ぐおんぐおん、と音を立て工房の天井を這うレールの上をクレーンの滑車が走り回る。
そこから鎖で吊り下げられた、鎧の一部らしき金属塊を幻晶甲冑シルエットギアに乗った鍛冶師が押し出してゆく。勢いのついた金属塊に轢かれそうになった誰かが、一揃えの罵声をあげながらも慌しく走り去っていった。HARDWARE
芳香劑 RUSH『正品』
ライヒアラ騎操士学園にある騎操士学科の工房。
いまや銀鳳騎士団ぎんおうきしだんの基地と化したその場所は、新型機の完成へと向けて熱気で溢れかえっていた。
簡易な秘匿の覆いはすでに取り去られ、最新鋭の人馬型幻晶騎士シルエットナイト・ツェンドルグが工房のど真ん中を堂々と占拠している。通常の機体よりも巨大なことが災いし、完成が近づくにつれて押し込めたままの作業が困難になってきたのだ。
巨体に比して上半身は細身で、軽量に見える。その額には突き出た一本の角が見られ、他にも伝説上の馬に関係した意匠が随所に施されていた。
対して下半身は巨大で、重厚だ。脚部など一つ一つが幻晶騎士の胴回りほどの太さを持ち、見ただけで尋常ならざる出力のほどを知ることができよう。
それらが接続される腰にあたる部分は、幾重にも重ねられた装甲板で覆われた巨大な塊といった見た目だ。
実は、ツェンドルグは外見以外にも通常の幻晶騎士と異なる要素を抱えている。
操縦席、魔力転換炉エーテルリアクタ、そして魔導演算機マギウスエンジン。それらをあわせた“心臓部”と呼ばれる部位――それらは全て、この“下半身”に搭載されているのだ。
複座式となった操縦席、2基搭載することになった魔力転換炉、果ては容量を増やすために大型化した魔導演算機まで、もはや人型の内部に積めるものではなくなったためである。当然、ツェンドルグの大きさゆえの余裕があったからこそ成しえたことだが。
そこで上半身と分散して積む方式にならなかったのは、主に機構の複雑化を防ぐためのものだ。結果として上半身は戦闘機能に特化しつつ、軽量なものとして仕上がっていた。
筐体は完全に組みあがり、すでに外装アウタースキンも過半まで取り付け終わっている。さほどの時をおかずして動作試験へと入ることであろう。
近づくことすら躊躇われそうな異様な機体を創り上げてゆく先輩たちの姿を横目に見ながら、新米鍛冶師たちは黙々と自分の作業を進めていた。
当初は見るもの全ての珍しさに興奮し、果てはツェンドルグと対面した際には仰天のし過ぎで倒れていた彼らも、次々に課せられる訓練と作業をこなしてゆくうちにどんどんとスレ始めていた。
最近ではさっさと幻晶甲冑の製作方法を習い覚え、自分たちが使う分は勝手に作っていたりする。慣れとは恐ろしいものである。
彼らが作っている普及型の幻晶甲冑・モートリフトは大雑把な作りゆえ細かい作業こそ苦手だが、発する力はドワーフ族すら軽く超える。幻晶騎士の部品のような大きなものを取り扱う作業には高い適正を見せていた。
最初は見知らぬ機械に奇異の視線を送っていた新入生たちも、しばしの時間が過ぎる頃にはその便利さにすっかりとはまっていたのだった。
荷物を運び槌を振るい、作業に勤しむ彼らの間を縫って一人の騎操士ナイトランナーが何かを探して歩いていた。
やや長めに広げた金髪、長身痩躯にわざわざ紅く染めた革鎧を身につけている。銀鳳騎士団2番中隊隊長ディートリヒ・クーニッツだ。
彼は工房内を一通り見回すと、ふむ、と一息ついて近くで作業をしていた新米鍛冶師へと声をかける。PPP RAM
RUSH 芳香劑
「君たち、団長エルネスティを見なかったかい?」
ディートリヒの問いかけに、新米鍛冶師たちはそろって首を横に振った。銀鳳騎士団長、エルネスティは色々な意味で目立つ。来ればすぐに気付くはずである。
「ついでにあの双子もおらず、と。教室はもう出たようだしどこに行ったんだろうね、うちの団長様は。……何もしでかしていなければいいけどね」
無情にも、彼の心配は的中することになる。
人馬騎士・ツェンドルグの完成を目前にした銀鳳騎士団。鍛冶師たちはその作業にかかりきりであり、騎操士たちも自身の訓練に、後輩の指導にと多忙な日々を送っている。
そんななか、設計を終えた騎士団長様は些か手持ち無沙汰な状況にあった。
ここで思い出して欲しい、彼はツェンドルグの設計以外にも様々なものを作っていたということを。
幼馴染と3人でゆっくりと作り進めてきたとある新型装置。彼はその動作試験を行うべく、こっそりと恐るべき事件を起こしていたのであった。
晴れ渡る空と穏やかな陽射し。ピクニックに丁度良いであろうまばらな木々の合間を、重量感溢れる足音をたてて歩く巨人がいる。
同系統でありながら周囲の深緑から浮きに浮いたヴィヴィッドなグリーンの色合い、ピンピンに突き立った刺々しい飾りをつけた鎧の形状。あまりにも怪しげな風体をしたこの巨人は実習用の幻晶騎士・ラーパラドスだ。動かしているのはエルネスティである。
その足元をちょこちょことついて歩くのは幻晶甲冑、アーキッドとアデルトルートが動かすモートルビートだ。
ここはライヒアラ学園街より少々の距離を離れた人気のない森の中。いくら魔獣の危険があるからといって、少々仰々しさに過ぎる装備をもって彼らは散歩を楽しんでいた。
しばらく進むと森の中に開けた場所が見えてくる。以前は決闘級魔獣でも居たのかもしれない、ぽっかりと空いた広場がそこにあった。
エルは抱えていた荷を降ろし、ラーパラドスに膝立ちの駐機姿勢をとらせる。キッドとアディは早速荷を広げ、中に詰め込まれた奇妙な筒状の装置をラーパラドスへと取り付けていった。
人一人が両手で抱えるほどの太さの筒。それが数本、ラーパラドスの肩と腰周りに設置される。二人は固定器具をしっかりと組み付けたのを確認すると、操縦席に座ったエルへと手を上げた。
「エルー、取り付け終わったぜ。しかしこれはなんというかさぁ……」
「こっちも大丈夫だよー。ねぇー、なんていうかねぇ……」
二人は作業を終えると、ラーパラドスから離れてその全身を確認していた。
元々の無駄に刺々しい外見に、さらに謎の筒を複数生やしたラーパラドス。その姿はいっそシュールとさえいえる領域に達している。
秘密の保持とは別の意味で、彼らはこの場所に誰もいないことを感謝していた。
「さぁてあとは仕上げを御覧じろ、少し離れていてくださいね」
操縦席に座ったエルはそんなことを気にしていないのか、それともあえて無視しているのか。
ともあれ彼はラーパラドスを立ち上がらせると、謎の装置を起動させていた。
途端、“筒”の前面から大量の空気を吸い込む独特の音が響きだす。突然の奇妙な音に驚いたのか、周囲の森から鳥が一斉に逃げていった。JACK
ED 情愛芳香劑 正品 RUSH
離れたところからキッドとアディが見守る中、ラーパラドスは僅かに身を沈めるとそのまま走りはじめた。結晶筋肉クリスタルティシューが躍動し、全高10mにも上る巨体が軽やかに疾走する。しばしの後にはラーパラドスは十分な速度に到達していた。
ここからが試験の本番である。エルは不敵な笑みを浮かべると、操縦桿の周りに増設したスイッチを一斉に押し込んだ。
瞬間、世界が切り替わる。
“筒”の内部は漏斗を二つ合わせたような形状になっている。前半には大気を圧縮する魔法術式スクリプトが紋章術式エンブレム・グラフとして用意され、吸入・圧縮された大気が細くくびれた中央部分へと集められる。
後半部では圧縮された大気の塊へと次なる魔法、爆炎の魔法がかけられる。さらに魔法術式には、それによって発現した爆発に指向性を持たせる部分が記述されている。
圧縮大気推進エアロスラストを応用した圧縮大気の炸裂、さらに爆炎の魔法による爆発、二つを合わせて発生する高速の噴流を利用した反動推進器。それがこの筒――マギジェットスラスタの原理だ。
最初に発生したのは眩い朱の光、機体背後に長く伸びる炎の尾。
次に発生したのは劈つんざくような轟音。
目覚めを告げられたマギジェットスラスタは全くの遅滞なく、猛然とその本性を剥き出しにした。
すでに圧縮を経た大気の塊が連続して爆発膨張し、強烈なジェット噴流による反動がラーパラドスへと圧倒的な加速を与える。
いやそれはすでに加速などと生易しいものではなく、“吹き飛ばした”と表現するほうが正しいような状態だった。
「お、おおおぉぉぉぉぉぉう!? フゥゥゥゥッルパァァゥワァァァァーーー!?」
製作者であるエル自身の予測すらはるかに凌駕する激烈な推進力により、ラーパラドスが明らかに異常な加速を始める。
エルの小柄な体へと強烈な慣性がかかり、それに対抗するために必死になるあまり彼は十分に装置を制御できていなかった。その間にもマギジェットスラスタは自身に記述された術式に忠実すぎるほどに従い、狂ったように推力を吐き出し続けてゆく。
どこまでも続く加速の中、小さな気流の乱れが一瞬だけラーパラドスの機体を浮き上がらせた。
少しだけ崩れた姿勢、僅かに浮き上がった体。本来ならばすぐに重力が地面へ戻してくれるはずである。しかしラーパラドスに装着された魔物は、その圧倒的な推力を以って重力に打ち勝ってしまった。
エルは慣性の方向が僅かにずれたことに焦るが、彼の対処を待たずして機体は自由な空へと離陸を始めていた。空力的な特性など一切考慮しない、ただ爆発的な推進力のみに支えられた飛翔。
機体が嵐にもまれる木の葉のように吹き飛びそうになるのを、エルが全力を振り絞ってなんとか制御する。ただ彼をして、空中分解しないだけで精一杯だった。
眩い炎を引き連れて空へと向かうラーパラドスはさながら流星の逆回しである。エルの悲痛な状況とは別に、謎の感動を伴うその光景にキッドとアディはあんぐりと口を開けたまま見入っていた。
爆発的に始まった事態はやはり突然に終了した。
余裕のないエルに代わり、魔導演算機が自身の仕事を忠実に実行したのだ。急激な魔力マナの消費に対し、魔力貯蓄量マナ・プールが枯渇する寸前に安全装置リミッターが作動して機器への魔力供給が強制的に停止される。
直後、ラーパラドスを持ち上げていた炎の雄叫びが唐突に停止した。同時に推進力を失った機体は、空気抵抗と重力に導かれるまま落下を始める。威猛酷哥
「ウワァァァァァァいっぱーーーっつ!?!!!」
皮肉にもマギジェットスラスタが停止したことによって、エルは機体を制御する余裕を取り戻していた。
勢いはともかく、高度が上がりすぎる前に推進器が止まったことは不幸中の幸いであっただろう。瀕死の機体はなんとか分解することなく地面に帰り着く。しかしそれはただ着地しただけであり、有り余る勢いはほとんど衰えてはいなかった。
ブレーキをかける機体の両足から猛烈な火花が舞い散り、地面が鑢やすりのごとく外装アウタースキンを削り取る。
このままではすぐに脚部が限界を迎える、そう悟ったエルはとっさに機体を前方へと投げ出した。前転の要領でラーパラドスが地面を転がる。ご自慢のトゲトゲ鎧がボキボキに折れ砕け、取り付けたマギジェットスラスタまで吹っ飛んでいたがエルにそんなことを気にする余裕はなかった。
そのままおよそ数百mを転がったラーパラドスはようやく勢いを緩めると、大の字に倒れ伏して停止したのだった。
「…………エル君、生きてるかな?」
「はっ!? いや今のはまずいだろ! 助けに行くぞ!!」
キッドとアディが正気を取り戻したのは、あたりが静けさを取り戻してから、しばらくしてのことだった。
「ゲホッ、ゲホ、だ、駄目です!! この装備は駄目です!! 駄目々々です!!!! 却下!! ……はしませんが作り直しです!!」
目を回して気絶していたエルが、息を吹き返してまず言い放ったのがこれである。
ラーパラドスは人型こそ留めていたものの、鎧のほとんどがひしゃげるわ飾りは折れるわと威圧的だった姿はもはや見る影も無い。足の装甲はガタガタに削れているし、摩擦熱で一部の部品が溶接してしまっている。これだけの事故を起こしてエルが気絶だけで済んだのは、偏に日頃の訓練と彼の能力の賜物であった。一般人は真似をしないでください。
そんな彼であっても、さすがにここまで惨憺たる結果が出ては余裕など見せれるはずもなく。珍しく大荒れのエルを、幼馴染が慌ててなだめにかかっていた。
「しかし危なかったな。スラスタを止めるのがもう少し遅かったら星になってたぜ、エル」
「…………違います、“止まった”んです」
「え?」
「あまりにも魔力をドカ喰いしすぎて、魔力貯蓄量の大半を一気に燃やし尽くして、挙句勝手に止まったんです!! ええそうです、駄目です、完全に失敗です!!」
「え、エル君落ち着いて! はいはい、どうどう」
半ば錯乱状態にあるエルを、アディが力づくで強制停止する。彼はしばらくもがいていたが、やがて静かになった。
背後を振り返れば、そこには地面が抉れた跡が長く続いている。二人は改めて、エルとラーパラドスが無事であったことに長い安堵の吐息をついた。
「ねぇエル君、これはやめとかない? いくらなんでも危ないわよ」
アディは心底心配といった表情を隠しもしていないが、残念なことに腕の中のエルが顔をあげたとき、彼の表情はいつもの――つまりは製作の熱意に燃えたものとなっていた。
「失敗は失敗で仕方ないとして……もう少し段階を経て実験しなければいけません。まずは術式の規模と出力の関係について検証が必要ですね。そして状況に合わせて変更できるように新たな制御機構も噛まさないと。魔力の消費も問題ですが、これはしばらくは出力と一緒に抑えることでもたせましょうか……いや、機体側で対策をしてしまえばなんとかなるかな?」
彼の脳裏では新たな図面が出来上がりつつあるのだろう、あわや大事故を起こしかけたというのに一切躊躇しないエルの様子にキッドとアディは二人して天を仰いだ。まさに処置なしである。
エルはしばらくはそうしてうんうんと唸っていたが、唐突にいいことを思いついたとばかりに二人へと振り返る。三体牛鞭
「ちなみに、二人も乗ってみますか?」
「乗るかっ!!」「いーや!!」
わかりきった答えが、森の中に木霊していった。
その後、うっかりとズタボロになったラーパラドスに乗って戻ってきたエルをみて、銀鳳騎士団の全員がすわ敵襲かと臨戦態勢と相成ったのは余談である。
工房の一角に、いかにも急造された感じの机と椅子が設置されている。机の上にはこれまた急ぎで作られたのだろう、乱雑な字で“騎士団長”と書き殴られた立て札が置かれていた。
その席にちょこんと腰掛けながら、エルは恐る恐るといった感じで周囲を見回した。
「……僕はここにいなくちゃいけませんか?」
「おう、すわっとれ団長様」
「ああ、君がいたほうが気が引き締まる気がするしね」
「そうだな、団長というものはもっとこう、どっしりと構えていればいいさ」
周りを取り囲むのは言わずもがな、いつもの面々である。
ドワーフ族の鍛冶師と十分に体を鍛えた騎操士たちだ。彼らは威圧感を放つ仁王立ちでもって物理的にエルを席に留めていた。
「みんなして非道ひどい……」
「てめぇから目ぇ離すとまた何しでかすかわかんねぇだろが!」
恨みがましい目つきで、エルは傍らにある機体を見上げた。
そこにあるのはボロボロになったラーパラドスの姿だ。悲惨な大事故に見舞われたラーパラドスは自力歩行こそ可能だったが、限りなく大破に近い判定を受けて現在使用を厳禁されている。主に騎士団長に対して。
そして動作試験といいながら幻晶騎士1機を大破に追い込んだエルは騎士団のほぼ全員から“お説教”をくらい、こうして“騎士団長のお仕事”をやることと相成っているのだ。
「大丈夫ですよ、僕だってちゃんと反省しています。ほら、こうして改善案の設計だって仕上げてありますし」
「やっかましわ! それのどこが反省してるってんだ!! しばらく大人しくしとれ!!」
当然とばかりにどこからともなく設計書を取り出したエルに、親方がひったくるようにそれを取り上げる。
異質な才と、溢れるほどの熱意を持つ彼らの騎士団長。魔獣に突っ込み幻晶騎士に突っかかりと基本的に常識から外れた行動しか取らない上に、これまた桁外れの能力でそれを成し遂げるものだから誰も彼を止めはしなかった。
それが失敗したときはどうなるか――当然のように大惨事を引き起こしたエルに、全員が頭を抱えたのは言うまでもない。新一粒神
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