2015年8月5日星期三

で、何がしたいんですか?

「それにしても、豪い物騒な物を携帯してるんだな、お前は」

着直した着物に乱れがないかを確認していると、私に背を向けたままのホムラ様が、部屋に差し込む月明かりに液体の入った瓶を透かしながら声を掛けてくる。

私がホムラ様に中身をかけようとした、あの瓶だ。金裝牛鞭


「別に物騒な物など持っていませんよ?」

寝間着ではあるけれど、ひとまず、肌の露出はなくなり、何とか見れる格好になっている事が確認できた所で、布団から上体を出して、ホムラ様の背中に向けて返事をする。


「謎の薬瓶に短剣、その他諸々が物騒ではないと?」

「ええ、もちろんです。ここは王宮の一画ですから。危険な物を持ち込んでバレたら大変な事になるではありませんか」

そう言いつつ、気配を消して、ホムラ様に近付き、彼の背後から手を伸ばして薬瓶を奪い返そうと試みる。

あれは私の大切な護身道具。

危険人物の傍にいる今、手元に取り戻しておかないと、落ち着かないのだ。


「わっ!」
「……おっと、危ないだろ。何、勝手に奪い返そうとしてるんだ」

グッと手を伸ばし、後少しで届きそうという所で、目的物が遠ざけられ、咄嗟に追おうとしたせいでバランスを崩す。

顔面から床に落ちそうないなった私を、呆れたような顔で、ホムラ様が軽がると片手で受け止めてくれた。

「も、申し訳ありません」

不覚にも抱えられるような体勢になってしまった事に、苦い思いを感じつつも、すぐさま体勢を立て直す。


「実力行使する前に先に言葉で言え。……気が向けば応じてやる」

そういって、慌てて距離を取り直した私の膝の上に、ホムラ様は瓶を投げて寄越す。

言葉で言った所で返してなどもらえないと思いこんでいた私は、その意外な行動に、思わず瓶とホムラ様の顔を何度も見比べてしまった。


「……それを返して欲しかったんじゃないのか?」

あまりにも訝しげな顔をしていたせいか、少しムッとしながらホムラ様が私を睨む。

「そ、そうですけど。いいんですか?」

「あぁ。元々お前の物だろう。そんな事より、本当にそれは危険物ではないのか?」

後ろに手をつきながら振りかえったホムラ様が、私の手の中の物を顎で指し示す。


何でこんなにあっさり返してくれたのかはわからないけれど、ひとまず身を守れる物が戻ってきた事にホッとして、ギュッと瓶を握りしめる。


「これ自体には危険性はありませんよ。ただの揮発性の高い強力な睡眠薬ですから。朝までぐっすり眠らせる事が出来るだけで、体に害のあるものではありません。短剣も、刃は完璧に潰してありますので、打撲位はさせられますが、大怪我をさせる事はまず出来ません。特に女性の腕力では防御や脅しには使えますが、攻撃性はほぼ皆無です」

「そういえば、確かにあの短剣には刃がついていなかったな。つまり、防衛の為のみの武器って事か?ここが王宮だから敢えてそうしていると?」三體牛寶

体を起して、ベッドの下、ホムラ様の丁度足下にあたる位置に落ちていた短剣を拾いながら、ホムラ様が訊ねてくる。

「……それにしては、随分使い込まれているようだが?」

拾い上げた短剣を改めて眺め、指先で潰された刃をなぞった後、不思議そうに首を傾げるホムラ様。


彼が不思議に思うのも仕方ない事だ。

それは、私が芸妓を始めた頃から使っている年期物。


もし、王宮に入る際の防衛手段の一つとして用意した物であれば、必然的に新しい物になるし、例え、使い古された短剣を再利用して作った物だったとしても、刃を潰す為に鉄を打ち直した部分には、手を入れたばかりである名残りがあるはずだ。

素人目なら、もしかしたらその違いは判断出来ないかもしれないけど、ホムラ様の口調は明らかにその事を確信している。

きっとその可能性も含めて、使い古された物だと判断したんだろう。


「それは、普段から私が身を守る為に使っている物です。ついでに言えば、この薬もです。私が住んでいる、色街という場所は危険も多い場所なので」

「……何だと?」

興味深げに短剣を月明かりを使って観察していたホムラ様の顔が、急に険しい物へと変わった。

グッと寄せられた眉間には深い皺が寄り、その目は明らかに不快気な色を含む。



「お前は色を売らない芸妓なのだろう?」

不機嫌さを隠さないホムラ様の、地を這うような重低音の問い掛けに、思わず苦笑しながら、肯定するように頷く。


「はい。しかし、色を売らないからこそ、無理矢理力づくでも散らそうという者もおりますので」

一瞬、嫌味半分で「貴方のような」という言葉を付けようかと思ったけれど、やめた。

ホムラ様の瞳には、おそらく私に向けたものではないであろう怒りが浮かんでおり、とても嫌味を言える雰囲気ではなかったし、何より、今まで本当に実力行使してきた最低男達と彼とでは、少し違ったから。

母様に芸妓として店に出る前に自分の身は自分で守れるようにしておかなくてはいけないと言われ、護身術を含む、様々な身を守る術を習った。

そのお陰で、今まで幾度となく不届き者に襲われ掛けた事はあっても、この身を汚された事はない。

でも、例え防衛手段はあったとしても、あの時の恐怖というものは想像を絶するものがある。

骨が軋む程に掴まれる腕や足。

肌を這い回る舌と唇。

普段、どんなに表面上は見目が良い男であっても、力ずくでも行為に及ぼうとするあの時だけは、その瞳に狂気を宿した醜悪な顔になる。福潤宝

その唇に、まるで免罪符のように愛の言葉をのせてはいても、私の心は一切見ず、私の悲鳴には一切耳を貸さない。

私に苦痛を与えようとも、一切躊躇いはしないのだ。

それは、私という1人の人を相手にしているのではなく、まるで自分の所有物である人形を好き勝手に弄り倒して、傷つけて陶酔に浸っているかのような行為。

対処する事には慣れても、その恐怖だけには決して慣れる事はない。


けれど、ホムラ様は、無理矢理その行為に及ぶような素振りは見せても、本気で私を傷つける気はないよな気がするんだよね。

本気で痛みを訴えれば一応力を抜いてくれるし、さっきみたいに暴れれば必要に応じて押さえつける事はしても、傷つけはしないように注意を払ってくれているのがわかる。

そういえば、初めて会った時に、私の髪を抜いた時も慌てて謝ってくれてたっけ。

そこには、少なくとも、あの男達のような狂気も、人を人とも思わないような姿勢も見られない。

もちろん、だからと言って彼の言動に全く問題ないとは少しも思ってはいないけれど、それも、少なくともあいつ等よりは幾分ましな気がする。


「ならば、いっその事、こんな生ぬるい武器ではなく、本物を使えばいいだろ?」

手にした短剣を忌々しげに睨みつけるホムラ様。

まるで、その鈍い光を映す刀身に、今まで私を襲おうとした下衆達が映っているかのようだ。


正直、私も何度もそう思った事がある。

まだそういった事への対応の仕方に慣れていなかった頃は特にだ。

それ位、怖かったし、腹が立った。

ここで、本物の剣を抜いて攻撃出来れば、少なくとも目の前の男に関しては、その時のような恐怖を味わう事も、不快感に煩わされる事もなくなると何度思った事か。


でも……

「私は一流の芸妓です。どんな時であろうと、お客様に怪我を負わせる訳にはいきません。……それに、私共の店にいらっしゃるのは、身分的にも一流のお方のみです。平民……それも、色街に住人である私がもし万が一にでも怪我を負わせたとなれば、事情がどうあれ、大きな責めを負わされる事は免れません。私だけならともかく、一歩間違えれば店にも多大な迷惑を掛ける事になるのです」

「相手が先に襲ってきたというのにか?」

「例えそうだとしても、対等な身分でない私達が、相手を傷つけてしまえば、公衆の面前であった等、余程の証拠がない限り、言い訳にはなりません。立場の弱い者というのは、誰か守って下さる存在がない限り、その発言に力を持たせる事が難しいのです」


何度、理不尽に傷つけられる仲間を見てきただろうか?

何度、理不尽に頭を下げさせられる事があっただろうか?挺三天

私のように、そんな中でも身を守る方法を得たものは、むしろ幸せな方だろう。

中には、ろくに身を守る術すら持たず、傷つけられ、嘆き、苦しみ、激しい怒りの中で絶望していく者だっているのだから。


「……理不尽だな。腹が立っただろう?辛かった……だろう?」

ホムラ様の瞳が私を捉える。

まるで、自分が傷つけられでもしたかのように、痛みに耐える表情をする彼に、過去の古傷が呼びさまされる。

「腹が立たなかったとも、辛くなかったとも、私には言えません。でも、だからこそ、私達は皆で寄り添い合い、助け合い、身を守る術を学びながら生きてきました」

ニッコリと笑ったつもりだったのに、気付けば眉尻は下がり、唇が震えていた。

「相手の方を傷つける事は出来ませんが、こういった薬を使って誰か店の者が来るまで凌げば、後は何とかなります。世間体というものがありますから、相手の方も下手な騒ぎ方は出来ませんし、うちの店のように高級店になれば、店自体に様々な顧客の方の庇護があります。状況によっては、お店にはもちろんの事、色街全体に出入り禁止にする事も可能です」

淡々と説明しているつもりなのに、私の声は何処か擦れて弱々しい。

本来であれば、色街の裏事情など、お客様には滅多に話さないというのに、ホムラ様相手には、何故かスルスルと言葉が漏れていた。

きっと、あの目がいけなかったのだ。

表面上の同情ではなく、私の……私達の痛みをそのまま受け止めたかのような、あの目が。


「お前は……そんな状況に身を置かせた奴を恨んでいるだろう?」

ホムラ様の手が、ベッドに毛先を広がらせていた私の髪を掬い上げる。

私は特に抵抗する事もなく、その光景をただただ眺めていた。


「私が母様を恨む事など何1つありません。母様はこの世界で生き抜く術を私に与えて下さいました。私に芸妓としての誇りを与えて下さいました。私がいつでも羽ばたけるだけの自由を守って下さいました。決して優しいだけの人ではありませんが、私は母様がとても大切で……大好きですわ」

偽りない本当の気持ち。

でも、それを口にするのは、何処か気恥しいものがあって、ほんの少しだけ頬に熱が宿るのを感じた。JACK ED 情愛芳香劑 正品 RUSH

けれど、そんな私を見たホムラ様は、私の髪に触れる指先にグッと力を込めた。


「……そうではなく!」

彼の指の中で握り締められた私の髪に痛みはない。

けれど、苦痛に満ちた彼の声が……表情が……何故か私の胸をギュッと締め付けた。


「……ホムラ様?」

何故彼がそんな顔をするのか、その意味がわからず、困惑しながら彼の名を呼ぶと、彼はハッとした顔で、険しくなっていた表情を緩めた。


「すまん」

一瞬だけ私の髪に口付けた彼は、指の力を抜き、それを放した。

サラサラと再びベッドに落ちる私の髪を目で追い、見つめ続ける彼。

その謝罪の言葉は一体、何に向けてのものだったのだろう?


「……出来る事なら、もっと早くにお前を見つけ、そこから連れ出したかった」

ボソリッと呟くように告げられたその言葉は、彼に似合わず、何処か落ち込んでいるような雰囲気を漂わせている。

……この人は、一体、何を言っているのだろうか?

まるで、私を連れ出す事が当たり前のような、私が嫌な思いをしてきた事が自分の罪でもあるかのような口ぶりだ。


「何をらしくない事を仰っているのですか?それに、私はあの場所での生活が存外嫌いではないのですよ。辛い事はあっても、日々は充実しておりますし、大切な人に囲まれて、それなりに幸せに過ごしております」

「……だから、そこから出る気はなかったと?」

何故か落ち込んだ様子のホムラ様を励まそうと、わざと明るい口調で話すと、私の髪を見つめ俯きがちだった彼がピクリッと反応し、顔を上げ、私に探るような、そして何処か責めるような視線を向けてきた。

その射抜くような視線に、私の心臓がキュッと竦み上がる。


……な、何なのこの人。

情緒不安定なの!?

背中に嫌な汗が伝うのを感じながら、視線を逸らしたら負けとばかりに、私はその視線を正面から受け止める事しか出来なかった。MaxMan

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