動しやすい成人男性型が40体、成人女性型が30体。擬装用に少年型10体、少女型10体、更に小さい礼子型10体の計100体。基本は蓬莱島隠密機動部隊SPと同じだが、魔法外皮マジカルスキンで被覆され、髪の毛を持ち、人間に近くなっている。仁が基本部分を作り、後は老子が受け持つこととなる。

 次に着手したのは移動手段だ。
「移動手段の一つとして、垂直離着陸機VTOLかヘリコプターを作りたい」
「どこにでも離着陸できる移動手段ということですね。よろしいかと思います」

 最後の兵器については情報や移動手段と連動するので急がないこととした。
 そして第5列クインタ開発に取りかかろうとした際、礼子が戻ってきたのである。

「お父さま、砦跡への拠点設置が終了しました」
「ああ、ご苦労さん、礼子」
 そして礼子は報告を始めた。

「まず、砦の残骸はそのままとしました」
 理由は、その方がうち捨てられた印象を周りに与えられそうだから。
「拠点は砦の中心部に空いた穴を更に掘り、50メートルの深さに設置。魔素通信機マナカム、転移門ワープゲートも設置済です」
 更に礼子は報告を続ける。
「居住設備として寝室、台所、トイレ。お風呂も小さいながら設置しました」
 仁が風呂好きなのを知って気を利かせたようである。
「食料庫はまだですが水の備蓄は済んでいます。10人が1週間暮らせる程度としました」
「よくやってくれた。礼子の作った拠点を標準として、これから各地に設けていくことにしよう」
 先ほどの3項目に加え、拠点の設置という項目が増えた。やはり軍事参謀が早急に必要そうである。老子といえどベースは仁の知識なのだから。

「何をおやりになってらっしゃるのですか? ごしゅじんさま」
 そこへアンがやってきた。今のところ、アンは特に決まった役割が無く、蓬莱島に来てからは暇なのだ。先ほどまではソレイユとルーナにいろいろ聞いていたらしい。
「ああ、アンか」
 仁は簡単に経緯を説明した。すると、
「少しくらいでしたら助言できるかと思います」
 と言うではないか。
「そうか、アンはあの砦で秘書みたいなこともしていたんだっけな」
「はい。残念ながら直していただいても一部の記憶が飛んでしまっていますが、できる限りお役に立ちますので廃棄しないで下さい」
「廃棄? 何でそんな話になる?」
 訝しむ仁に、アンはかつての話をする。
「あの砦で、私は旧型になりましたし、戦闘能力も低く、兵士の皆様も私の身体に飽きてしまわれました。それで故障の修理もしていただけず、朽ちるに任せて放置されたのです」
「何だって……」
 ひどい話だ、と仁は憤った。
「俺の所にいる限り、そんなことは絶対にしない。だからそんな悲しいことは忘れろ。……で、俺をサポートしてくれ」
「はい、ありがとうございます、ごしゅじんさま。精一杯尽くします」
「アン、一緒にがんばりましょう」
 礼子もアンを励ます。どういうわけか仁はアンに焼き餅を焼いた礼子を見たことがない。やはり設計基盤が先代という、同じ「血族」だからであろうか。

「よし、それじゃあ仕切り直しだ。やることはたくさんあるが、それを洗い出して順序づけしなくちゃならない」
 仁はそう言って礼子、アン、そして老子の固定端末を順に見回した。
「主に統一党ユニファイラーに対するための軍備ですよね?」
 確認の質問はアン。
「そうだ。だができれば殺人は控えたいとも思っている」
 仁がそう答えると、アンはそれを受けて発言する。
「それでしたら、最優先事項は統一党ユニファイラーの情報集めです。相手の情報を得る事こそが一番の武器になります」媚薬
 仁はそれに肯く。
「うん、やはりそうか。それには第5列クインタを作り、各地に派遣することになっている」
「そうですか。それなら次は遺跡の調査です」
 アンはそう意見を出した。
「遺跡?」
「はい。私がいた遺跡のように、まだ各地に当時の設備が残っているはずです。1部たりとも統一党ユニファイラーに過去の超知識を与えないというのも大切です」
「なるほど、ギガースのような兵器もある可能性があるってわけか」
「はい。ギガースは量産試作ですので、10機生産されたと記憶しています。そのうち3機は当時の戦争で破壊されました。残った7機のうち1機は先日破壊されたので6機が残っている可能性が高いです」
 意外とアンを交えての会議は実り多いものとなった。
 知識としては老子も同じものをもっているのだが、アンは思考回路が仁の設計ではないので、仁が見落としているようなことを指摘してくれる。

 まずは第5列クインタを作り、各地に派遣して統一党ユニファイラー及び遺跡の情報収集が最優先。その後は『垂直離着陸機VTOL』と言う運び。
 垂直離着陸機VTOL開発中にもたらされると思われる情報により、その後の方針を決めていく、ということになった。
 具体的には垂直離着陸機VTOLの試作を終えたらその量産展開は老子が受け持つ。仁は第5列クインタを完成させる。
 ほぼ同時に垂直離着陸機VTOLと第5列クインタは完成できると思われる。そして完成した垂直離着陸機VTOLを使い、第5列クインタを各地へ派遣する。
 最初に言ったことと順序が逆になるかもしれないが、これが最も効率的とアンが請け合ったのである。

 仁は垂直離着陸機VTOLの構想に入った。
「垂直離着陸機VTOLの大きな欠点として、燃費の悪さがある。詳しくいうと、静止状態ではジェットエンジンは空気を吸い込めないので、垂直離着陸や空中停止時の燃費が悪いということだ」
 仁は昔呼んだ雑誌の記事を思い出す。だが魔法型噴流推進機関マギジェットエンジンには当てはまらない。
「確かヘリコプターってのはローターの速度が音速を超えるとまずいとかなんとかあったんだよな」
 これもまた雑誌の記事からなのであやふやではある。
「やっぱり垂直離着陸機VTOL系で行くか」
 そう決めると後は早い。速度、安定性、許容荷重などを考慮し、魔法型噴流推進機関マギジェットエンジンの個数や取り付け方法を考えていく。
 こちらは老子との協議がメインになる。老子の持つシミュレーション能力が役立つのだ。
 結果、大型魔法型噴流推進機関マギジェットエンジン2基を主翼両端に備え、離着陸には下へ向けて使用。それとは別に推進用に2基、やや小型の魔法型噴流推進機関マギジェットエンジンを使う。更に方向調整用に小型の魔法型噴流推進機関マギジェットエンジンを4基、別々の方向に向けて設置。
 これにより、ホバークラフトのようなイメージで浮き上がったまま静止もでき、微速での全方向移動が可能になり、飛行時には翼端の魔法型噴流推進機関マギジェットエンジンを進行方向に回転させることで速度を出せる。低速時や重量物運搬時には下方へ噴射することで揚力も稼げる。
 重心位置に浮遊用のエンジンを設置することで、姿勢の変化を最小限に抑えるつもりだ。
「よし、試作は小型の物を作ろう」
 製作に入ると仁はさらに生き生きしてくる。
 老子が素材を手配し、礼子がそれを運び、仁が加工する。ここまでは今までと同じだが、今回からアンが細部をチェックすることで、より信頼性が増すこととなる。
 多少の試行錯誤を交えながら、垂直離着陸機VTOLの試作1号機が出来上がったのはその日のお昼過ぎであった。

「よし、それではテスト飛行を行う」
 研究所前の飛行場にて。今回もテストパイロットは礼子である。
「礼子、頼むぞ」
「はい、お父さま」
 短いやり取りの後、礼子は試作垂直離着陸機VTOLに乗り込み、機関を始動させた。
 ひゅううん、という魔法型噴流推進機関マギジェットエンジンの作動音。それが甲高くなり、試作機は地上を離れた。
「浮いた!」
 仁は固唾を呑んでその挙動を見守る。
 若干安定が悪そうだが、礼子は人間の数十倍の反射速度を以てそれを補正し、予定通り地上2メートルで静止して見せた。
「やった! 礼子、次は微速前進と方向転換だ!」
 魔素通信機マナカムを通じて仁は礼子に指示を出す。それを受けて礼子は試作機を更に操作していく。
 人が歩く速度よりもゆっくりと前進。10メートルほど進んだ後、礼子は試作機をバックさせた。
「うんうん、いいぞいいぞ」
 そして元の場所に戻ってきた試作機はその場所で180度ターンをした。
 更に横へ動かしたり、ゆっくりと円を描くように動かしたり、微速での操作性と挙動をじっくり確認した。
「良し礼子、今度は飛行能力だ。まず普通に飛んでみろ」
 その出来映えにとりあえず満足した仁は、次の段階、飛行機としてのテストを指示した。
 右手を軽く振って了解の合図をした礼子は、今度は垂直に上昇を始めた。5メートル、10メートル、20メートル。
 高度50メートルほどに達したところで、推進用魔法型噴流推進機関マギジェットエンジンが始動した。試作機は前方へと弾かれたように飛び出す。
 なかなかの速度である。そのまま礼子は高度を上げ、500メートルほどで主翼両端の機関を徐々に進行方向へと回転させる。
 これが難しかった。揚力が減り、推進力が増す。微妙に操縦性が変わる。礼子の反射速度がなければ無理だったかもしれない。精力剤・性欲剤
 だが礼子は危なげなく試作機を操り、補助用の魔結晶マギクリスタルにデータを蓄積させていった。
 サポートコンピュータにも匹敵するこの魔結晶マギクリスタルが、この後垂直離着陸機VTOLの操縦を格段に楽にしてくれるのである。
「成功だ!」
 細かい修正は必要だろうが、新しい翼がこの日蓬莱島に誕生した。

      

 夜、ラインハルトからの連絡があった。何事も無くトーレス川を渡ったそうで、特に異常はないということであった。

1つの大団円
「さて、最後になったが、エルザに聞きたい事がある」
「何?」
「ミーネの事なんだが」
 仁がそう言うと、エルザは勢いよく身を乗り出して、
「ミーネ! もう元気になったの!?」
 と急き込んで尋ねた。仁はその勢いに驚きつつも、
「ああ。もう意識も回復しているよ」
 そう教えるとエルザはすとん、と腰を落とし、
「よかった……」
 とぽつりと一言。
「エルザ、ミーネはお前を唆して危険な目に遭わせたとも言えるんだぞ。それでも心配なのか?」
 とはラインハルトの言葉。少し怒りが感じられるのは気のせいではないだろう。
「ん。でも、ミーネは私が危ない時に身をもって庇ってくれた。やっぱり心配」
 そうエルザが答えるとラインハルトは溜め息を吐いて、
「はあ、やっぱりな。それも血というものなのかな」
 と諦めたように呟く。それを聞きとがめたエルザが、
「ライ兄、どういう意味?」
 と尋ねる。ラインハルトは真剣な顔になって、
「ミーネはお前の実の母親だと思う」
 そう告げたのである。エルザは座布団を蹴飛ばして立ち上がる。
「ライ兄! それ、ほんと?」
「ああ。本人もそう言っていた」
 今度は仁がそう答える。
 再びエルザは座ろうとしたが座布団が跳んでいってしまっていたのでそのまま床に腰を落とし……後ろにひっくり返った。
「あぅ」
「だ、大丈夫か?」
 仁とラインハルトが心配して駆け寄った。正座が苦手なエルザとラインハルトのため、座布団を5枚重ねにしていたからその段差は大きかった。
「……お尻痛い……でも大丈夫」
 そう言ってエルザはお尻をさすりながら立ち上がり、座布団を引き寄せてそこに腰掛けた。目に涙が溜まっていたのは尻餅の痛さか、はたまた実の母親がわかった嬉しさか。
「ミーネに会いたい」
 エルザは仁の顔を見てそう言った。仁はそれを受けて考え込む。そして1つの結論を出した。
「よしわかった。エルザ、ミーネと一緒に崑崙島に住むといい。あそこなら安全だし、転移門ワープゲートで簡単に行き来出来る」
 それには礼子も賛成する。
「そうですね、この島ですといろいろ問題がありますが、元々崑崙島は蓬莱島のダミーでしたからね。いいと思います」
「あそこなら環境もいいしな。そうしてやってくれれば僕も安心だ。もうミーネを雇い直すわけにも行かないからね」
 ラインハルトも賛成したので、後ほど崑崙島に呼び寄せる事とした。
「それじゃあ、僕は一旦テルルスに帰るよ」
「うん、後の事はよろしく頼む。馬車だけはこっちで引き取るから、俺が途中で旅から抜ける事は上手く言っておいてくれ」
「もちろんさ。セルロア王国特別警戒域に入りたくないから回り道をして合流するとかなんとか言っておくよ」
 それで仁はラインハルトに魔素通信機マナカムを渡した。
 最近、魔力周波数の調節と同調に成功し、1000チャンネルくらいは混信せずに通話できるようになったのである。電波に比べたら全然大したチャンネル数ではないが、蓬莱島全メンバーをカバーできるという事は大きな意味がある。
「これで蓬莱島の老子に連絡できる。老子は俺に回す事が出来るし、俺がいない場合は老子に伝言をしておいてもらえばいい」女性用媚薬
「なあるほど、これはいい。そうだな、定期的に連絡を入れる事にするよ。夜がいいかな」
 さすがラインハルト、密に連絡を取り合っていれば合流するのも楽だろう。
「それじゃあ、俺もミーネを迎えに行くから一緒にテルルスへ行こう」
「ジン兄、ミーネをお願い」
 そういうわけで、仁とラインハルトそれに礼子は、エルザに見送られてテルルスへ跳んだ。

      

「僕はミーネに会わない方がいいだろう。よろしくと伝えておいてくれ」
「わかった」
 ラインハルトは宿へ戻り、仁はサリィ・ミレスハンの治癒院へと向かった。
「こんにちは」
 治癒院には今回、患者がいなかった。
「おお、君か。患者は大分良くなったよ。君の回復薬は凄いな」
 そう言ってサリィは仁を出迎えた。
「そうですか。それじゃあ退院させても大丈夫ですか?」
「うん? それはまあ大丈夫だろう。しかし無理はいかんぞ?」
「ええ、大丈夫ですよ。受け入れ先で養生させるつもりですから」
 仁がそう言うとサリィも安心したようで。
「そうか。それなら安心だな。あと2日もおとなしくしていれば元通りに治るだろう」
 と言った。それで仁は病室へ向かう。
「あ、ジン様」
 上体を起こそうをするミーネを仁は押し止めて、
「ミーネ、もう大分いいのかな?」
 と聞いた。ミーネは笑みを浮かべ、
「ええ、おかげさまでもう痛みはなくなりました。まだちょっと身体に力が入らないだけで、もう大丈夫ですよ」
 と言う。だが仁は、
「いや、治りかけが一番大事なんだ。今回は、寝床を移ってもらおうと思ってね」
「ここでなく、どこへ? ……もしかして?」
 ミーネの顔が期待に輝く。
「ああ、薄々わかっているのかな? エルザのいる所へさ」
「ああ、エルザ! ……で、でも、エルザは私を許してくれるでしょうか?」
 そう言って不安そうに俯くミーネ。まったく、これがあのミーネかと思う程の変わりようである。憑き物が落ちた、というのはこういう事なのかもしれない、と仁は思った。
「大丈夫さ。そして、エルザはミーネの事を実の母親だと知っているよ」
 そう仁が言ったら、ミーネは目を丸くした。
「さあ、母娘の名乗りをあげるといい。だから、行こう」
「は、はい」
 こうしてミーネは退院した。まだ足元がおぼつかないので、隠密機動部隊SPのエルムとアッシュを呼び出し、運ばせる事にした。
「先生、お世話になりました」
 仁は去り際にサリィに向かって頭を下げた。
「なんの、こちらもいろいろと助かったよ。回復薬、私も研究してみる。まずは自分の血で試してみる事にするよ」
「頑張って下さい」
 そのまま馬車の置いてある所まで行き、あたりに人がいないことを確認後乗り込む。
 馬車の転移門ワープゲートをくぐる際だけ仁がサポートし、ミーネと仁は一旦蓬莱島へと跳んだ。エルムとアッシュは馬車の警備だ。RUSH 芳香劑
 礼子も隠密機動部隊SPと共に今しばらく残り、馬車を統一党ユニファイラーの砦跡へ回し、そこに前進基地を作る準備を整えてから戻る手筈になっている。
「さあ、お父さまのためにも早く済ませてしまいましょう」
 礼子は連れてきたゴーレム馬を馬車に繋ぐとすぐに御者台に座り、馬車を猛スピードでスタートさせた。隠密機動部隊SPは姿を消したままそれに付いていく。
「お、おい、なんだ、ありゃ?」
「馬車……か? それにしちゃ速えな」
 目撃した何人かは驚いたり訝しんだりしたが、それ以上の事は何も無く、礼子は2時間で砦跡まで馬車を回したのである。

      

 仁はミーネを連れて蓬莱島に戻る。ミーネは初めて経験する転移門ワープゲートに目を白黒させて驚いていた。
 研究所から外へ出て、館に。もう外は薄暗かった。
 と、館の前に人影が1つ。もちろんエルザである。
 それに気付いたミーネはびくっと身体を震わせ、そこに立ちすくんだまま声も出ないようだ。
 エルザもミーネを見つめたまま立ち尽くしている。
 仁はそっとその場を離れた。
「かあ……さま」
 最初に動いたのはエルザだった。
 一歩、また一歩、ゆっくりと歩み、ミーネへと近づいていく。
 一方ミーネは少し狼狽し、後じさりまでしかかっている。
「母さま!」
 ついにエルザは駆け出した。そして勢いよくミーネに飛び付き、抱きしめる。
 初めのうちこそどうしていいかわからないように両腕を宙にさまよわせていたミーネであったが、やがてその両腕はエルザをしっかりと抱きしめる。
「エルザ!」
「母……さま」
 2人とも泣いていた。
「……こんな身近に本当の母さまがいたなんて。私は独りじゃなかった」
「ごめんなさい、悪い母親で……謝って許して貰えるとは思わないけど」
「ううん、ううん……もう、いいの」
 2人はあたりが真っ暗になるまでそこでそうしていたが、病み上がりのミーネを心配した仁がついに声を掛け、やっと2人は離れたのである。

      

 この後2人はもう一度転移門ワープゲートをくぐって崑崙島の館へ。
 ここでは5色メイドゴーレムのアメズ、アクア、トパズ、ペリド、ルビーのそれぞれ100番たちに世話を任せる。
 エルザは前に来て知っているが、ミーネは多少、いやかなり引き攣った顔をしていた。
「それじゃあ、何かあったら魔素通信機マナカムで連絡をくれ。お母さんを大事にな」
「ん、いろいろありがとう」
「ジン様、何から何までありがとうございました」
「ミーネ、早く身体を治しなよ」
 そして仁は蓬莱島へと戻ることにする。
「母親、か。エルザ、よかったな」
 ふと独り言がこぼれる。
 転移門ワープゲートに向かう途中、ふと空を見上げると満天の星空であった。
 そして蓬莱島に戻った仁はいよいよ本格的に動き出すことになる。カナダ 芳香劑

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