2014年6月11日星期三

Prayer for Killer

溢れ出す赤と零れんばかりの白。彼女はそのふたつの花束を腕に抱き、ゆっくりと歩みをすすめていく。彼女の傍らに黙然と佇んでいるのは、灰色にくすんだ墓標の群――彼女が黒い服を纏っているためか、まるでそれらは葬送を見送る参列者のようだった。
 墓地は広い。だが彼女は迷うこともなく真っ直ぐに前を見すえていた。入り口からどんどんと奥へ進み、密に立ち並んでいた墓標も疎らになってきたところまで来てようやく足を止める。辺りを見回す目は憂いを湛えた闇の色だった。精力剤
 彼女の視線がとらえたのは、墓地の片隅――そこは他の場所とは違って、一種異様な雰囲気をたたえていた。墓標の影はなく、子供の身長ほどの高さの杭が地面に無数に突き立っている。――まるで吸血鬼を封じ込めているようだ、と彼女は思った。
 墓標とは違って、杭の表面には何も記されていない。それでも彼女は目的の場所まで真っ直ぐに歩いて行った。二本、寄り添うように並んだ杭。
 真一文字に弾き結ばれていた彼女の唇が、ようやくほころんだ。
「ここに来るのは何年ぶりかしらね……。お久しぶり――父さん、母さん」
 彼女はひとつの杭の前に赤い花束を、もうひとつには白い花束を手向けた。
 
 赤は父の色。そして、母は白の似合うひとだった。
 
 体を起こした彼女は、振り向くこともなくつぶやいた。
「弟ほどじゃないけれど、私もある程度たしなみがあるんですよ――羽渡さん。素人の尾行ぐらいはすぐに気付きます」
「……すみません。尾行するつもりじゃなかったんですけど」
 姿をみせたのは、彼女と同じくらいの年齢の男だった。
「あなたが王宮を出られたから、一体どこに行かれるのか気になって……」
 羽渡、と呼ばれた男は不審そうに辺りを見回す。
「それにしても、ここは一体何なんですか? お墓……?」
 彼女はふ、と笑った。
「ええ、墓地です」
「でも」
「埋葬されているのは――私の祖先たち。そして」
 花束は風に煽られ、はらはらと揺れている。
「その杭は」
 彼女の指差した先には、まだ真新しい杭が立っていた。
「私の弟のお墓になるはずだった場所……」
「…………」
 男は口を噤んだ。たぶん――彼にはわかったのだろう。一体ここに眠っているのがどういった者たちなのか。何故彼らには墓標が与えられないのか。そのすべてを、了解したことだろう。
 長い沈黙の後、男はぽつりとつぶやいた。
「僕も……」
 彼女は振り返る。
「手を合わせても良いですか」
「……え」
「そこ、貴方のご両親のお墓なのでしょう?」
「…………」
「僕もお祈りして良いですか」
「……ええ」
 彼女――氷雁譲は、微笑んだ。
 
 
 羽渡雪彦がその一族について知ったのは、もう数年ほど前のことになる。血塗られた一族――暗殺を生業とする者――歴史の必要悪――だがそれはどれも彼らの真実の姿とは程遠かった。
 一族の現当主とは、二度ほど会話を交わしたことがある。物腰の柔らかい、だがどこか重い空気をまとっていたあの男。鮮やかな赤い瞳と鋭利な美貌が印象的だった。
「弟さんの、容態は……?」
「安定はしています。でも、まだ意識は……」
 譲は目を伏せる。
「そうですか……」
 雪彦は目の前に並ぶふたつの杭をぼんやりと見上げた。先代の暗殺者の墓と、それに寄り添うように並んでいる墓。そして、少し離れて主のいない墓――今は、まだ。
 雪彦の思考に気付いたのか、譲は小さくつぶやいた。
「本当は――あの子は、護はもう、生きていてはいけないのでは……」
「え?」
 雪彦は驚いて振り向く。彼女は沈鬱な表情で目を伏せていた。その黒い服はまるで――まるで弟のための喪服のようで。雪彦はぶるりと体を震わせた。
「あの子は数え切れないほどたくさんのひとを殺してきました。いくら彪さんが許すと言っても、本当は許されないことでしょう。あの子には一生をかけても償えないほどの重い罪ですから……」
「…………」
「それでも、私はあの子の姉です。この世に同時に生まれてきた双子。もし彼がいなければ、今の彼の場所には私がいた」
 譲は目を上げた。一瞬その瞳が赤く染まっているように見えて――だがそれは夕陽が映りこんでいるだけだった。雪彦はほっと息をつく。
「時々疑問に思うんです――もし私が彼だったら、私は彼と同じように決断できただろうか。自分が死んでもいいから、誰かを殺したくないと願えただろうか。自分で自分を取り戻すことができただろうか。暗殺者としての自分を捨て、人間に戻ることができただろうか……」
 雪彦は声を失い、譲はそんな彼を見て弱々しく微笑んだ。
「わかりませんよね。自分ならそんな状況でどうしただろうかなんて。でも……」
 譲は一歩踏み出し、真新しい杭に手を触れた。まるで誰かの頭をなでるように、そっと手を動かす。
「あの子はあの場で、その決断をした……」
「…………」
「私には判らない……あの子は、本当は最初から人間でありたいと願っていたのかもしれない。暗殺者であるように仕向けていたのは、私たちの一族の歴史と、そして――」
「この国の歴史、そのもの……」
 譲の言葉を、雪彦が引き取った。彼女は静かに頷く。
 雪彦は彼女の隣に立ち、そして優しい目で彼女の触れている杭を見つめた。
「譲さん。僕はずっと法務大臣を勤めてきました。その僕にも――彼は裁けない」

 確かに彼はひとを殺した。だが、そのすべては依頼殺人――彼はただ、仲介者の受けてくる依頼をこなす人形のような存在だった。
 歴史が彼を、いや彼らを人形に仕立て上げ、ひとを殺させた。媚薬
 
 ではその歴史とは一体何だろう?
 
 譲の脳裏に浮かんだ疑問に答えるように、雪彦は言葉を紡いだ。
「歴史とはひとの意思でありながらそれを超えた存在。連続的でありながら時に不連続なもの。方向性があるようでいて、しかしある時突然見失われてしまう。形はないけれど、我々は書物として手に取ることができる」
「まるで、人間のようね」
 譲がぽつりとつぶやいた。雪彦はうなずく。
「そう――まさに歴史とは人間そのものだと思います。……結局、人間を殺させていたのは人間。暗殺者は最初から人間の中に存在していたのですよ」
「…………!!」
 譲は弾かれたように雪彦の顔を見つめた。彼は静かに微笑んでいる。
「貴方たちの一族は人間です。最初から最後まで。ずうっと、人間だ」

 ――護は人間なんだよ。生まれてからずっと、人間であり続けているんだ。
 
 脳裏に響くのは、今はもう王でなくなった少年の声。譲は目を閉じてそれを聞く。
 
 ――だって、護は泣いていたんだから……。
 
「羽渡さん」
「何です?」
「……ありがとう」
 譲はつぶやいた。
 この身に流れる血を呪ったこともあった――人間ではないとされる暗殺者を父に持つばかりか、それと血を分けて生まれてきた自分。確かに瞳の色にその「証」はない。だが、彼女だけがふつうの人間のような顔をして生きていていいのか……。
「いいえ。……すみません、こんなプライヴェートな場所についてきてしまって」
 決まり悪げに頭をかく雪彦に、譲はくすりと笑った。
「構いませんよ。……もう、この場所は必要のないものですから」
 暗殺者によって「しあわせ」を教えられた少年――彼によって道を変えた歴史はもう、暗殺者を必要としない。
「そうですね。あ、これ引っこ抜きましょうか」
 雪彦は新しい杭に手を掛けた。
「……いえ、それは――」
 譲は軽く首を横に振って雪彦をとどめた。
「私たちの一族の墓標として、置いておこうと思います」

 かつて、血と悲しみに彩られた一族がいたのだと。
 己を殺し、他人を殺し、そして最期は己の中の「人間」に殉じて死んでいく――そんな風にしか生きられなかった者たちがいたのだと。
 
 父と母の声を借り、彼らは叫ぶ。
 
 最期の暗殺者――護のしあわせを見届けてあげて。
 そして、
 しあわせになりなさい、譲……!
 
「帰りましょうか」
「……ええ」
 雪彦の背中を追うように、譲は一歩を踏み出した。
 
 大丈夫。
 きっと彼らが守ってくれるから。
 
「貴方は、生きるのよ……!」

 今はまだ届かない言葉を、譲は真っ赤なそらへと投げ上げた――。

Little trick, Much treat.

「Trick or Treat!」
 突然眼前に出現したシーツをかぶった小柄な人影。護はその両腕に本を抱えたまま目をぱちくりとさせた。
「……彪さん? どうかなさったんですか? 寒気?」
「違う違う、これお化けなんだってば!」
 相変わらずの澄んだ声が力強く主張する。
「今日はハロウィンでしょ。お菓子をくれないひとには悪戯してもいいんだって!」
「へえ、そういう行事があるんですか」
 護はくすりと笑い、彪のかぶっているシーツをひらりとめくりあげた。
「では、僕にもお菓子を下さい。でないと」
「……でないと?」
 彪のつぶらな瞳が瞬きを繰り返す。
「悪戯しますよ?」
「い……悪戯って?」
「宿題を10倍にするとか、紅茶に砂糖の代わりに塩を入れるとか」
「ひどいひどいひどいっ」
「冗談です」
 青い目で睨みつけられ、護は早々に撤回した。
「でも面白いですね。その……ハロウィン、ですか?」
「でしょう? 護、僕にお菓子くれる?」
「お菓子……ですか。部屋に帰れば何かありますけど……」
 あいにくと今は廊下。ポケットを探ってもキャンディひとつ入っていなかった。
「すみません、今は持ち合わせが……」
「じゃあ悪戯に決定ー!!」
「仕方ありません。でも、お手柔らかにお願いしますよ」性欲剤
 苦笑する護を後目に、廊下を走っていく彪。その背中に翻るシーツが、まるで白く大きな羽のように見えた。


 そして、十数分後。
「あれ?」
 部屋に戻った護は首を傾げた。ソファに置いていたはずのシャツが一枚、なくなっている。
「どこかに仕舞ったのかな……」
 つぶやきながらもお茶を飲もうとマグカップを探すが、それも見当たらない。いつもはサイドテーブルの上に置いてあるのだが……。
 護はあたりを見回した。他にもなくなっているものがあるかもしれない――。ざっと確認した結果、ネクタイが一本とタイピンがひとつ、消え失せてしまっていた。
「おかしいですね……」
 首をひねりながら寝室に通じるドアを開けた護は、小さく声をあげた。
「あ」
 彼のベッドの上。
 愛らしいが巨大なテディベアが、彼のシャツを着て、ネクタイを締め、タイピンを止めていた。足の間に挟むようにして固定されたマグカップからは甘いにおい――ホットチョコレートだろう。まだ、湯気が立っている。
 護は小さく笑った。彪の悪戯とやらは、なんと大人しく可愛らしいのだろう。彪は悪戯するといいつつも、結局彼にホットチョコレートを振舞ってくれたわけだ。
 ふだん必要以上に「いい子」であろうとする彪に、所詮大それたことなどできるはずもない。それでも、彪はせいいっぱいの悪戯を楽しんだのだろう。これもこころを許す護が相手だからこそ、できたことだ。
 護は背を屈めてテディベアを覗きこみ、マグカップの下のメモに気付いた。彪の筆跡で走り書きがされている。

 ――今度はお菓子を忘れちゃだめだよ!

「はいはい、ただいま」
 ホットチョコレートのお返しを、彼に。テディベアの赤みがかった茶色の瞳に映る彼は、穏やかに笑っていた。

閉ざされた瞳


 彼は、今日も目覚めない。――いや、今日こそは目覚めるかもしれない。
 僕は職務から解き放たれたお陰で有り余るこの時間を、眠り続ける彼の側で過ごすことに使っている。
 かたく閉ざされた瞳が、いつか開くことを願いながら――。
 
 
 彼は、最初から僕の特別だった。
 彼はきっとそんなこととは知らなかっただろうし、そんなつもりもなかったに違いない。けれど、彼は最初から僕を名前で呼んだ。「彪」という名で――昔母親が呼んだきり、誰も呼ばなくなってしまった名で、呼んでくれた。殿下、とは呼ばなかった。
 今ならわかる。僕が王子であることに彼が頓着しなかったのは、彼が僕という人間自身には何の興味もなかったからだ。「標的」の息子、あるいは「標的」を殺害するまでの間仕えるべき相手――その程度の認識に過ぎなかったのだと思う。
 彼は、別に僕をかわいがったつもりもないのだろう。それなのに――いや、だからこそ、彼は僕の特別だったのだ。僕は、彼の特別ではなかったから。だからこそ、逆説的に、彼は僕の特別となった。


 彼がいなくなってからの五年間、僕はいろいろと考えた。考え続けていた。何故、彼はわざわざ一年も前に王宮に送り込まれたのか。何故、たくさんの人間に顔を知られる危険性のある、王子の家庭教師などという役割を演じていたのか。彼のような暗殺者――職業的な殺人者にとって、一番望ましくないといっていい状況に、何故甘んじて身を置いたのか。
 正確なところは分からない。彼は何も語らないし――彼の姉である彼女も、やはり語ろうとはしない。隠しているのではなく、彼女はそこまでの事情を知らないのだ。きっと、一番事情をよく知っている彼らの叔父――彼を殺そうとしたあの男も、何も語らない。当たり前だ、あの男は彼女が殺したのだから。
 けれど、何となく想像することならできる。あの場で交わされた会話を元にして、類推する。――彼は、自らの母親を殺さなければならなかった。つまり、あの男は姉を彼に殺された。男は彼を恨み、そうして復讐を誓った。自らの手で、彼を殺そうと。だが、暗殺者は殺せない。殺せるときが来るとしたら、彼が暗殺者ではなくなってしまったとき。誰かを殺せなくなったとき、暗殺者は殺されるべき罪人となる。あの男はその時を待った。そのために――きっと、彼をここに放った。
 あの男の思惑だけで物事が進んだとは思わない。けれど、あの男はずっとその機会を狙っていたのだ。彼が人間に戻る瞬間を。復讐を成し遂げる、その日を。
 あの男が彼と僕と引き合わせることになったのは、偶然だったのだろうか。それとも――わからない。

 彼の幼いころの境遇は、彼女に教えてもらった。とはいえ、彼女自身も彼とはほとんど会ったことがないというから、ほとんどが曖昧な情報に過ぎないものだった。女性用媚薬
 彼の父親は、先代の暗殺者。母親は、その被害者の娘だった。彼は生まれてすぐに両親と引き離され、次代の暗殺者となるべく訓練を受けた。暗殺者は心を持ってはならない。暗殺者は誰かを愛してはならない。憎んではならない。ただ淡々と、依頼をこなし標的を殺し続けるのみ。
 やがて、彼の父親が殺される日が来て――彼が父親の後を継ぐことになった。彼は暗殺者となるために、母親を殺した。自分に繋がる人を、彼の特別になり得る存在を、遺しておくわけにはいかないから。それなら、彼の双子の姉である彼女が見逃されたのは、どういう理由だったのか……それはわからない。生まれてすぐに離れて育ったから、という理由で見逃されたのか。それとも、彼女も何らかの駒として使われる予定だったのか。それとも、彼のスペアとして残されたのか……わからない。
 とにかく、彼はそうして暗殺者になった。家族もなく、友人もなく、ただ淡々と生きた。生きながら、殺した。彼にとって、生きることは殺すことと同義だったのだ。殺したくなければ、死ぬしかなかった。けれど、彼は死ななかった。――そのことをどんなに僕が嬉しいと思っているか、彼はきっと知らないだろう。数々の死を生み出して彼が生きてきた、その結果僕と彼は出会った。
 僕は罪深い人間だ。彼の殺した人々のことは痛ましいと思うし、遺された人々のことを思うと、胸のつぶれるような思いがする。それでも、代わりに彼が死ぬべきだったとは、決して思えないのだ。
 たとえば、亡き父――父や祖父の時代には、戦争が行われていた。王の命令のもと、たくさんの兵士が戦地に向かい、敵を殺し、そして死んだ。兵士だけではない、民間人もだ。彼が殺したよりももっと多くの人々が、戦争に巻き込まれて死んだ。その死の罪は、誰にあるのだろうか。歴代の王にあるでのはないのか。それなら、彼は――暗殺者の殺人は、本当に暗殺者の罪なのだろうか。彼らに依頼した、殺意ある人々のものではないのか。暗殺者は、いわば銃であり、剣なのだ。そこに意思はない。彼らの意思は、「殺されて」――否、「眠らされて」いるのだから。彼らの意思が「目覚める」時、それはすなわち彼らが「死ぬ」時なのである。
 ――僕はただ、彼をかばいたいだけなのかもしれない。そう言われても、否定はできない。それでもいい。
 世界中が彼の罪を糾弾したとしても、それでも僕は彼の味方でいたい。彼自身にはそのつもりはなかったとしても、あの一年間、彼は紛れもなく僕の父であり、兄であり、つまりは僕の家族だった。僕に家族を教えてくれたのは、家族を知らないはずの彼だったのだ。
「ありがとう」
 僕はつぶやく。
「僕を殺さないでくれて、ありがとう」
 あの時――父を殺したとき、彼は僕の言うままに僕を見逃してくれた。彼女の脅しもあったけれど、本当にあの時、彼は僕を殺せなかったのだろうか?
「約束を守ってくれて、ありがとう」
 五年間、彼は僕を待っていてくれた。一体、どんな気持ちで過ごしていたのだろう。毎年誕生日に届けられた花を、彼は何を思って用意してくれていたのだろう。
 そしてあの日、彼はどんな気持ちでここに来てくれたのだろう。
「――生きていてくれて、ありがとう」
 失われていく体温と焦点を失う彼の瞳。青ざめた唇で、それでも貴方は僕を安心させようするかのように微笑んで。貴方の身体とそこから溢れる血を抱えて泣きじゃくる僕を見つめて、貴方はつぶやいた――死にたくない、と。
 その一言こそが、貴方の本当の言葉だったんだと。生まれ落ちてから今まで、ずっと「他人を殺し続けること」と「自分が死に続けること」を強制されてきた貴方の、心からの一言。
 だから、僕は貴方を死なせないと誓った。あの言葉がなければ――諦めていたのかもしれない、と思う。
 彼の容態は落ち着いている。医師は、いつ目が覚めてもおかしくないといっていた。――ただし、目が覚めなくとも不思議はないと。意識なんてものはそんなにあやふやなものなのだと、僕は初めて知った。
 僕にできることは、ただ信じて待つこと。彼が、僕の起こした革命を待っていてくれたように。


 貴方がいつか目覚めたら、貴方は何と言うのだろう。
 僕は貴方に何が言えるだろう。
 貴方に見せたいものがたくさんある。この国の美しいものを、貴方には知って欲しい。貴方に辛い運命を課したこの国を、貴方がいつか愛せるように。
 それに、会わせたい人もいる。貴方のお姉さんだけではなくて、貴方の過去を知ってなお貴方の生命を祈ってくれた、僕の同志たち。貴方がもう、孤独に生きなくとも済むように。
 何よりも、僕は伝えたい――「おかえりなさい」、と。


 ――気のせいだろうか、彼がほんの少し、微笑っているような気がするんだ。
 閉ざされた瞳の向こうで見る夢が、彼に優しいものでありますように。そうしてちゃんと、その夢が現実に続いていますように。中絶薬
 僕はまた、夜明けに祈る。

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