「ほぅ?」
「な、なんですかローナ、その視線と口調は?」
「ほぅほぅ……なるほどなるほど」
「いい加減にしないと……抉りますよ」
じろりと下からねめつける様に見上げられて、ローナは慌てて目を逸らした。頂点3000
逸らした視線の先には、一体どういうつもりでこんなものを作ったのだろうと訝しく思う程に広い湯船が、もうもうと白い湯気を上げて広がっている。
壁も床も真っ白な大理石で出来ていると言うのに、何故か湯船だけは木製で美しい木目が風呂場全体を照らしている魔術の灯りの下に映えていた。
木材の種類まではローナは分からなかったが、お湯に温められたそれはなんだか非常に気分の落ち着く良い匂いを発しており、この風呂場を設計した人物の趣味のよさが伺える。
場所は獣人族の王城。
その一角にしつらえてあった大浴場である。
「うー……」
傍らから上がる唸り声に再び視線をそちらへ向ければ、そこに非常に不満げな顔で立っているのはメイリアである。
当然、風呂場なのだから全裸なのであるが、彼女は胸から下をすっぽりとタオルで覆い隠しており、見えるのは胸元から上しかない。
このためにわざわざ、獣人族の巫女にかけあって一番大きなタオルを探してもらってきたのを、ローナはしっかりと目撃していた。
脱衣所でちらりと見た限り、メイリアの体の凹凸は非常に控えめで慎ましやかである。
口にすればどこかは分からなかったが、確実に抉りに来るはずなので口にはしないが、メイリアは年齢の分を考えてもやや体型が薄い。
腰の辺りはしっかりとくびれているのを脱衣所においてローナは確認していたので、幼児体型と言うわけではないのだが、とにかく胸元と腰の辺りのボリュームに乏しいのだ。
クロワール程ではなかったが。
そこまで考えてからローナは思い直す。
なんだかんだと言ってみても相手は次期大公であり、自分の上司に当る人物である。
乏しいと言う表現は無いだろうと思ってローナは自分の頭の中から相応しそうな単語を検索し思い直す。
メイリアの体型は華奢で儚い。
少しはマシになっただろうかと考えて、あまり変わらないかと一つ息を吐く。
焦る年頃でもないだろうに、とはローナは思う。
シオンはそうでもなかったが、ある年齢になると突然育ち始める人とて少なくないのだ。
「一体、何を食べたらそんな風になるのですか、ローナ」
メイリアに尋ねられてローナは自分の身体を見下ろす。
自分で言うのもどうかと思うローナではあるが、確かにそこにあるのは凹凸のくっきりと出た肢体だ。
他人と比べてボリュームに富んでいると言う自信はあったし、かと言って太っていると言われるほどのものでもないとローナは思っている。
所謂、出るべき所は出ていて引っ込むべき所は引っ込んでいると主張しうるプロポーションだ。
ただ、魅力的なのかと問われると、最近は少しだけ自信を失っているローナである。
以前は自分が迫れば断れる人なんていないだろうくらいに自惚れていたのだが、迫ってみてしっかり断られると言う経験を経た今となっては、以前の自惚れが赤面してしまうほどに恥ずかしかったりする。
「何と言われましても……取り立てて妙なものは口にしていないと思うのですが」
むしろ、元々は騎士として働いていた身であるのでそこそこ質素な食生活をしていたのではないかとすらローナは思う。
食事は楽しむものではなく、日々の糧以上の意味が無かったからだ。
最近は蓮弥の影響もあり、なんだか珍しいものやら美味しいものやらばかり食べている気がする。
ただ、そちらは極めて最近の話であり、メイリアの尋ねる所とは違う話のはずだ。
「ぐぬぬ……」
ぎりぎりと歯軋りの音すら聞こえてきそうなメイリアに苦笑を浮かべて、ローナは手桶にお湯を汲み、身体を流す。
人族の国においてこの風呂と言う施設はあまり馴染みのあるものではない。
そもそもが大量の水とそれを沸かす燃料、そしてそれだけの水と熱を保持させる風呂桶が無くては始まらないものだからだ。夜狼神
一般的な家庭には備え付けられておらず、大概は懐に余裕のある者が半ば趣味のようにして設置するのが風呂と言うものだった。
しかし、蓮弥と行動を共にするようになってからローナはかなりの頻度で風呂を利用するようになった。
利用頻度が増してくると、どうやらこの風呂と言うものは身体を清潔にする為以外に、気分を楽にしてくれたり気持ちよくしてくれたりする効能があることをローナは理解し、それからは風呂のない生活と言うものが果たしてどんなものであったのかと言うことをほぼ忘れかけている状態だ。
この風呂を利用する際にあたって、蓮弥が口を酸っぱくして注意していたのが湯船に入る前に必ず一度身体を洗い流せと言うものだった。
確かに、汚れた身体のまま湯船に入ってしまえばそこに満たされている大量のお湯を汚す結果となり、非常に効率が悪い。
それならば多少手間ではあってもまず大まかに汚れを落とし、きれいになった身体で湯船に入ると言うの実に合理的な方法であるとローナは思う。
だからこそローナは、蓮弥からの言いつけをしっかりと守ってまずはきっちりと身体を洗う。
「ローナって、洗いにくそうな体ですよね」
タオルを巻いているままでは身体は洗えない。
ローナが身体をお湯で洗い流している様子をじっと見ていたメイリアは、やがて諦めたように体に巻いていたタオルを脱ぎ捨てるとこちらも手桶にお湯を汲み、体へとかけ始めつつぼそりと呟いた。
何のことだろうとローナがメイリアに目をやると、メイリアはにやっと笑みを浮かべつつ言った。
「あっちこっち、大きかったり太かったり重かったりで谷間隙間がありますものね」
「……メイリア様は洗いやすそうですよね。しゅっとしてつるんとしてますし」
大きい太いを強調して、言外に何かの意味を含ませようとしているメイリアに、ローナはさらりと切り返えした。
そんな言い方をして、何を言い返されるのか予想しなかったのだろうかと思うローナの目の前で、何か見えない刃物に胸のど真ん中を貫かれたような表情のままメイリアの体が大きく傾ぐと、次の瞬間には飛沫を上げつつ湯船の中へと倒れこんでいった。
しばらくしてぷかりとうつ伏せに浮かび上がったメイリアの背中を見て、ローナはトドメの一撃を放つ。
「あらメイリア様……お顔が真っ黒ですよ? あ、そちら背中で後頭部でしたか」
ほほほほ、と笑うローナの言葉が聞こえたのか、ぷかぷか浮いていたメイリアが湯船の中でがばっと立ち上がると仁王立ちになり、笑うローナを指差して叫んだ。
「胸デブ! 垂れろ!」
「た、垂れろ……?」
あまりといえばあまりな言い草に、ローナが愕然としつつ言葉を漏らした。
その表情に多少はダメージありと見たのか、メイリアがさらに言い募る。
「ローナなんて、胸もお尻も垂れてしまえばいいのです! いえ、その大きさならばあと10年もすれば垂れるのは確実!」
びしりと指を突きつけて、決め付けるメイリアに流石のローナも頬が引き攣り始めた。
いかに上司の娘とて、言って良いことと悪いことの区別はつけるべきであり、それがつかないと言うのであればお仕置きの一つや二つはもらっても当然ではないかと思い始めたのだ。
「メイリア様? いくら私が大公陛下の部下だとて、言って良いことと悪いことがありますよ?」
「ローナのそのボリュームからして、10年は言いすぎでしたね。……あと2、3年ってところでしょうか?」
頬の引き攣りに加えて、ローナの額に青筋が浮かんだ。
けれどもその表情は笑みの形を崩すことは無い。
湯船の中で仁王立ちするメイリアに、ローナはゆっくりと湯船の中へ足を踏み入れると、さらにゆっくりと近づいていく。
「いいでしょうメイリア様。口の利き方と言うものを教えて差し上げましょう。ついでにその平たいお胸をさらに平たく広く薄く引き伸ばして差し上げます」
「い、言いましたね!? ならば私はその重たい胸とお尻を今すぐにでもだらしなくタレた代物に変えてあげましょう!」
顔を真っ赤にして掴みかかってきたメイリアの両手に自分の両手を合わせてローナは湯船のど真ん中でがっちりと組み合う。
力と重量と言う点においては圧倒的に有利なローナであったが、一瞬で押しきれるかと思いきやメイリアは地味な反撃方法を繰り出してくる。VIVID
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「え? あ、痛たたたっ!? メイリア様!? 足踏んでます、足!」
組まれて押しきられる寸前に、メイリアは湯の中にあるローナの足の甲を思いっきり踏んづけたのだ。
ちょうどメイリアの右足の親指が、ローナの左足の薬指と小指の間辺りをぐりぐりと刺激するようになっている。
「ふふ……思った通りです。ここが痛いと言うことは……」
「言う……事は?」
「ローナ、貴方は肩こりが酷いと言うことです! その胸にぶら下がっている脂肪の塊のせいですね。私が治療してあげましょう! そーれぐりぐりぐり……」
「は? 肩こり? って痛たたたっ!? 本当に痛いんですけどそれ!?」
親指をねじ込むように足の甲を刺激されて、たまらずにローナが悲鳴を上げる。
一応、メイリアが口にした知識は蓮弥に尋ねたものに加えてこの世界における知識も併せてのものなので、肩こり解消のツボの位置として間違っているわけではなかったが、その使用方法はかなり間違ったものだ。
「さぁローナ。観念しなさい。所詮貴方は垂れる運命からは逃れられないのです」
「か、関係ないですよねそれ!?」
「あります。肩が凝ると言うことは貴女の体がその脂肪の塊の重さに順応していないと言うこと。つまり、今は良いとしても若くなくなればその塊を保持することができなくなり垂れると言うことです!」
「ぐぅ……なんとなく正論のような……?」
ちなみにだが、言っている本人であるメイリアもこの件に関してはなんの根拠も無く口にしている。
要は自信を持って言い切ることで、根拠が無くても相手にもしかしたらと思わせるだけで勝ちなのだと思っているのだ。
何に対しての勝ち負けなのかは、おそらくメイリア本人も良く分かっていないだろう。
「し、しかしそれは、きちんと身体を鍛えて保持できる身体を造れば良いだけのこと!」
押しきられかけたローナであったが、相変わらずぐりぐりと足の甲を抉る痛みをぐっと堪えて、がっちりと組み合っている手に力を込め始める。
元騎士のローナと、事務系のメイリアとでは握力の差は歴然としている。
余裕たっぷりの表情であったメイリアの顔がわずかに痛みにゆがみ始めた。
関節やツボではなく、直接握力で持ってローナはメイリアの手を攻撃し始めたのだ。
「翻ってメイリア様。貴女様のその華奢な体型は……どう鍛えても華奢なままなのですよ!」
「ぐぬっ!?」
「そこが持てる者と持たざる者との差なのですっ!」
「あ、あの……一体なにをしてるんだ?」
ショックを受けたメイリアに、ここぞとばかりに押し込もうとするローナ。
湯船の中で全裸の女性二人がいがみあっていると言う、通常見られない光景におずおずと口を挟んだのは、一番最後に浴場へと足を踏み入れたシオンである。
かけられた声に、ローナとメイリアは組み合った姿勢のまま顔だけをそちらに向けてシオンを見て、同時に顔を凍りつかせる。
「え? 一体何がどうしたんだ?」
ローナもメイリアも、シオンの身体つきに関しては何度か目にはしていた。
幾分、ローナの方が最近のシオンの状態を知っているわけであるが、それとて蓮弥と行動を共にするちょっと前の話である。
その頃のシオンの身体つきと言えば、剣士としての訓練を行っていたせいなのか、腕や足等に硬い筋肉がつき、そんなに酷くはないもののローナからしてみればごつごつとした印象を受ける身体つきをしていた。
その後シオンは、あのキース達が行った訓練等を経ており、鎧を着た兵士等を一撃で吹き飛ばすくらいの腕力を身につけている。
さぞや以前よりも筋肉の付き方が増しているだろうと思っていたのだが、そんなローナの予想に反して浴場に入ってきたシオンの身体つきはどこからそんな腕力が生まれてくるのだろうと疑問に思うほど細くしなやかなシルエットへと変化していた。
腕や足についていた筋肉はその姿を消し、女性らしいまろみを帯びた曲線をこれでもかと見せ付けている。lADY
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割れかけていた腹筋も、まるでその姿を無くし、残っているの張りと艶だけだ。
さらにローナが驚いたのはシオンの胸であり、こちらは以前見た時よりも間違いなくサイズが上がっており、剣士と言う職業柄その付近の筋肉がしっかりと鍛え上げられていることを示すかのように、ぐっとお椀型を保持している。
「詐欺でしょうそれは……」
全体的に女性らしい身体つきになったと言うのに、パワーだけが以前より段違いに上がっていると言う現実。
これを詐欺と呼ばずしてなんといえばいいのかと、ローナは力なく呟いた。
目の前で一体何がどうなったのか分からず、身体を隠すことも無くおろおろとしているシオンを見れば、確かに自分の体はボリュームと言う点だけならば勝っているが、メイリアの言う通り、いずれ垂れてしまうと言われても仕方がないのではないかとすら思い始めてしまった。
一体蓮弥はシオンにどのような訓練を施したと言うのだろうとローナは考える。
これは一度お願いして、自分もその訓練を受けるべきなのではないだろうかと。
メイリアはメイリアでやはり衝撃を隠せずにいる。
メイリアの知るシオンは、ローナよりも昔のものであったが、やはりその頃から剣士を目指していたシオンはどちらかと言えば筋肉質で、さらにその頃はそれほどメリハリのある身体をしていなかった。
それが今目の前に立っているシオンは、最大値こそローナにひけを取ることだろうが、総合的に判断するとぶっちぎりでローナのプロポーションに対する評価値を超えてくるものを見せ付けている。
メイリアが一番驚いたのは、気にしている胸ではなくシオンの腰つきだ。
ぱんと張り詰めたその部分は、きっと指で摘もうにも摘むものが無い状態だとメイリアは思った。
メイリア自身もその辺りはきゅっと締まっている自信があったが、今目の前にある自分の姉と比べてしまえば、どう見ても見劣りがする。
そもそも自分のわき腹辺りはそこそこ摘めるものが張り付いている。
本当にこの目の前であわあわしている女性は自分の姉なのだろうかと疑ってしまうメイリアであった。
「メイリア? ローナ?」
「空しいです……」
「そうですねメイリア様……これはもう暴力ですよね……」
空ろに呟いてぽちゃんと湯船に座り込む二人を、一体何がどうなっているのか分からずにシオンは首を傾げ、考えても理解できそうになかったので考えるのをきっぱりと諦めてから手桶にお湯を汲んで身体を流しだす。
シオンも蓮弥から、湯船に入る時にはきっちりと身体を流してから入れと言われているクチであった。
だからこそしっかりと身体をお湯で流し、ほんのりと上気するくらいに暖めてからゆっくりと湯船につかる。
いつもはまとめている黒髪が、湯船の中でさっと広がる。
本来これは良くないことであり、通常髪の長い女性は頭の上に結い上げて湯船に入るものなのだが、蓮弥はこれについては注意も何もしなかった。
その理由について知るのは蓮弥のみである。
「見た目ですよね」
「見た目でしょうね」
メイリアとローナが、気持ち良さそうに湯船で全身を伸ばすシオンを見ながら同じ事を呟く。
一体何のことだろうかと問いただそうとして、シオンはふと天井を見上げて眉根を寄せた。
「姉様?」
「何か……音が聞こえないか?」
シオンに言われてメイリアもローナも口を噤み耳をそばだててみるが、たまに天井から水滴が湯船に落ちてぽちゃんと音を立てる以外の音は二人の耳には聞こえてこなかった。
「何か聞こえるのですか姉様?」
「私には何も聞こえないのですが」
「気のせい……ではないと思うんだが……今は聞こえないな」
聞こえた音は小さな爆発音のようだったとシオンは思う。玉露嬌
Virgin Vapour
王妃対巫女の格闘戦は終わっているはずだったのだが、それ以外にも王城の中で爆発音を響かせるような事柄等あるのだろうかと首を捻りつつ、シオンは取り敢えずは暖かな湯船を堪能するべく、さらに深く身体をお湯の中へと沈めるのであった。
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