2014年12月9日星期二

銀の影さす

 アイクは大樹館を後にし、待たせていた馬車に乗る。
 すぐさま御者が馬車を進めた。

「商会長、首尾はどうでしたか?」
「残念な事に、交渉は決裂だよ」美人豹

 言葉とは裏腹に、アイクはにやにやと笑う。
 御者も似た笑みを浮かべて肩を竦めた。

「悪い人ですね。元々、子爵様の話を聞く気なんてなかったでしょう?」
「当然だ。どんな利益を提示されようと、やめられるはずがない」

 御者の問いに答え、アイクは腕を組んだ。
 カラカラと馬車の車輪が回る音が聞こえてくる。

「すでに引き返せる地点を過ぎている。ここで引けば、何人も解雇せねばならん」

 伯爵領の乞食共のせいでな、とアイクは吐き捨てた。
 当初の計画とは裏腹に、伯爵領の住民が転売目的で買い付けていくため、布の在庫を増やす必要があった。
 子爵領の住民がいつ大量に買い始めるか分からない状況で、在庫を切らす訳にはいかない。
 安値競争の相手であるロジーナ商会より布を多く確保しておき、子爵領民が布を買い始めた時、ロジーナ商会の客を一人でも多く奪うためだ。
 しかし、伯爵領の住民が布を買っていくため、ロジーナ商会の在庫の見当がつかなくなっていた。
 仕方なく、アイク商会は布の備蓄量を増やすが、ロジーナ商会も同様に大量に買い付けた。
 考える事は一緒、という所だろう。
 しかも、ロジーナ商会が買い付けた物は布だけではなかった。
 羊糸も買い付けていたのだ。
 布の製造から行う事で、僅かでも安く仕上げる腹積もりだったのだろう。
 アイク商会は出遅れたが、羊糸を輸入して布の製造を開始した。
 輸入した布には品質で劣ったが、それでも売り物になった。
 しかし、人が増えたため、人件費も増えた。
 人を雇えば、売上に関わらず決まった金額の給料を支払わねばならず、赤字に弱くなる。
 アイクは、安値競争に勝ったと思った。
 同じ事をしている限り、始めから多くの資金を持っている自分達が有利なのだ。
 もうすぐ、ロジーナ商会の商圏を奪えるこの状況で和解など、馬鹿馬鹿しくて笑えてくる。
 ロジーナ商会の資金も底を突きかけていると、先程のやり取りで見当が付いた。
 後は追撃に次ぐ追撃あるのみ。

「例の話を進めねばならん。早く帰るぞ」

 この一撃で相手は諦めるだろう、とアイクはほくそ笑んだ。


 同じ頃、ロジーナは馬の上で神経質に身体を揺すっていた。
 乗せている馬は慣れているようで、落ち着きのない乗り手を気にした様子がない。

「交渉は決裂、交渉は決裂、交渉は決裂……ッ」

 呟きながら親指を口元に持っていった時、ボロボロの爪が目に入った。
 癖で噛もうとしていたが、諦める。
 我慢したせいで余計に行き場のない不安で胸が一杯になり、振り払うように頭を振った。

「大丈夫、手は打ってある。早く進めれば、間に合う。まだ、間に合う」

 ぶつぶつと独り言を零すロジーナに、すれ違う人が怪訝な顔をした。
 キッと睨みつけると慌てたように去っていった。絶對高潮

「──ロジーナ商会長ですね?」

 聞き慣れない声で名を呼ばれ、ロジーナが怪訝な顔を向ける。
 そこには茶褐色の外套を羽織った男が一人、静かに佇んでいた。
 男は重たそうな眼鏡を人差し指で押し上げ、背中を向ける。
 ついて来い、と言いたいらしい。
 ロジーナはやや遅れて馬を歩かせる。
 しばらくして、どうやらクロスポートを出るつもりらしいと気付いたロジーナは、町を振り返りつつ口を開く。

「護衛を町に置いてきてるから──」
「時間の無駄です。後にして下さい」

 反論を受け付けるつもりはないらしく、眼鏡の男は歩調を緩めない。
 ロジーナは諦めて従った。
 クロスポートの外に出て、森に入る。
 少し開けた場所、倒木に銀髪の娘が腰掛けていた。

「ご機嫌よう」

 感情を含まない空虚な笑顔を浮かべ、銀髪の娘はロジーナを出迎える。
 ロジーナの顔を一目見ると、銀髪の娘は笑顔のまま口に片手を当て、首を傾げた。

「──あら、怖い。荒れてますのね?」

 鈴を転がすような明るい声で、銀髪の娘は面白がった。
 ロジーナは悔しさに顔を背ける。

「交渉は決裂よ」

 交渉において、ソラからいくつかの和解案が提示された。
 だが、アイク商会は条件を飲むつもりが最初からなかった。
 アイクのふてぶてしい顔を思い浮かべて、ロジーナは苛つく。

「でも、演技はしてきた。こちらが資金不足に陥っていると、アイク商会は勘違いしたはず」

 ロジーナが伝えると、銀髪の娘は笑顔のまま「よくできました」と頷いた。
 投げた小枝を犬に取りに行かせて遊ぶような、誘導する事を楽しんでいる動作だ。
 しかし、顔を背けていたロジーナは気付かなかった。

「アイク商会が勘違いしているのなら、必ず勝負を仕掛けてきます。付き合ってあげましょうね」

 銀髪の娘の言葉を聞き、ロジーナは不安そうに横目で睨む。

「本当に、大丈夫なのよね? 資金的な余裕がないのは事実なんだから、一刻も早く──」
「焦っちゃ駄目よ。アイク商会が攻勢を掛けてきた所を叩く計画なのだから、今は獲物の振りをしないと」

 銀髪の娘は両膝に頬杖を突き、諭すように言い含める。
 それでもロジーナの不安が消えていない事を察したのか、銀髪の娘は残念そうな声を出す。

「仕方がありませんね。近い内に会談の席を設けましょう。もちろん、秘密の、ですよ?」

 銀髪の娘の提案にロジーナはようやく人心地ついた。

二人の商会長

 アイク商会長は厳つい顔をした男だった。
 髪や整えられた髭は赤茶色で、やや日に焼けた肌も相まってお洒落な山賊のように見える。Xing霸 性霸2000
 続いて入ってきたロジーナ商会長は眼鏡を掛けた若い女だった。
 神経質そうな眼差しで部屋を素早く見回し、警戒している。
 ソラは二人に席を勧めた。
 ソラを合わせて三角形を作るように座り、先に口を開いた方が負けだとばかりに睨み合っている。
 ──かなり根が深そうだな。
 交渉が難航しそうな気配を感じ取り、ソラは内心でため息を吐いた。
 リュリュに目配せして、飲み物と甘い物を用意させる。
 険悪な空気が殺伐と呼ばれる域に辿り着く前に、ソラは口を開いた。

「アイク商会長並びにロジーナ商会長……双方とも個人名がそのまま商会の名前になっているのか。名前で呼ばせてもらうが、構わないな?」

 ソラの申し出にアイクが頷いた。

「もちろんですとも、子爵様に名前を覚えて頂けるこの機会を逃すはずはありません」
「そうか。では、遠慮なく、アイクと呼ばせてもらおう」

 ソラに名前を呼ばれると、アイクは厳つい顔に形ばかりの笑みを浮かべた。
 少なくとも、友好的な空気を作る手伝いはするつもりらしい。
 しかし、アイクに反して、ロジーナは眼鏡の奥の瞳に警戒心を露わにして、ソラを見つめるだけだった。

「アイク商会長と気安い仲のようですね」

 より力のあるアイク商会がソラを買収しているのではないか。
 そんな考えが透けて見えるロジーナの言葉に、アイクは余裕の表情だった。
 交渉の仲介役であるソラの機嫌を損ねれば、不利な条件を提示される可能性がある。
 子爵領主でもあり、一種の強制力すら持つソラに向ける態度としては不適当だ。
 ──妙だな。
 安値競争が続けば、規模が小さいロジーナ商会の方が不利になる。
 安値競争の早期終結を願うべきはロジーナ商会の方であり、その点ではソラと利害が一致していると考えていた。
 ──何か奥の手があるのか……?
 利害関係を考え直す事も視野に入れつつ、ソラはロジーナに笑顔を向ける。

「俺は君達の利益を守りつつ、仲を取り持つ役割を担っている。そのために、まずは俺自身が君達それぞれと仲良くならないといけないだろう?」
「……ロジーナで結構です」

 器を測るようにソラを見つめていたロジーナは、ぼそりと呟いて眼鏡のガラスを拭いた。
 眼鏡を掛け直したロジーナは、アイクに視線を固定した。

「アイク商会長、こうして顔をつき合わせるのは初めてですね」
「アイクと呼んでくださいよ、ロジーナさん」

 アイクが口端を上げ、軽い態度で返す。
 ロジーナは嫌悪の眼差しでアイクを睨んだ。

「冗談。後、気安く呼ばないで。虫酸が走る」
「ははっ、これは手厳しい。金が無いと余裕がなくなる典型例だ。そうはなりたくないもんです、ロジーナさん」
「ッ……誰のせいだと思って!?」

 机を叩いて立ち上がり掛けたロジーナだったが、アイクがソラを見てわざとらしく肩を上げ下げする姿を見て、口を閉ざした。
 失言に気付いたのだ。
 アイクが顎を上げ、ロジーナを馬鹿にするように見た。

「もう化けの皮が剥がれるとは、所詮は安物。金がないなら、無駄に虚勢を張らんようにしたらどうです?」WENICKMANペニス増大

 アイクが丁寧な言葉を使いながら、ロジーナを嘲弄する。
 ロジーナは歯を食いしばって、アイクを睨みつけていた。
 一連のやり取りから、ソラはアイクの能力評価に加点する。
 アイクはロジーナ商会の資金繰りが厳しい事を浮き彫りにしようと、挑発したのだ。
 ソラは同時に、ロジーナの能力に疑問符を付ける。
 ──いくら若いとはいえ、あの程度の挑発に乗るか?
 仮にも商会を束ねる地位にいるのだ。
 ソラは手元にある資料の内容を思い出す。
 ロジーナ商会は元は個人店舗だったものが、いくつかの店舗を取り込んで肥大化した中規模商会だ。
 押し上げた人物は先代の商会長だが、特別に目を掛けていた部下であるロジーナに後を託してすぐに隠居した。
 残された部下達が反対した形跡もなく、能力的には認められているはずだ。
 ソラは細めた目でロジーナを見る。
 ──演技、か。
 ソラは一つ咳払いして、アイクとロジーナの睨み合いに終止符を打つ。

「言いたい事は色々あるだろうが、我が家の使用人が盆を持って困っていてな。休戦してくれ」

 ソラの言葉に、二人の商会長が部屋の扉を見る。
 開かれた扉の横で、湯気の立つティーポットと果物の菓子を載せた盆を持ったコルが視線をさまよわせていた。
 アイクとロジーナが憮然として椅子の背にもたれ、互いを睨み据える。
 コルが両者の前にハーブティーと菓子を置き、そそくさと退散した。

「頼りなく見えるが、腕は確かだ。食べてみると良い」

 二人がまた喧嘩を始める前に、ソラは率先して菓子を口に運び、二人に勧める。
 二人が同時に菓子を口に含んだタイミングを見計らい、ソラは話し掛ける。

「アイクも、ロジーナも、トライネン伯爵領から布を輸入しているらしいな」

 菓子が口の中にあるため肯定も否定も出来ない二人の様子を気にせず、ソラは続ける。

「ベルツェ侯爵領からの布を輸入している商会が、我が領の北に幾つかある」

 トライネン伯爵領産の布は羊毛だが、ベルツェ侯爵領産の布は綿花や麻から作られている。
 動物性か植物性かの違いはあれど、布を輸入して販売している商会だ。procomil spray

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