ヒュン、と風切る音とともに、刃のきらめきが宙に踊ったかと思うと、風に運ばれてきた木の葉が細切れにされて跡形もなく散っていく。
普通であれば、見事というほかはない光景なのだが、ひどく不満そうに眉を顰めて、マゴットはため息をついた。levitra
彼女にとってその出来は、本来の力の十分の一どころか百分の一程度にしか思えなかったからだ。
大きく膨らんだ腹に手をやり、その愛おしさにいくぶん表情を和らげたものの、人生を武で切り拓いてきたマゴットにとって自らの無力さは歯がゆくてしかたのないものであった。
「銀光ともあろうものが、戦を前にしてこの体たらくとはねえ……」
コルネリアスにも、いや、むしろコルネリアスだからこそハウレリアとの再戦が近いという情報はたちまちのうちに広まっていた。
同時に、ハウレリアの第一目標はアントリムである、ということも。
もしもマゴットの体調が万全であれば、彼女は今すぐにもアントリムに向かったであろう。
愛する息子が置かれた状況の深刻さがわからないほど、マゴットは戦略にうとくはないのである。
かつてコルネリアスが陥落の一歩手前までいったときよりも、現在バルドが置かれた状況は過酷であるとマゴットは確信していた。
苦しみながら育てあげてきたたった一人の息子である。
生まれたばかりのバルドを、その手に抱いたときの心を衝き動かす感動を、マゴットは片時も忘れたことはない。
本能が確かに感じる血のつながり。
戦いのなかで死ぬだけだと思っていた自分が、人の親になったのだという実感。
そして愛するイグニスとの間に子供を為すことが出来たという安堵。
そんな感情がないまぜになって、マゴットは声もなく哭いた。
――――自分はこの世に生まれるべきではなかった、と考えていたころもあった。
だから持って生まれた名を捨て、マゴットを名乗った。
自分が生んだ子供を不幸にしてしまうのではないか、という不安に眠れぬ夜を過ごしたこともある。
イグニスの過剰なまでの愛情表現がなければ、マゴットはこの懊悩から解き放たれることはなかったであろう。
まさに目に入れても痛くないほど可愛いバルドであったが、五歳になったある日、突然謎の高熱に倒れ生死の境を彷徨った。
どうして病に倒れたのが自分ではないのか、理不尽な怒りを覚えつつ、マゴットは寝食を忘れてバルドの看病にあたった。
奇跡的にもバルドは回復したものの、今度は三重人格となってしまった我が子にマゴットは内心で頭を抱えた。
しかし禍福はあざなえる縄のごとしとはよく言ったものである。
武将の前世を受け継いだバルドは、マゴットが驚愕するほどの武人としての素質を開花させた。中絶薬
命よりも大事な可愛い息子が、同時に鍛え甲斐のある有望な弟子となったのだ。
それからの親子の肉体言語による修行と言う名の会話は、マゴットにとって何にも勝る悦楽となった。
育児に没頭しすぎて、バルドに続く第二子の誕生がひどく遅れたことからも、どれだけ彼女がバルドに夢中であったかがうかがい知れる。
成長した愛息は、セイルーンとセリーナという嫁を迎え、母の手を離れた寂しさとともに、孫の誕生という、親ならば誰もが夢見る至福の悦楽をマゴットに期待させた。
自分の手で鍛え上げるという楽しさから、少し離れた場所で、我が子の成長を見守るという楽しさを覚え始めた矢先でもあった。
「バルド……」
息子の強さを信じていないわけではない。
あれはマゴットが知るかぎり、戦場でもっとも敵に回したくない有能な指揮官だ。
問題はバルド自身の経験の少なさと、その手足となるべき兵の質と数である。
幕僚となるブルックスやネルソンはいかにも経験が足らず、ジルコを中心とした傭兵あがりは経験は豊富だが忠誠心に疑問が残る。特に圧倒的な戦力差で侵攻してくるハウレリア軍を前にして、彼らが逃亡しない保証はどこにもないのであった。
これまで気の向くままに殺しまくってきた兵士、暗殺者、傭兵……彼らの無惨な死に様が、今になってマゴットの脳裏にバルドの死を連想させた。
自分が本来の調子でさえあれば、アントリムを勝利させることは無理でも、バルドを無事脱出させることぐらいはわけはないのだが……。
「ふがいない……息子一生の危機に母として何もしてやれんのか」
闇雲に剣を振りまわし、肩で息をつくマゴットを背後からたくましいふたつの腕が抱きしめた。
「……気は済んだかい?」
「済むわけがないっ! いいのかイグニス? あの子が死ぬかもしれないんだぞ?」
一瞬、マゴットがバルドを殺す確率のほうが割と高かったんじゃ、とイグニスは思ったが、賢明にも口には出さず愛する妻を抱きしめるに留めた。
「夜風はお腹の子に悪い……今は私に任せておけ」
口惜しそうに唇を噛みしめる妻に、まるで舌先で舐めあげるようなキスをしてイグニスは微笑んだ。
もちろんイグニスもバルドを無策のまま見捨てることなど考えてもいない。
しかしアントリムの後、戦場になることが確実なコルネリアスの守備に手を抜くこともまたできなかった。
いくら財政的に好転してきたとはいえ、戦争の準備には莫大な資金と人手が必要となる。
そこでイグニスが頼ったのは親友であるマティスであった。
マティスのブラットフォード子爵領はアントリムからほど近く、援軍を送りやすい状況にある。
またかつての戦友として、マティスの優れた戦術手腕をイグニスは深く信用していた。
ましてマティスにとってバルドは娘テレサをサンファン王国王太子妃に押し上げてくれた大恩人である。
むしろ嬉々として援軍の整備を始めていた。RU486
「今こそバルド殿に積年の恩を返すとき!」
そう叫ぶマティスは十年ほど若返ったように見えたという。
「マティスは領内全軍をあげて支援することを約束してくれている。マティスの弟のギーズ男爵も協力してくれるようだ。ハウレリアにしてもアントリムだけに全軍を差し向けられる余裕はあるまいよ」
ハウレリアとしては、所詮アントリム侵攻は前哨戦であり、勝って当たり前の戦いである。
逆侵攻の拠点となりうるアントリムを制して、コルネリアス攻略に本腰を入れるのがハウレリアの基本方針である以上、それほど多くの軍勢をアントリムに向かわせる理由がなかった。
この時点でイグニスはアントリムの守備態勢が、ハウレリアで大いに警戒されていることを知らない。
マティスと、その近郊の諸侯で数千の援軍を送ることができれば、あとはバルドの采配で十分に勝算はあるものとイグニスは考えていたのである。
「甘い――――甘いよイグニス」
力なくマゴットは頭を振った。
初めて見る妻の弱々しい少女のような表情に、イグニスは困惑を隠せない。
いつだって自力で道を切り開いてきたマゴットである。
性格は可愛らしく乙女なところはあるが、根っこのところは間違いなく一個の美丈夫であった。
そのマゴットが、身も世もなく無力な少女のように泣いていた。
「私にはわかる……この戦の中心は間違いなくアントリムになる。下手をするとコルネリアスには様子見にすらこないよ。あれほど感じられた兵気が全く感じられないんだ」
長年傭兵として戦争の最前線にいたマゴットには、理由はわからないが、不可視の兵気を察知する能力があった。
戦役の当時、コルネリアスはまるで南方のサイクロンのように凶暴な兵気が取り巻いていた。
しかし今のコルネリアスは晩秋の小春日和のように穏やかな空気に満ちている。
対照的にアントリムを巨大な竜巻のように、悪意ある兵気が渦巻いているのがマゴットにはわかった。
(バルド……無力な母を許してくれ……)
下腹部に感じる確かな生命の鼓動も、マゴットにとって愛しいものであることに変わりはない。
断腸の思いとともにマゴットはイグニスの胸にすがりついて慟哭した。
「いい加減にしろ!」
これほどバルドが声を荒げるのは珍しい。
しかしその声にはどこか張りがなく、焦りのようなものが感じられた。
「何と言われようと、うちらはこのアントリムから離れへん! こればっかりはバルドの言うことでもきけへんで!」巨人倍増枸杞カプセル
「こればかりはセリーナに同意します」
徹底抗戦の構えを崩さないセリーナとセイルーンにバルドはいらだたしげにテーブルを叩いた。
「もうすぐこのアントリムは戦場になる! だから一旦王都に避難するように言ってるんだ! これは命令だ!」
アントリム防衛の手は打っているバルドではあるが、それでも非戦闘員に不測の事態が生じることまでは防ぐことは不可能である。
二人をアントリムから避難させたいというのは、バルドなりの二人に対する愛情の発露でもあるのであった。
「なんと言われようときけんものはきけへん。うちらだけ安全な場所に逃げるとかありえへんわ」
「無理やり言うことをきかせようとしても無理ですよ。女たちの連携を舐めてもらっては困ります」
暗に協力者を匂わせるセイルーンの言葉に、バルドは頭をかきむしって顔を歪めた。
開戦を控えたアントリムでは猫の手も借りたいほどの人手不足である。
仮に二人を避難させるとしても、まさか供も付けずに放りだすわけにもいかず、二人が抵抗するならば少なくない兵を同行させなくてはならない。
しかも供の女性が二人に協力するとなると、安全に二人を隔離することは事実上不可能であった。
「お諦めください、ご当主様。お二人がいやだと言っている以上、時間の無駄です」
親の仇でも見るように睨みつけられてもアガサは飄々と受け流した。
セイルーンやセリーナと違い、アガサはバルドの秘書長としてアントリムに残ることがすでに決定している。
それはアガサの手腕がアントリムの行政能力の維持に必要なこともあるが、彼女のためにランドルフ家の援軍を引き出すための餌でもあるのであった。
アガサをランドルフ家に帰してしまっては、援軍をもらう大義名分が成り立たないからだ。
自分でも我がままを言っていると、セイルーンもセリーナも自覚していた。
二人の脳裏に思いだされるのは、かつてコルネリアスでトーラスに捕らえかかったときの情景である。
あの日自分たちの存在が、バルドの足でまといになってしまったのを忘れたことはない。
それでもなお二人は、バルドのもとを離れることを心のどこかで拒否していた。
女の本能と言い換えてもいい。
バルドから離れてはいけない理由がある――――。
説明のつかぬ確信であるだけに、二人はそれをバルドに告げるわけにはいかなかった。
「式は挙げていなくとも心は妻や。夫の留守は守らせてや」
「……です」
往々にして女たちの連帯に男は無力だ。
三人の妻と、その配下の部下たちの連帯を前にして、ハウレリアも恐れるバルドに為す術はなかった。三便宝
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