2014年8月18日星期一

報告と反省

 街道に出る前にジンは身だしなみを整える事にした。何せ服は破れて体中泥だらけの状態だ。
 ジンは今度は慎重に〔ウォータ〕を唱え、まずは鎧を着たまま体中の泥を洗い流す。
 本当はこのまま裸になって体中を洗い流したいところだったが、さすがにここで無防備な状態になるわけにもいかない。Motivat
 ジンは〔道具袋〕からタオルを取り出し可能な限り水気をふき取り、そして〔装備〕を使用して新しい服に着替えた。もちろん鋼鉄の片手半剣も折れた切っ先を含めて回収し、鞘に入れて腰に挿している。
 とりあえず出発前に比べ鎧はボロボロになっているものの、それ以外は変わらない姿になれた。

 さすがに人生初となる命の危険を感じる戦いを経験したせいか、精神的なものも含めた疲労感をジンは感じていた。少し早足で街道に出たところで、ジンはやっと少し気を抜いて大きくため息をついた。そのまま街道を街に向かって進む。

 そしてある程度街の近くまで来たところで人目がない事を確認し、鑑定済みの蟻モドキ(正式名マッドアント)の素材を詰めた大中一つずつの袋を取り出した。
 さすがにギルドでこんなに多くの素材をそこまで大きくない鞄から出すのは不自然すぎるので、ここからは実際持っていくことにしたのだ。
 しかし〔道具袋〕にはまだ入りきらなかった女王蟻マッドアントクイーンの素材が残っている。それなりの重さを感じながら、ジンは街への歩みを再開した。

 ようやく街に着いたジンであったが、何故かこれまでに比べ依頼達成の喜びや満足感といったものが少なかった。まだ夜どころか夕方にもなっていない時間だが、ジンは今日はこのまま宿に帰ってベッドに倒れこみたい気分だった。
 しかしそれでは一体何の為に体を張ったのか分からなくなる。ジンは気持ちに喝を入れると、ギルドへと向かった。

 ギルドの中には数人の冒険者らしき人々が見られたが、受付は空いていた。 ジンはアリアの元へ向かう。

「ただいま戻りました。『パムの花』の採取無事完了しました」

「おかえりなさい。おめでとうございます。ただ、どうかされたのですか?」

 ジンの帰りを喜んだアリアだったが、ジンの鎧についた大小様々な傷や、何かで一杯の大きな袋に驚いて思わず尋ねてしまう。

「あーっとその、色々ありまして。とりあえず、まずは『パムの花』や常時依頼の分から宜しいですか?」

「は、はい、失礼しました。確認させていただきます」

 言いよどんだジンを見て気になりつつも、確かにまずは本来の依頼からだと、アリアは一番の目的であった『パムの花』と常時依頼の『チリル草』と『メル草』を受け取る。

 一方ジンは、マッドアントについてどう話しをすれば良いのか迷う。
 さほど強くはないとは言え、あの数は異常事態だ。一応マッドアントクイーンは倒したのでもう危険はないと思われるが、群れがあの一つとも限らない。それに、そもそもジンはマッドアントの詳しい情報自体知らないのだ。
 やはりここは隠す事無く話そうと、ジンは決めた。

「(最初は20匹くらいかと思ったけど、なんだかんだで最終的には40匹以上倒していたからな。普通初心者ができる事じゃないだろうから、色々突っ込まれるのは覚悟しとこう)」

 そう考えて、ここでジンはようやく気付く。

「(しかし良く考えたら俺もよくあそこで戦おうとしたな。いくらそんなに強くないとはいえ、数が数だというのに。やっぱりVRゲームからの引継ぎ能力があるからと調子に乗って、「俺には特別な力がある」とか「俺なら出来る」的な驕りがあったとしか思えないよな。いくら『パムの花』が大事でも、自分が死んでしまったら元も子もないのに。うわ情けない。猛省しなきゃ。ほんと駄目だ)」

 ジンは恥ずかしいやら情けないやらでいたたまれない気持ちになり、思わず俯いてかぶりを振る。
 そんなジンにアリアが声をかけてきた。

「どうかなされたのですか?」

「いえ、すいません。ちょっと色々と反省してまして。どうぞ気にしないでください」

「そうですか? それではお伝えしますね。今回も採取された品に問題はありません。さらに5輪で良いところを8輪もの追加までいただきましたので、この分は改めて依頼主と相談の上、査定させていただきます。ただ、まず間違いなく同条件での依頼達成という形になるかと思います。ジンさん、本当にありがとうございます」levitra

 そう言ってアリアが頭を下げる。

「いえいえ、喜んでもらえて嬉しいです。こちらこそありがとうございます」

 そう言ってジンも頭を下げた。
 落ち込んでいたジンにとっては、自分のした事が反省すべき事ばかりではなく、結果としてはちゃんと喜ばれる事であった事に一つの慰めを得たのだ。 
 しかし当然アリアは何でお礼を言われるかは分からない。だが伝わらない事は承知で、それでもジンはお礼を言いたかったのだ。

「それと、もう一つの報告なのですが……」

 ジンはそう言って大袋からマッドアントの甲殻を一つ取り出すと、アリアに見せる為テーブルの上に置いた。

「採取の時にマッドアントの群れが出まして、その報告をさせていただきたいのですが、どうしたらよろしいでしょうか?」

 言われたアリアは固まった。
 マッドアントと言えば、一番弱いワーカータイプでもE級高位の討伐対象魔獣で、その特筆すべきは固い甲殻で覆われた防御力だ。 
 さらには最低でも2~3匹のユニットで行動する為、その場合危険度はさらに上がる。決して新米冒険者が挑むべき魔獣ではないのだ。

 しかも群れとは…… 群れ?!

「すいません、ジンさん。もしかしてその袋に入っているのは全部?」

「はい。全部マッドアントの素材です」

 アリアは思わず叫びそうになるのを意志の力でなんとか抑える。
 そして軽く目をつぶると片手を額に当て、気持ちを落ち着かせて考えようと大きく呼吸をする。

「ジンさん。お話は別室で聞きます。2階に上がりますので、ついてきてください」

 アリアはジンにそう言うと、次いで隣に居たサマンサに声をかけ何事かささやく。そして軽く頷いたサマンサは別の同僚に声をかけて受付を交代すると、自らは小走りにギルドの奥へと向かった。

 アリアの後をついて2階へと向かうジン。移動中のアリアはピリピリしていて話しかけずらい雰囲気だ。大人しくついていく。
 ジンが案内されたのは、二階の奥にある応接間らしきところだ。そしてこのまま座って待つように言うと、アリアは部屋の外へと出ていった。

 ジンが通されたそこは応接間といってもソファーと低いテーブルといった感じではなく、4人がけダイニングテーブルより気持ち大きい程度のテーブルと椅子があるシンプルなものだった。ただ壁にかけられた風景画などが応接間らしき雰囲気を出している。
 しかし残されたジンとしては落ち着かない。何かまずい事をしたかなと思いつつも、結局はなるようにしかならないと諦める。
 とりあえず誰が来るのかはわからないが、このまま座って待つというのはマナー的にないよなと、ジンは椅子から立ち上がって飾られている絵などを見ながら待つ事にした。

「待たせたな。まあ座れ」

 数分後、そう言ってアリアと共に現れたのはグレッグだった。
 意外な人物にジンは驚いたが、魔獣との戦闘だからグレッグ教官が来られたのかなと思いつつ、言われたとおり椅子に座った。

「アリアから聞いたが、マッドアントを倒したらしいな。詳しく話をしてくれ」

 いつもとは違う雰囲気に呑まれそうになりつつも、ジンは起こった出来事を話す事にした。

 森の中の採取地。現れた2匹のマッドアントと戦闘。
 そして追加で現れた20匹くらいの集団に囲まれてまた戦闘。
 何だかんだで追加も合わせて40匹くらい倒すと、マッドアントクイーンが現れ戦闘。
 それもなんとか倒して採取を行なって街に戻り、現在に至る。簡単に言えばそういう事だ。
 ジンは基本的に全て話したが、『パムの花』とマッドアントとの関係の推測等、自分のスキルが絡むところは話さなかった。

 ジンの話をこめかみをひくつかせながら聞いていたグレッグだったが、話がマッドアントクイーンに及んだときにはアリアも含め大きく反応した。
 そのままジンの話を最後まで黙って聞いていたグレッグだったが、話が終わるとおもむろに立ち上がってジンの前に立ち、次の瞬間にはその脳天に拳骨を叩き込んだ。

「この馬鹿もんが! 自分を過信してどうする!」

 頭に拳骨をくらったのは、中学生の頃に悪さをして先生からもらって以来だ。
 まさに目から火花が出る痛みに微妙な懐かしさを覚えつつ、ジンは思わず頭を押さえてうめく。しかしそんな事は当然とばかりに、グレッグの説教は続く。福源春

「いいか、お前は知らんだろうが、マッドアントは数十年に一度の周期で巣別れし、新しい群れが新天地を探して旅に出る。その数は、これまでの記録だと少ない場合でも100匹以上だ。お前が遭遇した群れが何故そんな少ない数だったかはわからんが、まずその時点でお前は運がよかったんだ。しかもいいか、あの蟻共は麻痺毒も持っているんだぞ。たまたま運良く麻痺毒をくらわなかったようだが、もし麻痺になったら1人ではその時点でほぼ詰みだ。だいたい3日前に冒険者になったばかりのお前が、20匹もの魔獣の群れに1人で戦うとか正気か? お前自分は死なないとでも思ってんのか? いいか、何度も言うぞ、お前は本当に運が良かっただけだ! この馬鹿もんが!」

 そう一気呵成にグレッグから説教を受けるジン。アリアもグレッグの後ろで、そうだそうだと言わんばかりに何度も頷いている。
 ジンも元から反省していた上に改めてグレッグに事実を突きつけられている為、より深く反省して神妙な面持ちで聞いている。

「もしお前がそこで死んでいたらどうなる? 誰も報告するものが居なくて、万一ギルドでその存在を把握できなかったら? あいつらはそこで巣作りをして数を増やしていただろうし、そうなればこの街にも影響が出たはずだ。だからお前は逃げていいんだ。いいか、それが…」

 それからもしばらくグレッグの説教は続いたが、ジンにとっては自分の浅薄さを再確認して反省する為のありがたい助言だ。しかもそれは、此方の身と将来を案じる気持ちから来ているのだ。ジンは心から反省しつつ、グレッグの話を拝聴した。

「いいか、お前は確かに普通のやつよりちょっとばかしステータスは高いし、物覚えも良い。だが、だからこそもっと慎重に行動しろ。いいな?」

「はい。ご心配をかけて申し訳ありません。今後もっと考えて行動します。ありがとうございました。」

 ジンはグレッグに深々と頭を下げた。
 グレッグの言葉の根底は此方への心配だ。ジンが感謝しないわけがない。

「アリアさんにもご心配をかけて、申し訳ありませんでした」

 そしてアリアにも向き直り、頭を下げる。そんなジンを見てアリアも言う。

「ジンさん。貴方が『パムの花』の為に体を張ってマッドアントに立ち向かったであろう事は想像がつきます。本当にありがとうございます。ですが、もしそのせいで貴方の身に何かあれば、私は泣いてしまうでしょう。勝手な言い草で申し訳ありませんが、私は何より貴方が無事戻ってきてくださった事が嬉しいのです」

 そういうアリアの様子は、本当に涙をこらえているかのように悲しげだった。 ジンは胸が締め付けられるような気持ちになり、もう一度深々と頭を下げた。 一方グレッグは驚いたような、でありながらどこか納得したような顔をアリアに向けていた。

 そうしてジンに対する説教という名の心配は終わり、3人とも椅子に腰掛けて今後の対応へと話は移った。

「まず今回のマッドアントの群れに関しては、ほぼ全滅と考えて良いだろう。女王がやられてるのに、他の蟻共が出てこないわけがないからな」

「調査の依頼はギルドから出しますか?」

「そうだな、生き残ったやつがいないかの確認と、出来れば何処から来たのか分かればいいんだが」

「では、ランクDもしくはCのパーティ推奨ということで宜しいですか?」

「そうだな、目的は探索のみに絞って、Dランク以上ということにしよう。最悪俺が指名依頼を出す」K-Y Jelly潤滑剤

 そうグレッグとアリアの話し合いが進むのをジンは黙って聞いていたが、一応の覚悟をもって口を開く。

「すいません。もしかしたら、蟻達は『パムの花』を狙っていた可能性があります。あの森にはもう『パムの花』はほとんどありませんでした」

「ふむ、そうか。アリア、うちと同じように『パムの花』が例年に比べて採れなくなっている地域があるか調べてみてくれ。もしかしたら、大まかな方角が分かるかも知れん」

「はい分かりました。他のギルド支部に連絡を取って確かめて見ます」

 何故そんな事がわかるのかと突っ込まれる事を覚悟していたジンだったが、何事もないかのようにスルーされて拍子抜けした気分になる。

「ふっ。お前が普通と違う事は分かっている。今回の件もそうだが、そうでもなければたった数時間で薬草を採取してくるなんて芸当が出来るわけがないだろう。だが別にその理由をいう必要はない。自分の情報を守るのは冒険者の基本だからな」

 無意識にジンは顔に出していたのだろう、そんなジンを見てグレッグが苦笑して言った。アリアも何でもないことのようにこちらを見て頷く。
 ジンは何だか変に身構えていた自分が恥ずかしくなり、そして2人の対応に嬉しくもなってしまう。

「あと、お前が回収した素材はこちらで一括して買い取っていい。ただ、この甲殻は良い防具の材料になるからな、いくつかは鍛冶屋に持ち込んで自分用に加工してもらうといいと思うぞ」

「はい。女王蟻の素材を持っていけば良いでしょうか?」

「おっとそうだったな。それを持っていけば問題ないどころか、かなり良いものができるだろうな。ああ、あと今回の件でお前の名前は大なり小なり冒険者連中にも知られるだろう。お前自身は言わないだろうが、こういった情報は広まるもんだからな。新米が1人でマッドアントの群れを倒したなんて話を信じるやつはそうは居ないだろうが、だからこそお前に変に絡んでくるやつも出るかも知れん。そういう奴らは適当にあしらって相手にするなよ。お前がもう少し地力をつければ、そんな奴らはすぐに黙るからな」

 確かに変に悪目立ちするのはジンにとって本意ではない。気をつけようと改めて思う。

「そうだ。明日で良いから神殿に行ってステータスを確認しておけ、まあ、カードを更新しても分かる話だがな。たぶん、レベルがだいぶ上がっているはずだ。上がったレベルにもよるが、今回の件でDランク程度のギルド貢献までなら特別に認めてやれるが、どうする?」

「いえ、普通にしてもらえれば、それで充分です」

 もしそうなれば今がFランクだから二段階UPになるが、ジンにそのつもりはない。
 今の自分は何もかも足りないので、一つ一つ確実に成長していくという考えだ。

「うむ。そうか」

 グレッグもその答えを期待していたのだろう、満足げに頷いた。曲美

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