2014年9月12日星期五

智樹、降臨

帝国に裏切られました。
 ファンタジー世界における雪国の大都市。
 僕は帝都の外観に実は相当期待していた。
 どんな幻想的な都市なんだろうな、ってね。
 例えば、スチームパンクな蒸気がそこかしこから吹き出るような都市とか。
 例えば、解けない氷を削りだした建築物が点在する陽光に煌く都市とか。田七人参
 全くそんなことはなかった。
 立派だけど、まあ城塞都市というか、そんな感じ。
 これなら最初に訪れた大きめの街、ロビンの方が雪国情緒があったなあ。
 帝都ルイナスを一望できる転移陣の施設。
 ルイナスまでは後一回の転移を残しているけど、ロビンからついてきてくれた案内役の人が帝都を是非ご覧下さいと、ここで時間をとってくれた。
 高い山の中腹らしいこの場所から、見下ろす先にある大きな都市。
 周りは白一色だというのに、その街の中はロッツガルドと同じような普通の様子。
 雪は積もっていない。
 そういう所に魔術を使っているのかもしれないな。
 期待していたのとはおおいに違ったよ……。
 歪な円形に広がる帝都は、三つの外壁によって外周から中枢にかけて区切られている都市だった。
 中央にはここからでもそれとわかる城があるからあそこが皇帝のいる場所なんだろう。
 帝国には住まう人に等級をつけるらしいから、あの外壁は住まう人の違いを表しているのかもしれない。
 身分社会か。
 ヒューマンと亜人の間に当然のように存在するんだから、ヒューマン同士にも存在していて不思議はまったくない。
 一回肌で感じておけるのは貴重な機会かもしれない。

「帝都はいかがですかな若?」

「もっとこう、雪とか氷っぽいイメージだった」

「儂もです。何と言うか風情のない街ですなあ」

「期待とは違うね。今回は二日程度の滞在だし、色々見て回るほどの時間はなさそうだからこうして全体を見せてもらえるのは嬉しいけど。街の雰囲気なんかは識に調査でもしてもらおうかな」

「承りました。空いた時間に街の様子を見回っておきます」

「よろしく。僕はこれのお届けをしないといけないからさ」

 自分で背負っている大きい布袋を見る。
 ランサーの卵らしい。
 これをグロントという上位竜の所に預けてこないといけない。
 案内についてはリリ皇女にルトから話をしておいてくれている。
 ルト、あいつ本当に謎な人脈を持ってるよな。
 まごうことなき変態だけど、細やかな配慮は素直に有り難い。

「っと。案内の人を待たせすぎても悪いね。それじゃあ、行こうか」

「はい」

「そうですね」

 巴と識に声をかけ、頷くのを確認する。
 こちらを遠くから見ている案内役の人に手を振って戻る。
 後は転移を一回、それから帝都の中で何度か審査を受けて皇女の所へ。
 そこで勇者と皇女に会うと。
 帝国の勇者、岩橋智樹か。
 僕の二個下だけど、勇者として戦場では大活躍の人だとか。
 なら。
 帝都から少し離れた場所に見えるクレーターのような跡は彼の仕業だろうか。
 聞けそうならそれも聞いてみようか。
 楽しみ半分不安半分。
 泰然とする従者二人を頼もしく思いながら、僕は転移陣に乗った。

「では、ライドウ様はこちらのお部屋でお待ち下さいませ。そちらのお二人は我々とご一緒に」

「……わかりました。巴、識。また後で」

 二人は城内に入ってからの案内に連れられて奥へ消えていく。
 残る僕は扉を開けて待つ、僕についてくれているであろう人に従って左手の部屋に入る。
 ご挨拶をするのに代表の僕と他を分けるのが普通らしく、別に交渉ごとなどがあるわけではないらしい。
 交渉関係で僕だけ隔離されても、持ち帰らせてくださいの結論以外は言わないように決めているのであまり意味はないしね。
 じゃなきゃ、何の為に巴と識を連れてきたんだって話になる。
 しかし、隔離されるのなら僕じゃなくて巴かと思ってたんだけど少し意外だったな。
 待つ間に通された部屋を見渡す。
 流石は大国の都、それも皇帝もいらっしゃるお城だけはある。
 僕はともかく、ザラさんやレンブラントさんとこの応接室よりも更に豪華。
 キラキラしている訳じゃなく、しっとりと落ち着いた雰囲気の気品や贅沢さを感じさせる部屋で、何が言いたいかというと、僕は落ち着かない。
 深く沈むソファで出されたお茶を飲みながら、腰の辺りがどうもこうふわふわする。
 ん、人の気配だ。
 二人。
 少し後ろに更に三人。
 五人?
 多いな。
 既に部屋の外には二名が警備で待機しているし、室内にもお茶を入れてくれるメイドさんがいるのに。
 まあ、立って待つのがいいだろうね。
 僕が動いたことにメイドさんが顔を上げるも、ついで扉が開き僕が感じた通り五人が部屋に入ってくるのを見ると、一歩下がって元の場所に戻った。

「よく来てくれましたライドウ殿。ロッツガルドでは大変世話になりました。改めて御礼を言わせてくださいませ」威哥十鞭王

 最初に口を開いたのはリリ皇女。
 この中では唯一の顔を知っている人だ。

「この度はお招き下さってありがとうございます、リリ皇女。恥ずかしながら、この深い雪の中でもこれだけ大きな街を繁栄させる帝国のお力を肌で感じまして、私どもなど場違いではないかと思っておりました。ロッツガルドでお会いした方とこうして再会できて少し安心しております」

「帝都をお褒め頂いて嬉しいわ。残念ながら短い滞在となってしまったけれど楽しんで頂けるようエスコートしますね、と思っていたのだけど。貴方の顔を見たら是非、お帰りの時には我が国に店舗を出したいと思って欲しいと欲が出てきてしまいました。よろしくご検討下さいね」

 あれ。
 ロッツガルドで会った時よりも全体的に物腰や雰囲気が柔らかい感じだな。
 自分の国だから?
 だけど交渉なんてないからと言いながら、何か言葉の端々が既にもう社交辞令じゃなくなってる気がする。
 何より口元は穏やかなのに目の奥は笑ってないし。
 やっぱ苦手だな。
 で、横にいるのが多分勇者か。
 皇女の横に並ぶんだから、間違いないよな。
 日本人ってことだけど、オッドアイとでもいうのか瞳の色が違うし髪の色もナチュラルな銀。
 容姿を弄ってるのかな。
 それとも元々ハーフかクォーター?
 二個下だって先輩からも聞いたけど身長は確実に百八十超えてるよな。
 この世界のヒューマンに混ざっていてもあまり違和感を感じない美男子だ。
 なるほどねー、こういうのがあの女神の好みなのか。

「ああ、そうね。再会を喜んでばかりではいけないわね。ライドウ殿、紹介するわ。こちらの方が帝国に尽力して下さっている勇者智樹様です」

 やっぱり。

「貴方が勇者様ですか。はじめまして、クズノハ商会の代表でライドウと申します。お会いできて光栄です」

「岩橋、智樹だ」

 挨拶すると智樹君は僕をまじまじと見てきた。

「何か?」

「何か、じゃねえよ。あんた、日本人だろ? ヒューマンの顔じゃないし亜人でもなさそうだ。それにライドウなんて偽名まるわかりの名前を名乗ってりゃな」

 ……。
 一撃でばれました。
 はぁ……。
 そりゃね、僕はぱっとしない顔だ。
 ライドウなんてのも、わかる人ならわかる名前だとは思うよ?
 んー、でも即座に特定されるか。
 この子結構ゲーマーなのかね。
 先輩は別にライドウの名前には反応しなかったし。

「あ、ははは。まあ色々ありまして今はここで商売などしております」

「本名は?」

「と、智樹様? どういうことでしょう?」

 リリ皇女が僕をチラリと見た後で智樹に向けて尋ねる。
 僕と智樹の間に何かしらの関係がありそうだとわかって少なからず動揺しているようだ。

「こいつ、ライドウって名乗ってるけど。俺と同じ異世界人だ。顔立ちでほぼ日本人確定。つまり俺と同じ国の人間って訳」

「智樹様と同じ……勇者!?」

「かどうかはわからねえ。女神から三人目がいるなんて聞いたこともない。それに、こいつ自身偽名を名乗って商売なんてしてるみたいだし。なぁ、あんた。名前教えてくれよ」

「深澄真。僕は高校二年の時にこっちに来たんだ。君の二個上になるね」

「何で俺の年を知ってる?」

「響先輩に聞いた。ここに来る前にロッツガルドに先輩が来てね」

 なんだこいつ。
 僕は年上だって話しているのに、いつまでタメ口聞く気でいるんだろ?
 上下関係とか知らん、ってタイプの子なのか?老虎油

「先輩? じゃあお前、響と同じ中津原高校とかってとこの生徒だったのか」

 響!?
 先輩まで呼び捨てか!?
 凄い、まるで理解できない存在がいるぞ。
 言葉遣いに物申したいけど、皇女もいるし、多分勇者の仲間か知り合いであろう人も後ろに三人いるしなあ。
 ここで言うのは少しまずそうな気がする。

「ああ、そうなるね」

「……ふぅん。あんま面白くないな、それ」

 はあ!?
 どういう意味かはともかく、それは口に出すか!?
 面白くないってなんだよ!

「あの、智樹様。この場は挨拶のみですのでこの者たちの紹介をして、後のことは後ほど……」

 皇女が僕と智樹君の話が長くなるかもしれないと思ったのか話を切ってくれる。
 しかし、自分は誰とでも対等って思っているタイプの中学生だったんだろうか、この智樹君は。
 うーん。
 年齢が上だからってことに拘ろうとする僕の方が古いのかなあ。
 一個上ってだけで敬語が当たり前だったんだけどなあ。
 弓道部でもそうだったし。

「いや、リリ。こいつが日本人なら少し俺に話をさせてくれ。その方が早いと思う」

「……ですがそれは。この方々は私がお招きした客人でもありますし、別件で頼まれていることもございますから」

「悪い。それは後にしてくれ。二人部下が来ているんだからそっちに伝言しておけばいいだろ」

 おいおい!
 お前が決めるなって。
 なんだこの俺様至上主義な子。
 リリ皇女が言ってる別件はグロントの所への道案内と転移陣の使用許可だろうから僕に直接関係するんですけどね!?
 ああ、もう。
 この際説教してやろうか?

「……ライドウ殿」

「はっ」

 皇女は僕をライドウと呼んだ。
 真とも深澄とも呼ばなかった。

「ファルス殿から預かった件についてなのですが。実際に行かれるのはあのお二人のどちらの方でしょうか? 私から詳細をお伝えしておこうかと思いますが」

 ……えー。
 そこで皇女が折れるの?
 周囲のメイドさんとか皇女の後ろの三人組とかは智樹君の魅了の力にやられているのかピンクの雰囲気で話にならない感じだし、頼れるのは支配下になさそうな皇女だけだったのに……。
 にしても、思ったよりも魅了の力って気分悪い。
 きっつい香水をつけた人たちで満載のエレベーターにでもいる感じ。

「あ……それなんですが。私が向かおうと思っておりますのでお話は私が」

「……ライドウ殿が? 失礼ですが、グロントの領域は一筋縄では……と、そうでしたね。智樹様と同じ異世界の方ならば確かに考えられないことではありませんね。わかりました、しばらく我々は席を外しましょう」

「リリ。席を外すのはリリだけにしてくれ。他の女にはここにいてもらいたいんだ」

「では、私は少し失礼します。お連れの方ともお話がありますのでそちらに行って参ります」麻黄

「ああ」

「あ、はい」

 うっわ、本当に皇女が出て行ったよ。
 智樹君、帝国の勇者ってこの国でどんだけ権力があるんだ?
 勇者ってそんなに絶対的な存在な訳?

「さて、と」

 智樹君は僕の向かいのソファに豪快に身を投げて寛いだ姿勢で座った。
 彼の言葉通り、メイドさんと意匠をこらしたドレスを身に纏った三人の娘さんは室内にいる。
 特に三人の娘さんについてはどこかトロンとした表情で智樹君の後ろに控えている。
 みんな色っぽいけど、さっきも感じたように魅了の力が鼻について何か気持ち悪い。

「まさか日本人の男に会うとは思わんかったわ。あ、座れよ」

「……」

 促されて僕も座る。
 なんていうか、誰に対してもこういう奴か。

「さ、腹割って話そうぜ? とりあえず、俺は今回のお前らに対して一つだけ絶対に要求したいことがあるんだ。先に言ってもいいか?」

「良いけど。僕は智樹君より二つ上なんだけどさ。先輩に敬語使ったりしないの?」

「は? 先に生まれただけの初対面の奴になんでそんなことを? 俺、人によって態度変える方が失礼だと思う人だし」

 先に生まれたことも。
 初対面であることも。
 ……僕にとっては十分敬語で接する条件に入るんだけど。
 響先輩。
 こんな奴なら予め言っておいてくださいよ。
 そうすれば僕も諦めをつけてこれたのに。
 ……多分。

「……あ、そう」

「大体敬語がどうとか言うなら勇者の俺に対して、まず商人でしかないあんたが敬語使わないとダメでしょ。同じ日本人で年下だからって態度を変えたあんたに他人の事なんて言えないんだろ? 先輩後輩以前に立場って重要なんだからさ」

「……」

 ……こいつ、マジか。
 なるほどなあ、巴が嫌うのもなんとなくわかるわ。
 言ってる事の一つ一つはともかく、全部自分に都合よく解釈しようとしているのがわかる。
 ダブルスタンダードどころかトリプルだろうがフォースだろうが平気でやりそうだ。

「まあ、それはもう追求しないでやるよ。お互い気楽に話そうぜ。で、あ、そうだ。俺のあんたらへの要求なんだけどさ」

 あれ、僕が失礼なことを言った感じになってる。
 なにこの流れ。
 僕らの他に四人の人がいるっていうのに、誰も彼に突っ込まないのも異様だし。

「……聞くよ」

 何とか気を取り直してそれだけ言う。

「巴、俺にくれよ」

 あ?
 このバカ、何を?
 たったこれだけを考えるのにしばらくの沈黙を必要とした。
 だって頭が真っ白になったから。
 その前のことを本気で忘れかけた。
 思考が吹き飛ぶって本当にあるんだなあ、って思ったね。D9 催情剤

「は?」

 僕が聞き返す声が部屋に響いたのは、それからさらに少し後のことだった。

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