2014年10月27日星期一

ジュリアスの初恋

それから、一週間が経過した。教室はいつも通りアリヴィが仕切っていて、以前の平和を取り戻している。教室の隅でイザベラは大人しくしているし、これで何も起こる気配はないと思っていた。巨人倍増

 その頃の私は、また初恋の人に再会することを想像して浮かれていたのだ。
 平和な日常の中で、恋の花が咲いた。私は毎日窓の外を眺めては澄恋を探している。彼に再会したのは『約一年ぶり』だ。はかなく散った恋心が、こんな所で返り咲くとは。澄恋には二度と会えないものと諦めていたのに。

 澄恋がこの異世界にいることは確信に近い。昨日見かけた彼は、人違いではないと考えているのだ。私がこちらに転生したのだから、澄恋もこちらに居ても変じゃないというのが私の考えだ。そう考えるのは、澄恋が――。

 魔法学の教室の中から澄恋を探している最中に、一人の軍警官が目に留まった。今日は、軍警官を校舎の中でも見かけた。一人二人なら警備なのだろう。けれども、学校内に溶け込むがごとく、ごく自然に多数の軍警官がうろついていた。
 一体、魔法学校に何の用だろう? 何かあったんだろうか?

「……シャ……リリーシャ!」
「えっ? な、何?」

 私は振り返って、目をぱちくりした。
 ジュリアスは半眼をこちらに向けて呆れ返っているし、クェンティンも苦笑している。

「さっきから呼んでるんだけど……」
「最近変だよな、どうしたんだ?」

 嬉しさで自然と笑みが浮かぶ。

「実は、昔好きだった人に会ったんだ~」

 自分の長い金髪を弄りながら告白すると、二人はキョトンとなった。
 そして、クェンティンの表情は次第に微苦笑に変化した。

「それはそれは……」

 クェンティンは複雑そうな笑み浮かべている。
 ジュリアスは、半眼のまま鼻でフンと笑い捨てた。

「それで、こないだから変なわけだ。でも、『昔』でしょ? 昔、好きだった人がどうしてベルカ王国にいるわけ?」
「さあ、でも私もいるし!」

 私は周りに分からないようにぼかして言った。いつの間にか、ジュリアスは私の事情を把握しているようだった。ジュリアスが言った昔とは、前世であり日本にいたことを示している。彼に知られたけれど、このことはもはや重要な問題ではないのだ。ジュリアスには何度も窮地を救ってもらったからだ。すでに私の信用を勝ち得ていることは言うまでもないだろう。

「へぇ?」
「ふーん?」

 クェンティンとジュリアスは面白くなさそうに相槌を打った。

「ジュリアス君やクェンティン君は初恋の人っていなかったの?」

 クェンティンが私を見て、寂しそうに笑った。

「俺は、リリーシャが初恋なんだけどな」
「ご、ごめん!」
「もういいって」

 また私はクェンティンの古傷をえぐってしまったようだ。なんて、私はバカなんだ。クェンティンはあんなにリリーシャの事を想っていたのに。そんなことを聞くのは今更なのに。

「ジュリアス君は?」
「……僕も昔いたよ?」

 ジュリアスは、私に対抗するかのように言った。彼は目を細めて私の反応を見ている。
 聞いて良いのだろうか。また、ジュリアスのペースに陥りそうな嫌な予感が。
 なかなか訊かない私に、ジュリアスがニヤッと笑った。

「聴きたい?」

 自分で話を振っておきながら、今更聞きたくないとは言えない。

「へ、へー。どんな子?」
「えーと、どんくさくて、バカで、泣き虫で……」

 それを聞いて私たちは笑い出した。

「シェイファーの好みって変わってるよな」
「うん」

 もしかすると、自分が頭が良くて運動神経が良いから、自分に無い物を求めるのかもしれない。それから、ジュリアスは私をじっと見つめた。VigRx

「それから、いつも幽霊に怯えていた子……かな」
「えっ!?」

 驚愕して私の心臓が高鳴った。
 どんくさくて、バカでというのは、聞き捨てならないが。いつも幽霊に怯えていた。それは、前世の私のことじゃないのか。
 でも、ジュリアスはその事を知らないはずだ。だとすると――。

「その子の名前って……!?」

 私は思わず身を乗り出した。
 ジュリアスは私から目線を外して、私の右手に付けている腕輪を指差した。

「その腕輪の持ち主だよ。昔のね。キャロルって言うんだ」
「きゃ……ろる……」

 肩透かしを食らった格好で、私は彼女の名前を呆然と呟いた。
 ジュリアスは、意地悪く微笑んでいる。

「どうしたの? もしかして、キャロルに嫉妬した?」
「違うよ! 私はただ」

 話の途中で、チャイムが鳴ってしまった。魔法学の教室にシャード先生が入ってきたので中断するしかない。

「席に付きなさい。授業を始める」

 シャード先生の厳格な声を受けて、生徒たちはすぐに着席した。いつも通り、私はジュリアスの横に座る。

 普段通りの魔法学の授業が始まった。けれども、ジュリアスからそんな話を聞いた私が、授業に集中できるはずがない。ジュリアスはもしかして、私と同じように日本から転生したのではないか。キャロルという名前がもし嘘なら、『いつも幽霊に怯えていた子』は誰なのか。

 私の頭はぐるぐると同じことばかりを考えていた。そして、私は授業そっちのけで腕輪を可視していたのだ。けれど、腕輪の残留思念はキャロルの事ばかりでなかなかジュリアスが出てこない。私は腕輪の残留思念の細かいところまで可視した。しつこく、執拗に。

 すると、やっとジュリアスとキャロルの残留思念を突き止めた。二人が仲睦まじく笑っている姿が見えた。

『キャロル、いつまでも一緒にいような』
『うん!』
『僕がずっと君を守るから』

 二人とも恋焦がれているような視線を絡ませていた。ジュリアスの言っていることは本当だったのだ。私の胸に小さな亀裂が入った。
 しかし、残留思念の細部まで見た私は、次の切り替えができなかった。止めておけばいいのにそのまま、残留思念を見続けてしまったのだ。

 次の場面になった時、キャロルは黒尽くめの連中に囲まれていた。

『何なの、貴方たち! 私をどうするつもりなの!?』

 逃げようとしたキャロルは、黒尽くめの一人に後ろから魔法弾を浴びせられた。

『きゃああああああ!』

 私は、キャロルが絶命する激痛と衝撃までもを感じ取ってしまったのだ。

「……ッ!」

 その痛みに耐えきれず、私は机に突っ伏した。筆記用具が机から転がり落ちて高い音を立てる。
 その音で周りがようやく私の異変に気づいたようだ。

「リリーシャ!?」

 その時の私は、目を回して倒れていたらしい。
 遠退く意識の中で、ジュリアスの動転した声が聞こえていた。

景山澄恋(かげやますみれ)



「フォーネは導きの女神。召喚すると、人の心を読み解くことが可能……と」
「でも、召喚するには、古代文字の長ったらしい呪文を詠唱しなきゃなんないんだろ?」
「俺たちじゃ無理だね!」

 放課後、私は医務室で古代魔法学の問題集を解いていた。内容は古代文字の読み方や、伝説の神話に至る。
 ジュリアスとクェンティンも問題集を解くのを手伝ってくれている。私の頭は使いすぎてオーバーヒート気味だ。
 データキューブ内の古代文字を読みすぎて目がチカチカする。

「これで、十ページ終了だぁ……」

 私はペンを置いてソファに凭もたれた。浜辺に打ち上げられた人形ようになっている。

「リリーシャ、お疲れ!」

 ジュリアスがデータキューブを閉じてくれた。
 クェンティンもノートをチェックしてくれている。五便宝

「うんうん、上出来だよ。ビートン先生も許してくださるんじゃないかな」
「ありがとう、クェンティン君」
「それにしても、これ、紙でできてるんだろ? すごいな」
「そうなの、良いでしょ?」

 クェンティン君は珍しそうにノートをパラパラとめくっている。このノートは、クレア先生が私のために用意してくれた特注品なのだ。そして、筆記用具のペンも。私が魔術を使えなくて、データキューブに入力することもできないから、クレア先生が気を使って買ってくださったのだ。

 突如、ゴロゴロと遠くで雷の音がしたので、私は驚いてソファから身を起こした。窓からは湿った土のにおいのする風が入ってきた。雨の気配だ。魔法灯の明かりがやけに眩まばゆく感じるのは、外が暗いからかもしれない。
 ジュリアスが窓を閉めている。風と外の音が遮断されて静かになった。

 私は席を立ち、窓際でカーテンを捲った。外は黒い雲が空を覆い始めていた。

「天気が悪くなってきたな」と、クェンティン。
「アリヴィさんの決闘、どうなったかな……?」

 一番気になるのは、アリヴィとイザベラの魔法勝負だ。嫌な予感がするのだけど、気のせいだろうか。もしアリヴィが負けたら、ファルコン組の平和はどうなってしまうんだろう。
 雨が降ってきたと同時に、誰かが医務室に駆け込んできた。

「失礼しまーす! あれ? クレア先生はいないの?」
「アリヴィさん!?」

 私の心配を払拭するように、アリヴィの調子は明るかった。しかし、アリヴィの髪はボサボサで泥まみれ。そして傷だらけだった。

「ああ、こんなのかすり傷よ! それにしっかり勝ったし!」

 アリヴィは私に向かってVサインした。

「ほ、ホント?」
「うん。完全に私の勝ち!」
「良かったぁ」

 私はほっと胸をなでおろした。
 私の言動を目の当たりにして、アリヴィは珍しい物を見た時のように笑った。

「何、あんた応援してくれてたの?」
「うん、勿論だよ!」

 アリヴィは驚いているが、やがて嬉しそうに微笑んで「……ありがと!」と言った。アリヴィの反応からすると、リリーシャの言葉とは考えられないことのようだ。相当、仲が悪かったらしい。ついには、アリヴィの鼻歌まで飛び出した。よほど、私の応援が嬉しかったらしい。

「じゃあ、俺クレア先生探してくるよ」
「うん、ありがと! ノースブルッグ、頼んだよ」

 アリヴィは一人、ソファに座って胡坐をかいている。
 見ていられなくなったのか、クェンティンはクレア先生を探しに医務室を出て行った。
 クェンティンの駆け足が遠のいて行った。

「リリーシャ、早く提出しないと、ビートン先生が帰ってしまうよ」
「あ! そうだった! じゃあ私は、問題集を提出しに行ってくる!」

 私はノートを閉じて、大事に抱きしめた。すると、ジュリアスが私の傍まで歩いてきた。

「僕もついて行くよ。目を放すと君はすぐに問題を起こすからね」
「むっ!」

 ジュリアスの言い方に私は腹を立てた。
 これでも、私は、日本にいた時は地味だったけれど良い生徒だったのだ。先生からも気に入られていたというのに。

「その言い方だと、私は問題児みたいだよね」

 怒ってジュリアスに告げると、ジュリアスとアリヴィは私をジト目で見て失笑した。

「違うんだ~?」と、アリヴィ。
「へぇ~?」

 ジュリアスの言い方までもが、どこか含みがある。三便宝カプセル

「う゛」

 確かに、私はこちらに来てから問題ばかり起こしているような……? その度に、ジュリアスたちに迷惑をかけていたような……? その事を、やっと思い出して自覚した。
 ついに私は、ぐうの音も出なくなってしまったのだった。

「失礼します」


 その頃、シャード先生の魔法学の教室に一人の青年が訪ねていた。
 シャードはその青年とは初対面だった。そして、思わず椅子から立ち上がったほど驚いていた。

「魔法研究所から参りましたが、今日はマクファーソンさんはいらっしゃらないみたいなんですが」
「あ、ああ。今日は出張で不在だ」
「そうですか。出直します……あの、私の顔に何かついていますか?」

 青年は苦笑している。シャードは自分がその青年を物珍しさのあまり凝視していたことをやっと自覚した。

「いや、失礼。ベルカ王国では珍しい目と髪の色だと思ってな」

 青年は黒髪と黒目を持っていたのだ。その上、優しそうな面持ちで柔和な印象を受ける。高等部の学生くらいで、まだシャードより十ほど若い。癒し系というのは彼のためにある言葉かもしれなかった。

「珍しい? ああ、私はこの国の生まれではないですからね」

 青年は納得して微笑んでいた。シャードも合点して頷いた。
 シャードはデータキューブを開いて、ペンで画面を突っついた。

「名前を聞いておこうか」
「景山澄恋かげやますみれです。澄恋景山って言った方が良いのかな?」
「澄恋景山だな」

 そして、シャードはマクファーソン先生に伝言するために、データキューブにメモを取るのだった。

 その頃、私はビートン先生の古代魔法学の教室から丁度出てきたところだった。
 問題集の答えを提出する際に、ビートン先生のお小言を百ぐらい聞いた。かいつまんで説明すると、先生は自分が責任を取らなければならなくなるということが一番重要な問題らしかった。遠回しに言っているが、どうもそう聞こえて仕方がないのだ。

「お、終わった……」

 教室から出てきた私は、イザベラと死闘を繰り広げたアリヴィと同じぐらいの気分だった。ボロ雑巾のようになって、よろよろと廊下の壁に手を付いた。

「お疲れ。あんな危険な場所に連れて行くビートン先生も先生だと思うけどね」

 廊下で待っていたジュリアスが、笑いながら声をかけてきた。

「聞いてたの?」
「廊下まで聞こえて来たよ。でも、リリーシャに何もなくてよかったよ。あの幽霊はイザベラの可視編成なのか、それとも――」

 ジュリアスが喋っているところで、足音がしたので私は何気なく後ろを振り返る。
 瞬間、私は後ろの人物に目がくぎ付けになった。
 ローヒールの靴音がスローモーションのようにゆっくりと聞こえる。

 黒髪が漆黒の瞳が、日本にいたころの記憶を呼び覚ます。短い黒髪は軽やかにふわふわと揺れている。睫は長く、雪のような肌で、中性的な顔。異世界の人と並んでも見劣りしない背の高さ。医者のような白衣を着て、颯爽と歩いている。蟻力神

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