ルッツに家族への手紙を渡すと、「どうするかな」と言われた。
「何が?」
「いや、オレ、去年の夏からもうプランタン商会に住んでるし、トゥーリだってギルベルタ商会に住んでるからさ」精力剤
「え? あ、そっか。トゥーリもダプラだから……」
トゥーリが10歳になったばかりの頃は、プランタン商会とギルベルタ商会が分かれたばかりで、店を引っ越したり、ベンノやマルクの引っ越しがあったりして店の中がバタバタしていたので、すぐに引っ越しにはならなかったそうだ。
ベンノとマルクがプランタン商会の二階に住まいを移し、三階に住んでいたコリンナとオットーが二階に住居を移してから、トゥーリのための部屋が準備されたらしい。
「土の日には二人とも帰るから、その時にルッツが家まで直接持って行った方が良いだろう。手紙はお前が保管しておけ」
「わかりました、旦那様」
家族への手紙を渡してもらう算段をつけ、冬の間は貴族院へ行くので会えないことを伝えて、お母様とギーベ・ハルデンツェルと話をしておくようにと言われて、プランタン商会との話し合いは終わった。
「ギル、屈んで。とっても頑張ってくれたから、撫でてあげる」
さぁ、と手を伸ばすと、ギルが驚いたように目を見張った。
「ローゼマイン様、私はもうそういう年ではないのですが……」
「えぇ!? あ、あぁ、そうか。そうだよね」
ものすごく困った顔でギルに断られて、わたしは伸ばした手を引っ込める。見た目は変わっても中身はあまり変わっていないと思っていたわたしは、ギルが成人前の14歳で思春期真っ盛りだったことを思い出した。皆の前で頭を撫でられて喜ぶような年ではない。
……頭撫でられて喜ぶギルがいなくなってしまった。なんかちょっと寂しいかも。
当たり前だけど、外見だけではなくて、中身も変わったんだな、と思っていると、ギルがすっとわたしの前に跪いて、首を垂れた。
「あ、あの、撫でられたかったことを今思い出しました。どうぞ」
わたしがちょっと落ち込んだのが伝わったようで、ギルが気を利かせてくれたのがわかる。
せっかくの気遣いを無駄にするのも悪いので、わたしは大きくなったギルの頭に手を伸ばした。こうして撫でて褒めてあげるのは最後か、と思いながら、頭を撫でる。
「ギルは二年間すごく頑張ってくれたよ。起きた時に五冊も本ができてて、すごく嬉しかったの。ありがとう。これからもよろしくね」
「……はい」
そして、すぐに城へと向かう日になった。
わたしはレッサーバスを準備して、専属であるロジーナとエラとフーゴを乗せる。その後は神官長の側仕えがお仕事セットの詰まった木箱を載せていった。神官長もしばらく城に滞在し、わたしの短期集中講座を監督するのだそうだ。
「秋の成人式と冬の洗礼式には戻る。準備を整えておくように」
「かしこまりました」
神官長が側仕えに頼んでいるのを見て、わたしも自分の側仕えに留守を任せる。
「二年留守にしても問題なかったのですもの。冬の間、留守にしても大丈夫だとわたくしは信じております。後をよろしく頼みますね」
「お早いお帰りをお待ちしております」
レッサーバスに乗り込み、前方を駆けるダームエルの騎獣を追いかけて、空へと駆け出した。後方を神官長に守られる形で、わたしは城へと向かう。
城に到着すると、ノルベルトが出迎えてくれて、アンゲリカとコルネリウス兄様が跪いた状態で待っていてくれた。
「おかえりなさいませ、ローゼマイン様」
「ただいま戻りました、ノルベルト」
「ノルベルト、この荷物を私の執務室まで運ばせろ」
「かしこまりました、フェルディナンド様」
ノルベルトがどこからか取り出したベルを振ると、下働きがわらわらと出てきて、レッサーバスの中の木箱を運び出していく。
そちらの動きには目もくれず、神官長はわたしを呼んだ。媚薬
「ローゼマイン、読むべき資料や本を渡すので着替えを終えたら、私の執務室に来るように」
「かしこまりました。急いで着替えます」
「いや、急ぐ必要はない。貴族院に向かう10歳に相応しい優美さを身に付けるつもりで行動しなさい」
……わけがわかりません。10歳に相応しい優美さって、どんなの?
わからないことは流しておいて、わたしはアンゲリカとコルネリウス兄様と対面した。
コルネリウス兄様は14歳になっていて、少年らしさが抜け、大人に近付いているのが一目でわかる。筋肉の付き方はそれほどガッチリしていないように見えるけれど、わたしが覚えているランプレヒト兄様くらいに背が伸びていた。お母様に似ているように見えた顔立ちは男らしさが増して、ちょっとお父様に似てきたような気がする。
「元気なお姿を拝見できて嬉しく存じます、ローゼマイン様」
「落とした魔石をコルネリウスが拾ってくれたでしょう? きちんとお礼を言いたかったのです」
「いいえ、主を守りきれず、二年も眠りにつかせることになった不甲斐ない騎士に礼など必要ございません」
「あら? コルネリウスはわたくしが助けたかったシャルロッテを助けてくれたわ。わたくしにとってはつい先日の出来事ですもの。お礼くらい言わせてちょうだい。ありがとう存じます、コルネリウス」
「もったいないお言葉です」
顔を上げたコルネリウス兄様と目が合って、小さく笑みを交わす。
「ローゼマイン様のお戻りを心待ちにしておりました」
そう言ったアンゲリカはこの冬の終わりには成人式を迎える15歳だ。ポニーテールにしている水色の髪が顔を上げる動きに合わせて、さらさらと流れる。深い海のような色合いの青い目がわたしを見た。美少女ぶりに磨きがかかっている気がする。おじい様に鍛えられていたとダームエルから聞いたけれど、あまりそのようには見えない。
……でも、外見詐欺は前からだね。
「もう二年もたっていると聞いて、わたくし、とても心配だったのですけれど、きちんと進級できていますか?」
「はい、ご安心くださいませ。お師匠様とダームエルとコルネリウスから教えを受け、シュティンルークと共に学んでいますから、辛うじて落第はしておりません」
「……辛うじて……。アンゲリカなりに頑張っているようで、何よりです」
二人ともかなり大人に近付いていた。そんな二人とダームエルを連れて、わたしは自室へと向かおうと足を踏み出す。
「ローゼマイン、騎獣を使いなさい」
「フェルディナンド様? わたくし、ここから自室までならば歩けますけれど?」
「君の体はまだまだ本調子とは言えない。魔術具で動けるようにしてあるだけで、本来は起き上がるのも難しい状態だ。大して歩かない神殿内ならばともかく、城は広大だ。騎獣を使うように」
「わかりました」
わたしは一人乗りの騎獣を出して乗り込み、自室へと向かった。その途中、襲撃があった回廊の手前で一瞬止まる。
「ローゼマイン様、どうかなさいましたか?」
襲われた恐怖が蘇ってくるのは、わたしだけのようだ。護衛騎士の三人は何かあったのか、と目を丸くしただけだった。
「……ごめんなさい。襲撃あったことを思い出してしまって」
「わかります。しばらくはヴィルフリート様やシャルロッテ様も強張った顔で歩いておりましたし、護衛騎士も神経を尖らせておりましたから」
コルネリウス兄様にそう言われて、自分だけじゃないんだ、とわたしはちょっとだけ安心して部屋へと向かった。自室ではリヒャルダとオティーリエが出迎えてくれる。涙目で「お元気な姿を拝見できてうれしいです」と言われ、こちらにもすごく心配をかけていたことを知った。
「ヴィルフリート様とシャルロッテ様はお勉強の時間ですわ。今日はローゼマイン姫様が戻られると聞いて、お二人ともそわそわとしておりましたよ」
「皆様、ローゼマイン様がお戻りになるのを心待ちにしておりましたもの。エルヴィーラ様からは新しいリンシャンや生活雑貨が届いておりますし、ボニファティウス様は楽しみのあまり、日付を昨日と間違えていらして、肩を落としていらっしゃいました」
……今まであまり接触なかったけど、おじい様って結構お茶目さんらしい。
着替えを終えたわたしは、リヒャルダと護衛騎士と共に神官長の執務室へと向かう。その道中にもリヒャルダが貴族院に向かうにあたって決まったことを教えてくれた。
「貴族院へ向かう時に同行する姫様の側仕えはわたくしに決まりました」
「まぁ、リヒャルダが一緒ならば、心強いです」性欲剤
ヴィルフリートのお勉強の管理もしていたし、わたしの筆頭側仕えなので、エーレンフェスト寮の管理全体を取り仕切れるだろう、ということで選ばれたに違いない。
わたしがそう言うと、リヒャルダが「ほほほ」と笑った。
「図書室に籠ったら出て来なくなる姫様を連れ出せる者という人選で、フェルディナンド様によってわたくしが選ばれたのですよ」
「あ、あら、嫌だわ。閉館時間になれば、仕方なく自室に戻りますのに。ほほほほ……」
麗乃時代、閉館の放送に気付かず、本棚の死角になるような隅っこでひたすら本を読んでいて図書館に閉じ込められた経験はあるが、基本的に閉館時間には外に出ることになる。心配しなくても大丈夫なのに、周囲にはそう思われていないようだ。
「失礼します」
神官長の執務室へと入ると、神官長はリヒャルダに向かって、木箱を二つ示した。
「リヒャルダ、これをローゼマインの部屋に運ばせてくれないか。貴族院に向かうまでにローゼマインが目を通しておいた方が良い資料が詰まっている」
「かしこまりました、フェルディナンド坊ちゃま」
「ローゼマイン、君にはすでに一覧表を渡したはずだ。あの表に合わせて、優先度の高い順から読んでいきなさい。私の貴族院時代の書き取りや覚書に加えて、ダームエルがまとめてくれた最新の物まで入っている。それから、こちらが貴族院に行くまでの予定表だ。今のうちに目を通しておきなさい」
「はい」
わたしはリヒャルダが下働きに指示を出し始めたのを背中で聞きながら、予定表に目を通していく。勉強の予定が詰まっているが、大半が読書だと思えば、それほど苦痛な時間でもない。
「今日は夕食までの間に、ここでこれを読んで覚えなさい」
「……これは何ですか?」
木札にずらずらと何かの名前が書き連ねられている。わたしは神官長に示された椅子に座り、首を傾げた。
「国内にある領地の名前と今のおおよその順位だ」
「わたくし、エーレンフェスト内ならばともかく、国内となると、地理もわからないのですけれど」
「あぁ、そうか」
神官長が立ち上がり、鍵のかかる書箱を開けると、二枚の地図を取り出し、執務机の上に広げた。手書きの地図で、書き込まれた筆跡を見たところ、神官長の自作の地図のようだ。
「こちらが昔の地図で、こちらが新しい地図だ」
両方を並べて広げ、神官長が教えてくれる。元々は25あった領地が中央で起こった大きな政変によって統廃合があったそうだ。
今は21の領地に分かれていて、大領地4つ、中領地が9つ、小領地が7つ。地図を見たところ、エーレンフェストは国内でも北東寄りの辺境にある中領地だった。小領地に限りなく近い中領地だそうだ。
……西がフロレンツィア様のご出身のフレーベルタークでしょ? 南がゲオルギーネ様のアーレンスバッハ。
少しでも馴染みのある地名を指で押さえながら地図を見ていたわたしは大変なことに気が付いた。アーレンスバッハの南側には海がある。実はアーレンスバッハは海の幸がおいしい地域かもしれない。
……昆布やわかめがあるかも!? お刺身が食べられるかもしれない!
すっかり諦めていた和食っぽいものが手に入るかもしれない可能性を発見して、わたしは目を輝かせた。貴族院でアーレンスバッハの友達を作ったら、海の幸を手に入れられるかもしれない。
ぶわっと期待に膨らんだ胸は、次の瞬間、現実を思い出して、しゅるんとしぼんだ。
……今の情勢じゃあ、怒られるどころの話じゃ済まないよね。ちぇ。
「エーレンフェストの影響力は真ん中辺りだ」
神官長はわたしが持っている木札をトンと指差した。
辺境でこれといった特産品もないエーレンフェストの影響力は、元々最低ラインに近かったらしい。中央で起こった政変に巻き込まれなかったおかげで、真ん中よりやや下辺りに浮上したが、これは周囲が沈んだだけで、決してエーレンフェストの実力ではなかったそうだ。
だが、ここ数年は違う、と神官長は言った。
「来年にはもう少し上がるだろう」
「どうしてですか?」
「年々、貴族院の成績が上がっているからだ」
「え?」
「貴族院を卒業した者は、中央に勤めるか、自領で働き始めることになる。年々、貴族院の成績が上がるということは、それは優秀な者が集まっているということで、数年後には一気に影響力を持つことが多い」
「そうなんですか? それはこの先が楽しみですね」
エーレンフェストがのし上がっていくのか、それはいい。女性用媚薬
ほぅほぅ、と頷いていると、神官長は更に今の貴族院の状況を教えてくれた。
「君の魔力圧縮を教わったアンゲリカとコルネリウスとエルネスタが騎士コースの成績を上げ、君の教材を使って学んだ世代が貴族院に揃い始めた。座学の成績が急激に上がっていて、周囲の領地から探りを入れられているのが現状らしい」
「……それにしても、フェルディナンド様は貴族院の情報までよくご存知ですね」
さすがに、ユストクスも貴族院には入り込めないだろう、と思っていたのだが、一体どこに情報源があるのだろうか。
わたしが首を傾げていると、神官長はこめかみを押さえて溜息を吐いた。
「貴族院で情報を集めろ、と学生達に指示を出したのは、君だろう? 今更何を言っている? 集められた情報をダームエルが整理していたから、私はそれに目を通しただけだ」
何と、情報源はわたしだったらしい。そういえば、そんな指令を出していた気がする。
だがしかし、わたしは別に学生達に諜報活動を頼んだつもりはない。図書室にどんな本があるのか、他の領地ではどのようなお話があるのか、調べてほしかったのだ。説明が足りなかったようで、ちょっと違う状態になっている気がする。
そんな中、神官長から「ダームエルからはひとまず一定金額払ってあるので、価値のある情報を持ってきた者には上乗せの料金を払うように」と言われてしまった。けれど、わたしが価値を感じる情報と神官長が価値を感じる情報に大きな隔たりを感じる。情報の価値について、一度神官長と話し合う必要がありそうだ。
「今は君のおかげでエーレンフェストにも特産品となり得る物ができた。エーレンフェストが力を上げていくのはこれからだ。それに、領主候補生が貴族院にいる時代は、学生達の士気が上がりやすい。君達、シャルロッテ、メルヒオールとしばらく領主候補生がいる時期が続くので、君には皆のやる気を上手く引き出して、全体的な成績を上げてほしいと思っている。冬の子供部屋での状況を聞いたところから推測すると、得意だろう?」
神官長にそう言われて、わたしは首を傾げた。別に、わたしはそんなことを得意だと公言した覚えはないし、あまり得意だとも思っていない。
「いえ、別に得意というわけではないと存じます。わたくしはただ子供達が文字を読めるようになれば、本を読む人も増えるし、本を読むことに親しむ人が増えれば、本を書く人も出てくるのではないか、と考えただけですから」
本を書く人が増えたらいいなとか、図書館を公費で作るには読書人口が必要だよね、とは思ったが、領地全体の成績を上げて、国内での影響力を高めようなんて、考えたこともない。
「……君の本にかける情熱を、私はまだ甘く見ていたようだ。その意気込みで絵本だけではなく、難しい専門書を皆が読む気になる方法を探すと良い。君の頑張りに期待する」
「お任せください」
皆への読書普及運動を胸に、今日の講義はこれで終了した。
夕食の時間が近いので、着替えなければならない。わたしは神官長に明日までに読んでおく資料を指示されて、退室しようとした。
「ローゼマイン」
ふと何かを思い出したように神官長がわたしを呼び止める。
「何でしょう?」
「本日の夕食会は君の快気祝いだ。カルステッド一家とボニファティウス様もいらっしゃる。多少危険な扱いがあったとはいえ、ボニファティウス様が君を見つけてくれなかったら、解毒が間に合わなかった可能性も高かった。必ず礼は述べておきなさい」
わたしの中では上下逆に振られて、振り回されて高速横回転で飛ばされて、正直、殺されかけた印象が強いが、確かにおじい様が助けに来てくれなかったら、危険だった。危うく止めを刺しかけたことも含めて心配していた、と言われれば、お礼くらいはきちんと言った方が良いだろう。中絶薬
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